起きてよ、眠り姫!

「眠い」

真っ白なシーツに散らばる栗色の絹糸。
白い頬はふっくらと、今すぐにでも触れたいほど、艶やかで滑らかで。
その栗色を引っ張ってしまわないように耳のすぐ下に手を着いて、今にも事に及びそうになる、その瞬間であった。

「駄目だ、スザク、眠い」

ぽつりと、瞳を細めて彼女は呟いた。
しぱしぱと今にも閉じられそうな瞼の間から覗く黒い瞳は、通常こんな状況ならば恥ずかしげに僅かに色を濃くするのに今はとろん、と溶けてしまいそうだ。
僕は暫し言葉を失って、眼下のを見つめる。
その間も、気だるそうに数回身体を捩ってまどろみの波に溺れそうになる
第三ボタンまで開けられたシャツの隙間に見える真っ白な肌を視界に入れて僕ははっとした。

「な、何言って」

「んー、最近全然、寝れて、なくて…、…ねむい」

ふう、と漏らされた吐息に哀しくも下半身が疼くも依然、はうっすらと此方を見ているのかも定かではないほど瞳が閉じられていっている。
まさか、そんな、絶句した。
此処最近仕事で忙しくて会いたくても会えなかったすれ違いの日々を送ってきて、ついに今日、予定がついたと聞かされ真っ先に飛んできたというのに。
暫しお茶を楽しみ、他愛のない会話を繰り広げて、そうして僕がをベッドにやんわり押し倒した瞬間の言葉だ。
が忙しかったのは知っている、此処のところ黒の騎士団の動きが激しかったからだ。
だけど、正直言って僕も大変だった。
会いたくて会いたくて、でも自分はあくまでもナイトオブラウンズ、そう簡単に彼女に会えるわけもなく毎日毎日の素肌の感触を思い出しては枕を濡らしていたというのに…!
なんだこれは。

、頼むよ、

「…う、ん」

うん、と言っている割に既に瞳は閉じられて語尾も曖昧だ。
やばい、は本格的に寝る気なのだろう。
思わずシャツの間から手を差し込もうとすると急にぐん、と身体が傾いた。
そうして目の前に見える真っ白なシーツ、耳元を擽る柔らかな髪の毛。
僕の首筋にの腕がある辺り、彼女が僕を思いっきり引いたのだろう。
その所為で僕はに体重を掛けないようにと、それでも上体を起こすわけにもいかず、顔だけをベッドに沈め四つん這いで固まっている状態だ、実に恥ずかしい。
耳にこそばゆい感覚、熱い吐息が吹き込まれた。

「ね、スザク、今度、してあげるから、…今日は、む、り」

首に回っていた腕から力が抜けた。
そろそろと顔を上げれば至近距離に見える、の寝顔。
…寝顔?

!?」

小さく寝息を立てるが起きる様子など微塵もないのが現実である。
僕は大きくため息をついて、肩を落とした。

「…ー」

柔らかな頬を突いてみる、起きない、当たり前だ。
そうしてもう一度大きくため息をついて僕は小さくなって睡眠をとるの横に横になる。
彼女が起きた暁には声が枯れるまで啼かせてやる、僕は一人そう思惟した。
しかしそう決意した手前、気持ちよく眠りに着くに安易に手出しが出来ない。
ただその薄く開いた唇を頂くだけにしよう。
一人満足気に微笑んで、僕はそっとキスを落とした。



(おーいスザクーって…、な、何してんだこいつ!)(…寝てる、…二人とも、馬鹿面)(な、なんでと一緒に…!)(男女が一緒に寝るなんて、やることはひとつ)(なっ、えっ、えー!?)(ジノうるさい…記録)