感情のアインストール
「…っ!」
一番奥深いところでその熱い熱い欲が飛び散った。
どろどろと内壁にへばりつくそれに嫌悪感を抱きながらも、漸く愛の見えない行為が終わったのだと何処か安堵感も抱いた。
ぐぷぐぷと厭らしい音を立てて引き抜かれる。
栓を失った其処はたちまち注ぎ込まれた白濁液をくぷりと溢れさせ、はその言葉にならないほどの気持ち悪さに眉を寄せた。
太腿を伝う彼の放った欲、ぎりぎりと握り締められた腕首が痛い。
そうして行為が終わったその途端、氷よりも冷たい翡翠が此方を射抜くように向けられているのに気が付いた。
「ほら、終わったよ、」
終わったよ、なんて、白々しい言葉だと思った。
こんな愛のない行為、否、彼の性欲処理のために毎晩揺さぶられて、涙を零して。
痛いと言って、やめてくれたことはなかった。
「…っ、ぅ」
上体を少し起こしたところで腰に響く激痛。
今日は普段よりも慣らされずにいれられた為か、行為中、鉄の匂いを感じた。
裂けたのだと、分かったところで彼が行為を中断してくれるはずもなく、真っ白なシーツに淫らな白いそれと紅い斑点を見つける。
「早く出て行ってくれ」
覆いかぶさっていたスザクはふとセミダブルの大きなベッドの端へと移動し、背中を向けた。
じわり。滲む涙を感じながらも剥ぎ取られた自身の服を手に取り急いで身に着ける。
彼はいつもこうだった、自分の私利私欲であたしを性欲処理の道具として扱った後、労わる様子も見せずに突き放す。
最初のうちは、あまりの冷徹さに言葉さえ出なかったものの、やはり慣れとは恐ろしいもので、今は僅かに涙が滲む程度である。
乱暴に剥ぎ取られたためか、裾の破けている服を見ても、それでも何も言わない、何も思わない。
下着を身に着け、ワイシャツを羽織る。
相変わらず彼はあたしに背中を向けたまま横になっていた。
「…った…、」
スカートを着ようと急いで腰を屈めた所為で激痛が襲い、思わず蹲った。
痛い痛い痛い、注ぎ込まれた白濁液が逆流してくるような錯覚に襲われ、あまりの嫌悪感に違う涙が零れた。
「…っく、ふ、…っ」
零れた涙は止まってくれなかった。
それはこの行為への悲しみか、激痛によるものか、それとも。
一度溢れた涙を必死に押し殺そうとして、逆に嗚咽が漏れる。
駄目だ、彼に気付かれてしまう。
涙が滲む程度ならまだしも、今だ部屋にいる状態で嗚咽を漏らして泣いているなど彼に知られては駄目だ。
必死に唇を噛み締めて、そしてできるだけ急いで服を身に着ける。
指先が震える所為で釦が留まらない。
は、と視線を上げた。
「泣いてるの?」
「…っ、」
見られた、感づかれた。
僅かに顔を向け、氷の翡翠が此方を睨むように向けられている。
ぶんぶんと首を横に振って、拳を握り締めた。
「なに、泣いて同情してほしいってこと?もっと優しくしてほしいってこと?…やな女。本当意地の悪い女だ」
息ができないほど胸が詰まって、心臓を鷲づかみにされたような痛みを感じる。
今だきちんと着れない服装をそのままに、無理やり立ち上がった。
痛みよりも、苦しかった。
「…」
漸く部屋を出れたところで、限界だった。
膝が折れ、その場に蹲る。
溢れては止まらない涙に従って泣いた。
(…るるーしゅ)
世界に光はないのだ、あたしは知ってる、絶望の黒ほど美しいものはないと。
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