君の理想は創造と破壊の境
「無理だよ」
目の前の少女は悲しそうな笑みのまま、しかし挑戦的な声色でそう言い放つ
「お前に何が言えるんだ」
「何も…でも、無理だよ、貴方にはできない、ルルーシュ」
薄暗いその空間では、相手の顔もよく見えない
しかし時折、の長い藍色の髪の毛が月明かりに照らされ、その美しさを魅せつける
「世界なんて、変わらない どんなにもがいたって、変わらないのよ」
のエメラルドの瞳は、暗闇の中でもしっかりとルルーシュを捉えている
「いや、変えてみせる この力で」
ルルーシュは左目をぐっと押さえる
―なんと言われようと構わない
この力で 世界を変える
はそっと微笑んだ
「世界は自分と平行に動いてる たった一人じゃあ変わりはしないけど、それも大人数になれば世界は動くわ
でもね、ルルーシュ、あなたの起こそうとするその理想では、世界は変わらないわ、決して」
「変わらない、か」
ルルーシュはふっと笑みを浮かべて、視線を下に泳がす
そしてきっとを見つめた
そのアメジストの瞳は、覚悟を決めているのを物語っているようで
「変わらなくても、俺が…―俺が変えてみせる」
その言葉に、は目を見開いた
「どんなにもがいたって、背伸びしたって、世界は変わらない なら、俺自身が変えていけばいい」
の視線はルルーシュを捕らえて離さない
否、離せなかった
はこの世にもうなにも望んではいなかった
絶望しきっていた
理解していたから
腐っている世の中には 何も望めない、何も見えない
だが、目の前の少年は何と言った?
変わらないのであれば、自身で変えてみせると言った
は無意識に震える掌をぎゅっと握った
「…どうして?」
「…」
「どうして、貴方はそこまでして世界を変えるの?」
の言葉はびぃんとその場に響いた
ルルーシュは目を伏せて、そして揺れるエメラルドの瞳を見つめる
「守るために…いや、幸せになってほしいんだ」
「し、あわせ…」
「もう、あの日みたいに…」
ルルーシュの脳裏にはあの日の事が浮かぶ
思い出したくなくても、引き戻されてしまう
真っ赤な血が
激しい銃音が
だからこそ、変えてみせる
「なら…壊して」
暫くの沈黙を破ったのはだった
微かに震えても聞こえるの言葉に、ルルーシュは眉を顰める
「壊してよ、全部 何もかも」
急に態度の変わったは、一歩、また一歩とルルーシュに近づく
「何も失くして、真っ白に戻して、一から全てを始めてよ、…そして―創って」
の言葉が意味するのを、ルルーシュは理解していた
「真っ白なキャンパスに、ルルーシュの理想を描いて」
進めた歩みにより、の姿は月明かりに照らされ、見えなかった細かな表情まで見えるようなった
その白い肌に反するようなエメラルドの瞳
瞳には僅かに涙が浮かんでいた
ピンク色の唇も、小さく震えている
「…変えて、みせて?」
すがる様な視線に、ルルーシュは頷くことしかできなかった
「ああ、俺が変えてみせる」
ぽろりとの瞳から涙が零れた
「その理想が、いつかあたしの理想と重なる時が来たら…」
はそっとルルーシュに近づき、そしてその唇に自身の唇を押し付ける
驚いて目を白黒させるルルーシュに、は小さく微笑んだ
「それが創造の始まりとなる」
君の理想は創造と破壊の境