My breath for you.



手に入れた、やっと、やっと。今まで蚊帳の外で首輪をつけて放してやっていたけど、もうそんな生温いのは、いらないよね。僕の檻の中に閉じ込めてあげる。



「それじゃあ、行って来るね」

を僕の部屋に閉じ込めてから、2週間が経った。学園には病欠ってことで休ませて貰っている。実際あの日からはこの部屋から出していない。毎晩毎晩の行為によって逃げる気力さえ消えうせてしまったのだろうか。ある日は立たせたまま、ある日は無理やり連れ込んだ風呂の中で、ある日は文字通り夜中から朝まで一度も抜かずに、ある日は殴って黙らせて、僕は好きなだけを抱いた。は毎晩泣くだけで、3日経った頃から抵抗はしなくなった。ただ行為が終わると、ぼろぼろと涙を零してそのまま何も言わずに眠ってしまう。最近の声を聞いていない。行為中の嬌声や泣いているときに漏れる嗚咽は除いて、だ。今日も僕は部屋に眠ったままのを残して学園と軍に向かう。ジノやアーニャからの不在について何度か訪ねられたけど僕は知らない、とだけ言った。結局誰もの住まいを知らないから、誰もが此処にいることなんて知らないのだ。部屋を出ると、空は落ちてきそうなほどの晴天だった。



「あれま、今日もってば休みなの?」

一度軍に向かってから仕事がなかったために僕は学園に顔を出した。何気なく生徒会室を覗けば其処にはおなじみのメンバーが揃っていて、僕の姿を見た瞬間会長はそう呟いた。

「やー、ってばいつもスザクのすぐ後に顔覗かせるからさ!それにしても長いわねー、風邪かしら?」

「あいつが風邪なんて珍しいですけどね」

本を白魚のような指で捲るルルーシュは僅か僕を見てそう告げた。それからえー、と不満そうに声を漏らすリヴァルとシャーリー。アーニャはその朱色の瞳を僕に向けてから端末を弄った。そして何処にいたのか、急に背中に重みを感じて顔だけ向けば、其処に見えた金髪にうんざりした。こいつが勝手に僕のにキスなんかしてくれたのだ。それでも少しだけ面倒くさそうな顔をして同僚の名を呼ぶ。

「ジノ、重い」

「今日も休みなのかよー最近軍にも顔出してないって言うしさあー」

その言葉にルルーシュの眉間に皺が増えたのは気のせいだろうか。でもが来ようと来まいと彼らには関係ない。僕はその場を曖昧に濁すだけで来週に控える学園祭の書類を二、三枚手にとって椅子に座った。椅子に座ってから、正面に座るアーニャの肩越しにひとつの桃色のノートを見つけた。確かのノートだったような。僕の視線に気付いたアーニャが一度顔をノートに向けてから一言呟く。

のノートのこと」

「あ、やっぱりの?」

その言葉を聞いた瞬間、ジノは顔を青くしてそのノートを手に取った。そしてわざとらしく背中に隠して引きつったような笑みを浮かべる。刹那、どろりとした何かが僕の心臓を伝った。何を、隠しているのだろう。リヴァルを見れば彼も彼でふい、とへたくそにそっぽを向いて、シャーリーも似たような反応だった。。会長も同じで、唯一ため息をついただけのルルーシュは肩を竦めて、しかし何も言わなかった。苛々した。ぎろりとジノを見えば慌てて彼はアーニャを見る。アーニャは表情を一つ出さずに僕に振り向いた。

「…言えばいい」

「えっ、まだ駄目よ!」

「別に構わないだろ、当の本人もずっと学校休んでるし、それも当日来るかも分からないし」

慌てたシャーリーの声に上乗せしてルルーシュは再びため息をついた。視線を合わせるリヴァルとシャーリー。ジノは眉をへの字にして降参の意を手で表した。

「…スザクの、誕生日パーティーだよ」

「…え?」

がえーと…2週間前くらいからやろうって」

ジノがノートを僕に渡した。ぺらりと表紙を捲れば日時から準備に至るまでの様々な事柄が事細かに綴られている。

「もう言っちゃうけどね、あの子スザクの誕生日パーティーすっごい楽しみにしてたのよ、まず発案者ってこともあるけど、毎日毎日結構遅くまで此処に残ってたらしいわよ」

僕は気付いた、ああ、だから夜ご飯作りに来てくれるのだって丁度あの頃から遅くなったんだ。

「俺達も手伝ってあげてたんだぜ?がはりきってたしなー、スザクがいない昼休みとかさ」

ジノはにこやかにそう告げた。頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。

「それにしてもスザク君は幸せ者だよねえ、もうってばスザク、スザクーしか言わないんだから」

シャーリーの言葉が更に心臓を抉った。は知っていたのだ、僕が色んな女を連れ込んでその際に毎回毎回抱いてやっていたのを。なのには、こんなにも僕を想ってくれたというのか。こんなにはりきって僕の誕生日パーティーまで主催して。もう随分と見ていないの笑顔が脳裏に過ぎった。

「スザクーあんたももっと大切にしてやんなきゃ駄目よー?あんたがご飯ちゃんと食べてないって私にいっつも料理のレシピ聞いてくるのよ」

「俺も何度か押しかけられたな、あいつ包丁もまともに使えないから参ったよ」

嘘だ、は僕の部屋に来るたび料理のレパートリーを増やしていって、その腕前はきっとルルーシュに負けず劣らずなはずだ。手馴れた手つきで包丁を握って、数分待てばまるでお店に並んでるような料理が出されて。食べてる最中、ずっと嬉しそうに僕を見るんだ。

「それに最近あんた放っていたでしょ?あの子寂しそうだったわよー此処に来てもぽつんと一人でせっせと誕生日パーティーの準備してるだけだったし」

「スザクの誕生日もうあさってだろ?まったくいつまで休んでるんだろうな」

「あたし、ほんとうに、ただ、すざく、が、すき、なのに…」

リヴァルが唇を尖らせて呟いたのを合図に僕は立ち上がった。驚いて僕を見る会長に、用を思い出した、とそんなありきたりな嘘をついて生徒会室を飛び出した。アーニャが何か言っていたような気がするけど無視した。兎に角に会わなければいけないような気がした。せっかく来たばかりだというのに僕は早々と学園を出て自分の部屋を目指した。厳重にロックされたロックを外す時間がもどかしかった。勢い良く開いた扉の奥で薄暗い部屋にが転がっていた。昨晩と同じ、黒い布で目を覆われたままおざなりに着せた下着姿で両手を後ろに縛られた状態のままうつ伏せの状態で床に転がっていた。どたどたと走り寄っても起きないほど疲れていたのだろう。あれからまともに食べ物さえ食べてくれない所為での剥き出しの二の腕や太腿は柔らかさを失っていた。昨晩の行為のまま、(無論後処理は僕がやったが)胸元から背中まで真っ赤な鬱血痕が青白いの肌に映えていて、所々に見える殴った所為でできた痣が見えた。



いつも帰ってきても起きない場合は無理やりに髪の毛を引っ張ったりお腹を蹴ったりして起こしていた自分が、情けなかった。うつ伏せ状態の彼女を優しく抱き起こして腕と目隠しを解いた。それから赤く腫れた頬を優しく撫でてやればはゆっくり瞳をこじ開けた。そして僕の瞳を暫し見つめてから大袈裟に肩を揺らして途端に小さく震え始めた。これが、僕の作ってしまった罪。怯える冷たい彼女の細い身体を見るのは辛かった。喉がかすれてしまって、言いたいことが言えない。もどかしかった。

「…ごめんね、ごめん、ごめんね…」

は目を見開いて僕を見た。

「す、ざ」

久しぶりに聞いたの声は驚くほど弱弱しいもので、苦しくなる。僕は一体今まで何をしていたんだろう。好き放題に女性を抱いて、そしてをただの所有物だと勘違いして、苦しめて、痛めつけて、閉じ込めて。は本当に僕を愛してくれていたんだ。どうして気付けなかったんだろう、疲れてそれでも僕のためにご飯を作りに来てくれるに、僕の醜態に知らないふりをしてくれたに、最後まで僕を愛してくれていたに。僕は何故気付けなかったんだろう。僕がどんなに女性を連れ込んで抱いても、は笑ってくれていた。何故その笑顔が泣きそうなものだと、気付いてあげられなかったんだろう。どうしてここまで愛してくれるを、僕は少しでも邪険に感じたんだろう。

「な、…んで…、」

「ごめんね、っ、ごめんね」

衰弱してしまった身体を強く抱きこんだ。は抵抗もせずに僕の言葉を、静かに聞いた。

「…僕の、誕生日パーティー、が言ったんだろ?」

「…、あ、バレちゃったん、だ…、ほんとうはね、スザクには、内緒にしておこうって、みんなに言ったんだけど…」

弱弱しくは微笑んだ。なんで笑っていられるんだろうか、こんなにひどくして、殴って、労わってなんかやってないのに。腕の中のを見ればそっと僕の頬に手を当てた。

「…怖くて、言えなかった、…ごめんね、スザク、あたし、スザクの、邪魔ばっかりして…、でも、スザクが、他の女の子と、寝てるのが、…っ、苦しかった」

「…」

「スザク、優しいから、言葉じゃ、伝えれなかったんだよね、ごめんね…あたし、は、スザク、好きだから」

微笑んだ、少女に、僕の世界の色が、変わった。(「ううん、あたしが来たくて来てるんだし、気にしないで」「スザクーできたよ」「今日ね、あたし、ジノとキスしちゃった」)ごめんね、、やっと、気付けたよ。僕は、怖かったのかもしれない。どこまでも綺麗だった君が消えてしまう恐怖が。他の女を抱いて、少しでもその気を紛らわそうとして。だけど結局行き着いたのは、不器用な愛し方だけだった。

「ごめんね、僕も、が好きだよ」

は驚いたように僕を見た。行為中に唱えるように呟いていた愛の言葉は、やっぱりには届いていなかった。確かめるようにもう一度告げると、は泣いて紅く腫れた目じりに僅か涙を溜めて僕を見た。

「…ほんとに?」

「本当だよ、、愛してる」

は此処に来て初めて痛みと苦しみ以外で涙を零した。綺麗な粒だと思った。
はそろそろと腕を伸ばして僕の首にしがみ付いた。漏れる嗚咽が、聞こえる僕の名前が、初めて僕の心どろどろの心を満たした。

My breath for you.
(あなたのための、わたしの呼吸)