好奇心とすれ違い
茶色の四方八方に跳ねている髪の毛
少しの水じゃへたらないあの髪の毛
「……」
周りのメンバーが他愛無い話に花を咲かせている間にも、一人黙々と書類を片付ける
はそんなスザクを飽きもせず、じ、と見つめていた
「…あのさ、」
とうとうその視線に我慢のできなくなったスザクはくるりと彼女に向き直る
はきょとん、としてスザクと視線を交えた
それを面白そうに見つめるのは、他でもない、我等が生徒会長ミレイだ
「僕の顔になんかついてる?」
「え?何そのありきたりな質問」
「いや、だって…」
きっぱりと返され、スザクは言葉を濁す
そんなスザクに、隣で優雅にも本に目をやるルルーシュが助け舟をだした
「何をお前はそんなにスザクを見てたんだ?」
「え?あー、柔らかそうな髪の毛だなーって思って」
思いもよらない発言に、ますますスザクの頭の上にはハテナマーク
ルルーシュの眉間の皺が一本多くなった
先ほどからそれを見物していたミレイは小さく噴出す
そのミレイの声に、リヴァルとシャーリーが二人に視線をやった
「…僕の髪の毛?」
「まあー、スザク君の髪の毛って相当柔らかそうよね」
「ですよね、会長っ、もうあたし気になって気になって…」
「何処に目をやってるんだ、お前は」
それでもの視線はスザクの髪の毛に注がれている
そうかなあ、と呑気に自分の髪の毛を弄くるスザクに、はいきおいよく立ち上がった
「スザクっ!」
「え、はいっ」
思わず敬語になっているのに、スザクは気づかない
「触っていいですかっ」
「は?」
「…ぶっ」
今度こそ、ミレイが盛大に噴出した
*
「あーいいなあ、男の子のくせにあんな柔らかい髪の毛」
相変わらずルルーシュのベッドを占領するC.Cの隣で、は小さくぼやく
「なんだ?髪の毛か?」
「うん、スザクの髪の毛さ、すっごい柔らかいんだって」
「そうか、十分の髪の毛も柔らかくて綺麗な髪の毛だと思うがな?私は好きだ」
そう言って彼女の髪の毛を一房掬ったC.Cに、は微かに頬を染める
一々の反応がかわいいとC.Cがほくそ微笑んでいると、漸く部屋の主が訪れた
「何やっているんだ、」
「あー、ルルーシュおかえり」
「なんだ、随分と遅いじゃないか」
つんけんと言い放つC.C.に、はそういえば、と時計に目をやる
予算整理が終わってすぐに帰ってきてしまったと比べ、一時間ほど遅い帰宅だ
首を傾げるに、ルルーシュは制服をハンガーにかけながら口を開いた
「今日、スザクが泊まりに来るから」
「へー…、ってええ?」
あっさり納得するものかと思いきや、やはりは声をあげた
軽くため息交じりのルルーシュは、最早部屋の中に異性がいるのを気にしなくなったのか
堂々とカッターシャツを脱ぎ捨て、私服に着替え始める
依然首をかしげたままのに漸く振り返ったルルーシュは、しかしC.Cに声を掛けた
「だから部屋を絶対出るなよ」
「はいはい、」
「それで?なんでスザク泊まりに来るの?」
わくわくと目を輝かせながら問うに、何処か不機嫌になるルルーシュ
すぐさまC.Cのふっ、という鼻で笑う声がルルーシュに届いた
「軍の風呂が壊れたとか言って、シャワーだけ貸してほしいって、」
「で、そのまま泊まりに発展したんですか」
軽く頷き、ルルーシュは部屋を出て行く
それを終始眺めていたは頬が緩んでいたのをC.Cが気づいた
彼が泊まりに来るのがよほど嬉しいのだろうか、
その感情がルルーシュの不機嫌の原因だということを知りもしないで
「…あまり、枢木スザクと仲良くしない方が得策だな」
「え?スザクと?」
「…、お前はもう少し周りを見たほうがいいぞ」
C.Cの不敵な笑みがの思考を更に絡ませていく
しかしルルーシュからの呼びかけでは部屋を出て行った
「久しぶりですわね、スザクさんとお食事だなんて」
可愛らしく笑みを浮かべるナナリーに、は大きく頷く
「ねー、スザク最近いっつも軍に呼び出されっぱなしだったもん」
「スザクさん、たまにはお身体に気をつけてくださいね」
「あはは、ありがとう」
へらり、と笑みを浮かべてスザクは頭をぽりぽりと掻いた
和やかな夕食時、しかし一人だけ笑みを見せながらも放つオーラがどす黒い
それに気づいているのも、一人だけ、
スザクはひっそりと冷汗をかきながら、ルルーシュに向き直る
「というか、ルルーシュごめんね、急に泊まりに来るだなんて」
「ああ、気にするなよ、ナナリーだって望んでいたんだし」
「はい、遠慮なさらないで下さい、スザクさん」
うんうん、とナナリーにあわせては頷く
居候、という身分をが完全に忘れた瞬間だった
しかしルルーシュの機嫌が悪いのは、そんなことではない
否、不機嫌な理由も、そんなこと、で片付けられそうなものだが
「ご馳走様、本当おいしかったよ、ありがとう」
「ああ、一々気にするなって」
「そんなわけにはいかないよ、あ、シャワー、先に借りてもいいかな?」
ようやく当初の目的を思い出すスザクに、
ルルーシュは頷きながら彼のタオルを取りに部屋を出る
食事の片づけをし終えたは、ナナリーと楽しそうに団欒中だ
するとスザクの視線に気づいたがぱぁ、と顔を明るくさせて視線を向ける
「スザク、シャワー浴びるの?」
「え、ああ、うん」
「ふーん、じゃあさ、出たらあたしに声掛けてくれない?」
「次、が入るの?なら先に…」
しかしスザクの言葉を遮り、は違う違う、と笑みを浮かべる
なら何故、と更にの言葉に首を傾げるスザク
其処へ丁度ルルーシュが白い大きなタオルを手に戻ってきた
「これでいいか?」
「うん、態々ありがとう」
タオルをルルーシュから受け取り、スザクは部屋から消える
今だナナリーと団欒中にに目をやったルルーシュは、何も言わず部屋を出た
ナナリーが楽しそうなところを見て満足なのか、に声は掛けなかった
「どうだ?枢木スザクとの団欒は」
部屋に戻るなり、独特の少女の声で出迎えられる
ルルーシュは微かに眉間に皺を寄せながらどかっと椅子に座った
「お前には関係ない」
「ふん、まあ別にいいがな、その眉間の皺どうにかしろ」
拘束着のまま自身のベッドに寝転がるC.Cは、ぴ、と指を指した
それを何処か不機嫌そうに見やったルルーシュに、C.Cは笑みを浮かべた
やはり、と呟き、C.Cは寝転ぶのを止め、体勢を整えるために起き上がる
「なんだ、が枢木スザクと仲睦まじいのはそんなに悔しいか」
「…馬鹿か、あいつは客だろ、とどう接しようと関係ない」
「それにしては随分機嫌が悪そうだが?」
「お前が此処にいることに腹を立てているだけだよ」
負けず嫌いだな、とほくそ微笑むC.C
すると急に足音が慌しく響いた
「あー、スザク出たの?」
どうやら声とその足音の主はだったらしく、スザクの元へ向かっているらしい
ますますルルーシュの機嫌は悪くなる一方だ
がバスタブに向かったのは何故なのだろう、
唐突にこみ上げる疑問に、C.Cの視線を感じながらもルルーシュは部屋を後にした
願望、というより最早野望だ
スザクが泊まりに来る、と聞き、は内心ガッツポーズをとった
理由は簡単、純粋に彼が来るのが嬉しい、というのもあるが大半は違う
「(って、ことはスザクのあの髪の毛をドライヤーで乾かせるかもしれないっ)」
虚しくもルルーシュと、スザクの想いは何処かすれ違っていたのだ
「(スザクもうあがっちゃったのか、)」
あがったら教えてくれ、と伝えたのに彼は何も告げずにTシャツとGパンというラフな格好で戻ってくる
女性に何処か奥手のスザクだから、シャワーを浴び終わりすぐにはに会えなかったのだろう
そんなことにも気づかず、は再びスザクをバスルームへと戻した
正確には洗面所にだが、
しかしルルーシュに洗面所だかバスタブだか、足音だけで区別はできない
もんもんと思いを募らせるルルーシュが其処へ来るまであと少し
「な、何するの、」
「んー?スザクの髪の毛乾かしたいんだ」
「…髪の毛ね」
「今日ずっと気になってて、だからスザクが泊まりに来るって聞いてすごく嬉しかったよ」
言われている言葉は嬉しいが、しかし本人にそんな意思はないのだろう
あくまでスザクの髪の毛に興味を示すだった
「うわースザクの髪の毛が下りてるの始めてみた、結構長いんだね」
「まあね、でもすぐ乾くよ?」
「いいのいいの、あたしが乾かしたいんだー」
鼻唄交じりでスザクを椅子に座らせ、はドライヤーを手に取る
すぐ後ろにを感じてしまい、何故かスザクが緊張していた
「…何やってるんだ」
其処へ漸く登場するルルーシュ
自分の想像とははるかにかけ離れたことをしている二人に、ルルーシュは思わずため息をつく
それはに向けてでもあり、自分に向けてでもある
ブォ、とドライヤーをスザクの髪の毛に当て、指を絡ませるは、すぐさまルルーシュに振り返る
そして満面の笑みで一言
「ルルーシュもシャワー浴びてきてよっ、そんで髪の毛乾かしてもいい?」
一瞬訪れる沈黙は、ドライヤーの音でかき消される
「は」
「ね?別にいいでしょ?ほらほら早くシャワー浴びてきて」
すぐ隣で二人も人間がいるのにシャワーを浴びれるだろうか
まあ、このクラブハウスはバスタブと洗面が一緒になっているのではないから安心だが
とルルーシュの思考は本来とは少しずれて絡まっていく
相変わらず笑みのままのは、スザクの柔らかい髪の毛を指に絡ませ上機嫌だ
「(ルルーシュの髪質もすごくいいし、楽しみだなあ)」
やはり三人の思いは何処かすれ違いながら進むのであった
好奇心とすれ違い
、楽しい?
うんっ、すごく気持ちいいよ、あ、ルルーシュ早く浴びてきてね
お前、乾かす気満々だな
減るもんじゃないし、いいでしょ?
(利点が分からない)