間違えたのはだれ

あたしは彼が大好きだった

正義感が人一倍強いところも、不器用な優しさをくれるところも、自分の意思が強いところも、全部全部大好きで憧れだった
だからブリタニアが攻め込んできた時も、日本がブリタニアに支配された時も、いなくなってしまった彼を想ってあたしは今日まで必死に生きてきた
日本人だからといって罵られようと、何をされてもあたしは挫けなかった
スザクの強い意志を信じて、黒の騎士団に入ろうと誘われてもあたしは決して彼らみたいな卑怯な真似はしなくないと断った

彼が大好きだった
スザクが大好きだった

何処かこの空の続く向こうに必ずスザクがいると信じて、あたしは生きた。

そしてスザクを見つけたのはついこの間のこと。
最悪の結果で。
最悪の条件だった。

「騎士…?」

彼はブリタニア軍人だった。
そしてユーフェミアの騎士になった。

襲うのは、裏切られたという絶望感と悲しみだけ。
頬を伝う涙は冷たかった。

だけど時はあたしなんて忘れたかのように刻々と進み続け、ユーフェミアは死に、ブリタニアと黒の騎士団の戦いまで始まってしまった。
あたしは何をできるわけでもなく、ただその戦いが終わるのを見守ることしか出来なかった。
何も、望めなかった。
見えるのは暗闇だけで。
悲しい、とは最早感じられなかった。

だから今、こうやってあたしの前にいる人物にだって、何も感情は湧かない。

「…す、ざく」

どうやって、どうして、何故、今、あたしの前にこの男がいるのかなんて分かるはずはなかった。
何処か悲しげにあたしを見つめたまま佇んでる彼は、紛れもなく、ずっと探し続けていたスザクだった。

「…

名前を呼ばれてはっとした。

「久しぶり」

ずっと、ずっと、聞きたかった声。
ずっと、ずっと見たかったその顔。
ずっと、ずっと、

好きだったのに

「どうして…」

「ごめんね、まさかがこっちにいるだなんて思わなくて…会えるのが、こんなにも遅く…」

「違うよ、」

違うよ、スザク。
あたしが聞きたいのはそんなことじゃないんだよ。

「スザクは、あたしを裏切ったの?」

瞬間、スザクの表情が強張ったのが分かる。
風の便り、とでもいうのだろうか、あたしは知っているよ。
スザクが軍人なのも、騎士だったことも、そして今。

「違うんだ、

「違くない、スザクは裏切ったんだよね、あたしを、日本人を」

不思議と涙は出てこない。
白昼の最中、ブリタニアに支配された近代的な街中であたしたちは少しの距離を置いたまま会話している。
傍から見れば、滑稽な光景。
それでもあたしには、暗闇しか見えない。

「聞いて、、僕は」

いつの間にか目の前にいたスザクに腕を掴まれる。
刹那あたしは言いようもない感情に飲まれ、思い切りその腕を振り払った。

「触らないで!裏切り者!」

スザクの顔が分かりやすく歪む。
それは悲しみとかそういう悲痛な表情に歪んでいくようで。
だけど彼はあたしの気持ちなど知らないだろう。
裏切られたこの絶望感、探し続けた空虚感。

…!」

「また、またあたしを裏切るの?スザクは…聞いたよ、皇帝の狗に成り下がったんだって?」

機関銃のように、彼を非難する言葉が口から漏れる。
こんなにも愛して憧れて大切な存在だったスザクが遠い。

「日本人の、スザクの誇りは何処にいったの?」

あたしの太陽のようなスザクの誇り。

「どうしてブリタニアなんかに寝返ったの?」

辛い時だってスザクを想って必死に生きてきた。

「あたしは、スザクの何だったの?」

なんでこんな形でしか会えなかったの。
あんなにも愛していたスザクをどうして非難しているの。
あたしの時間が止まったあの時からずっと、スザクだけを想っていたのに。

…、僕はずっと」

ずっと待っていたよ。
あたしの名前を呼んでくれることを。
あたしのことを抱きしめてくれることを。
またあの時みたいに笑顔で過ごす日々を。

「…どうしてなの?こんなにも、好きなのに」

そして漸く頬に暖かいものが伝った。

もう訪れることは無いんだね、スザクと過ごせる日々は。
あたしはゆっくりと身体を反転させてきた道を戻っていく。
色んな人の視線を感じたけど、だけどそんなのなんの気休めにさえならなかった。
スザクがあたしを呼ぶ声だって、もう届かないよ。
7年間経つと人は、誇りも愛情も忘れてしまうものなのかな。
あたしのスザクへの感情は何一つ色褪せてなどいないのに。

帰る場所も無いあたしは彷徨うように廃墟へと足を進める。
そして差し伸べられた手。

「貴方は…ゼロ?」

見慣れすぎたその仮面の男性。
決して黒の騎士団のような手段は選びたくはないと、昨日まで誓ったあたしの契れはたやすくも崩れる。

「私についてくるといい」

その言葉に頷く。
もう、あたしも彼も後戻りする術などない。
だから過ぎし日々のあの小さな思い出はきっとささやかな運命の序章に過ぎなかったのだろう。

嗚呼、だけれどもこんなにも君のことが愛しい。
さようならさえ、言えずに。

間違えたのはだれ

(生まれ変わることが出来たならもう一度だけ君と)