絶好のサボりスポット


「あーあ、軍人さんがサボりなんてしていいんですか?」

睡魔の襲うまどろみの中で降り掛かった声に僕はうっすらと瞳を開く。
目の前には真っ青な空をバックに、僕の顔を覗き込む一人の少女。
彼女は僕が自分と視線が合ったのを確認するとくすり、と笑みを溢した。
思わず僕は慌てて上体を起こした。

「へ?」

「おはよーございます」

にっこりと再び笑みを見せた彼女は手ぶららしく、ゆっくりと僕の隣に腰を下ろした。
それにしても僕はいつの間に寝てしまったのだろう。
教室にいては視線が痛くまるで集中できないので昨日見つけた此処で数学の復習をしながら寝てしまっただなんてさながら軍人として恥ずかしい。
はあ、と無意識に零れたため息に気付いたのか彼女が口を開く。

「気持ちいいですよね、此処」

「あ、はい」

「あれですか?軍人さんでもやっぱりサボりは必要なんですかね?」

掛けられた声にとりあえず返答する。
その後に続く言葉に彼女に故意はないんだろうけど思わず右手にある数学の教科書を見せた。

「…す、数学の復習してたんです」

「復習?あー、さすがに偉いですね!でもわざわざ此処に?」

「教室はやりにくいので」

喋ったことも見たこともない彼女は次から次へと会話を繰り広げる。
他の生徒にあまりよく思われてない僕としてはそれは図らずも嬉しいことではあるが。
彼女こそなんでこんな所にいるんだろう。
裏庭の更に奥にある此処は滅多に人が通らないのだ。

「教室はうるさいですからね、私も教室は好きじゃないです」

「はあ」

「でも枢木君って結構頭いいですよね?」

「え?」

「ほら、このあいだのテスト、先生が色々言ってました」

僕の疑問符はどっちかっていうと僕の名前を知ってたことにあるのだけれど。
まあこの学園で僕のことを知らないって人の方が少ないかもしれない。(決していい意味ではなくて)
そんなことを考えながらも彼女は話し続ける。

「でもまさか枢木君がいるとは思わなかったなあ」

「え?僕が?」

うん、と頷く彼女は口元だけ笑ってみせる。
それが先ほど見せた笑みより少々大人びて見えて目を奪われた。

「此処ね、私のサボり場所なんです」

得意気にそう言ってみせる彼女に僕は間髪いれずにサボり?と突っ込んでしまった。

「はい、暖かいし木陰もあるし、すごい気持ちいいでしょう?だから此処、私のサボり場所なんですよ」

嬉しそうに言ってみせてもサボりって。
いいのか、それ。

「枢木君の寝てたところ、私の特等席なんですよねえ」

「え、そうなの?ごめん」

言われて素直に謝れば、だけと彼女は笑顔のまま首を横に振る。

「いーですよ、今日は私の特等席特別に枢木君に譲ります!」

そう言いながら彼女はいきおいよく立ち上がる。
くるり、と顔をこちらに向けると最後にもう一度満面の笑みを見せた。
ふ、と終始笑顔なんだな、と何処か感心にも似た感情を抱く。

「じゃ、代わりのサボり場所探してきますね!枢木君、復習頑張ってください!」

小さくひらりと手を振った彼女はそのまま裏庭に続く道を行く。
不思議な人だなあ、なんてぼうと考えていると、ようやく大切なことに僕は気付いた。

「(名前聞いてないや)」

できれは彼女みたいな人と友達になりたい。
なんて柄にもないことを考えつつ透き通るような白い肌と毛先が少し跳ねた髪の毛が印象的だった彼女のことをルルーシュに聞いてみようと一人思い描く。
いや、それよりも明日また此処へ来れば会えるかもしれない。

そんなことを考えていたらいつの間にか数学の復習なんてやらずに僕はしっかりと3限目をサボってしまっていた。

絶好のサボりスポット

(ああ、また会いたいな)