小さな口喧嘩

しゅん、と自動で開く扉を抜け、すぐ横にある自身のベッドに横になろうとしたがそこには既に先客の姿
あからさまに不機嫌そうな顔をしたルルーシュは、どかり、と鞄を投げ捨てる
まるで自分のもののようにそこに陣取るC.Cは、すとルルーシュに視線を移すと一言

「おかえりルルーシュ、その眉間の皺、どうにかならないのか」

ルルーシュのこめかみがぴくりと引きつる
ルルーシュ・ランペルージとしての学業と、ゼロとしてのテロ活動の二重生活はさすがの彼にもきつい様で
今すぐにでも横になりたいルルーシュはそこに寝そべるC.Cに鋭い視線を投げた
だがそれすら顔色も変えず、平然とし続けるC.Cはある意味強者だ

「そこをどけ」
「まだ嫌だ、」
「お前、ここにいさせてもらっている分際で…!」
「そんなの知らん、ソファーにでも横になればいいだろう」

あれほどベッドの上で食べるなと言ったはずのピザの食べかすがベッドからぽろりと落ちたのだから、ルルーシュも眉を吊り上げる
どんな経路かは理解しがたいが、空気がいよいよ重くなってきたところで、しゅん、と扉が開いた

「あれ、ルルーシュおかえりー、帰ってたんだね?」

ラフな格好に身を包んだが勢い良く入ってきた
案外単純だった二人だから、空気があっという間にがらりと変わる

「最近遅いよねルルーシュ、さすが副会長様?」
「お前、たまには生徒会の仕事もしろよな、」
「してますよールルーシュの知らないところで」

にこにこと眩しい笑みを零しながら、ぽすん、とベッドに腰掛けたは、隣で寝そべるC.Cにも微笑みかける
そんなに同じように笑みを浮かべたC.Cは、少しだけ身体を動かし、その小さな頭をの膝の上に乗せた
少しも驚く様子の見せないは、かわいいー、などと呟きながらC.Cの頭を撫でる
勿論、故意の篭っていないはずのないC.Cはに見えないように、しかしルルーシュに勝ち誇った笑みを見せた

「…(この女)」
「(童貞坊やが…)」

再び音も光も無い火花が二人の間を散る
それにちっとも気づかないだが、ふと視線を横に投げる
するとの表情がみるみる強張っていくのが目に見えた
何事かとC.Cとルルーシュが視線の先を辿っていくと、其処にはC.Cの脱ぎ散らかした衣服が散らばっている
まさか、とは思ったが次にから漏れる言葉に、ルルーシュは呆れたため息をつくのだった

「なっ、ルルーシュ見ちゃ駄目でしょ!」

膝に乗っていたC.Cの頭など忘れてしまったのか、はばっ、と衣服を自分のほうに集める

「見ちゃ駄目って…何をだ」
「C.Cの服だよっ、まったく女の子のなんだからさ…」

C.Cが恐ろしいくらい黒く、勝ち誇った笑みを浮かべていた
きれそうになる理性を必死に保ち、ルルーシュはため息を漏らす
がしがしと頭を掻くと、諦めたルルーシュはどっかりと自身の椅子に座った

「そんな服いつにでも転がっているだろう、今更…」
「そ、そうなの!?なら尚更駄目でしょ、C.Cもルルーシュの部屋なんだからやたらに服をちらかさないようにさ…」

その言葉に、C.Cが少しだけ反応を見せる
ゆっくりと上半身だけ起き上がらせたC.Cは、滑り落ちるエメラルドの髪も無視して口元を緩める
魔女の笑み、というのが似合いそうな笑みだった

「は、ルルーシュなど男として見てないからな」

明らかにぴしり、と空気が固まった
さすがのの笑みも不自然に固まり、冷汗がたらり、と流れるのが見えた
当の本人、ルルーシュの表情は既に引きつるのを超えて、ふ、と緩んだのかのようにも見える
C.Cはしてやった、とでも言いたそうに上機嫌だった

「こちらだってそうだ、こんな女、女となど見てない、服など関係ない」

金色の瞳がす、と細められた
負けじとアメジストの瞳も細められる
間を挟む黒の瞳は、状況についていけず丸くなった

「…童貞坊やめ、悔しいのだろう?」
「馬鹿か、事実を言っているのに何処に悔しい、と思う必要がある」
「負け惜しみか」
「お前のはただの偏見だろう」

これ以上なく、お互いの声は低いものだった
まさか自分の行動でここまで二人が反応するとは思わなかったは、
慌てて二人の間に入ろうとするがふと思い出したように手を叩く
同時にピンポン、というインターホンの音が部屋に響いた

「誰だ、こんな時間に」

不機嫌そうなルルーシュな声で、はにっこりと笑みを零す
訳の分からないルルーシュとC.Cだが、ちょっと待ってて、と部屋を抜けるを呆然と見送る
数秒もせずに戻ってきたの手には、白く平べったい箱がひとつ
香ばしい匂いを漂わせるそれが、ピザだと気づくのに時間は掛からなかった

「あのね、ルルーシュの帰ってくるちょっと前に頼んでおいたの、お腹空いてるでしょう?」

確かに少ない昼食をとっただけで、膨大な仕事を任せられたルルーシュの身体は空腹を訴えている
同じように昼に食べたきり、なにも口にしていないC.Cもピザの匂いにつられた

「食べよっか」

空腹には勝てない二人は素直にそれに応じる
おかげで重苦しい部屋の空気もいつしか暖かいものに変わっていた
しかし数分後にはまた、ルルーシュとC.Cの些細な口喧嘩の始まる部屋からは、ピザのいい香りが漏れていた