※せっちゃんが猫を飼うことになりました
「せっ、せっ」
「刹那だ」
「せっちゃ、せっちゃ」
「刹那だ」
「せっちゃ、せつっ、せっちゃ」
「刹那だ」
「あんま苛めんなよ!」
座り込む自分に必死に抱きつこうとする少女を淡々と見つめるだけの刹那に思わずロックオンは声を上げた。ストールと掴んではずるずると刹那の小柄な身体を滑る少女、先ほど討論の結果ティエリアの案、リンという名前に決まった(猫)少女である。刹那のしかも一番小さな服を着せてみたもやはり肩の位置は大幅にずれるし、半袖のものだというのにリンの腕をすっぽり隠すこととなった。そんなわけでTシャツをワンピースのように着ているのでズボンやスカートは履いていない。ああ、犯罪の匂いがする、とロックオンが再び呟いた。
「せっちゃー、」
舌足らずなその声音で彼の名前を呼びながらなんとか肩に抱きついたリンはすりすりとその頬に同じく自分の頬を摺り寄せた。これがまだ16歳の少年だからいいものの、同じことをアレルヤにしていれば完全に犯罪の域に達するであろう。リンの身体を抱きかかえながら尻尾だの耳だのを撫でてやれば時折艶めかし声が漏れた。恐ろしや無自覚テクニシャン(←刹那のことである)
「まあ、兎に角今日から一週間休みでよかったね」
「ああ、スメラギ・李・ノリエガには感謝だ」
「あの微塵も驚いた様子を見せないところは最早プロだな」
「なんのだよ!」
そうして結局スメラギのところへ報告しに行ったあともこうして刹那宅に集まるマイスター4人。住居人の刹那はいいとして何故残り3人がついてくるかは勿論、リンのことである。だがせっかくまたこの部屋に集まったはいいが、肝心のリンが刹那から離れないのでは意味がなかった。何処かしょんぼりとするティエリアにアレルヤが苦笑を零した。
「せっちゃー」
「なんだ」
「んむー」
自分に向いた刹那の頬を両手で掴むとリンはその薄く開いた唇をぺろりと舐めあげた。驚きに固まる3人、目を丸くしてその行為を見つめる刹那、舌を一旦離すとリンはにっこりと微笑んで今度はその唇に噛み付いた。
「のわああ!!」
叫んだのはロックオン、いつの間にか気力負けした刹那を押し倒した状態のリンを抱き上げた。ぱちくりと瞬きを繰り返す刹那にため息を漏らしてリンを見やる。同じくきょとりと目を丸める少女は不思議そうにこげ茶色の耳がぴくぴくと動いていた。脇の下に手を突っ込んで抱え上げているロックオンの手首に長い尻尾が巻きつく。あ、やばい。
「ううう、うちの(純情少年)刹那になんてことを!」
「ちょ、ロックオン、落ち着いて…」
「見苦しいぞ、ロックオン・ストラトス」
「刹那はキスだってまだ知らないんだぞ!」
「いや、リンも知らないだろう」
「野生的な行動の一種じゃないの?」
「…びっくりした(ぼそり)」
「せっちゃー、せっちゃあー!」
「うわあ、ロックオン、犯罪者に見える」
「おま!仕方ないだろ!」
「うー」
「犯罪者だ」
「ティエリアー!」
じたばたと暴れまわるリンを、しかし押さえ込むのは容易だった。だがそれ故に押さえ込むロックオンがどうしてもそういう人に見えてしまうのは仕方ないことである。
「うわ、リンっ、暴れんなって」
「やーっ、やーっ」
更に強く暴れるリン。長身のロックオンが抱きかかえているのだから手を離してしまえばリンは何処か怪我をしてしまうだろう。そうすれば必ず刹那(というよりもエクシア)からの逆襲が計り知れない。だからせめて自分が屈んでしまわねば、と膝を折った瞬間ロックオンの手がリンの尻尾の根元に支えた。
「んうにゃっ、」
間。
突き刺さる3人分の視線を感じてロックオンは静かにリンを床に下ろした。
「せっちゃー」
とたとたと自分に駆け寄り抱きつくリンを宥めながら刹那はじろりとロックオンを見上げた。
「エクシアアア!」
「せっ、刹那っ!今のは不可抗力…」
「万死に値する…」
「いっ、痛っ、ティエリアガラスのコップは…」
「…ロックオン、さすがに駄目だよ」
「ええええええええ、アレルヤまで!」
「えくしあーえくしあー」
「リンも一々覚えなくていいから!」
そうしてマイスター3人からの攻撃にロックオンはその広くはない部屋の中を逃げ回った。
「ロックーティエ、あれうやー」
リンが3人の名前を覚えてしまうのも、時間の問題であった。
ドリーミングバルーン
(ふん、ロリコン!)←言いたかった(な、ティエリアが言うかよ!)(ロックオンロリコンー)(ロッリコン。)(ぶふううっ!)