始まりを告げる何か

襲い来る苛立ち、
手の届かない空虚感、
ナナリーが、いない

「ランペルージさん」

ふと呼ばれて振り返ればそこには小柄な少女。
勿論此処がアッシュフォード学園内ということも、彼女が身に付けている高等部の制服を見ても額園内の生徒だということだけは分かる。
随分と幼い顔立ちで今年高等部に入ったばかりなのだろう。

「えと…?」

ともあれ、彼女が誰なのかさっぱり分からない。
ルルーシュは振り返るだけ振り返って首をかしげた。

「ちょっと一緒に来ていただけませんか」

顔に似合わず落ち着いた声。
大きな薄茶色の瞳が此方を向いている。
此処では話せないことなのか、俗にいう告白か何かか。
自慢ではないけれどルルーシュはその端正な顔立ちゆえ見たことも無いような女子生徒から告白を受けることが多い。
今はそんなことをされている場合ではないのに。
ナナリーを一刻も早く見つけ出して、あの偽りの弟をどうにかしなければならないのに。
それでも断る理由としてルルーシュが彼女に言えることなどないため、素直に頷いた。

「ありがとうございます」

彼女は微かに廊下の天井を気にして裏庭へ続く道を行く。
振り返りざまに揺れたミルクティーのような髪の毛がひどくナナリーに似ていた。

彼女はいやに神経質なのだろうか。
てっきり裏庭辺りに行くのかと思いきや、それの更に奥、焼却炉の裏まで来るとようやく足を止めた。
さすがのルルーシュも若干眉を寄せる。
早く終わらせてもらわなければ。
いっその事ギアスを使ってもいい。
こんな焼却炉の裏まで監視ビデオはついてないだろうから。

「ランペルージさん」

再び呼ばれ、ルルーシュは彼女に視線を戻した。
しっかりと此方を向き、彼女は静かに口を開いた。

「どうして、いなくなったんですか?」

「え?」

言われている言葉がよく理解できない。
躊躇うことなく疑問符を露にすれば、途端穏やかだった彼女の表情が一変する。
眉を吊り上げ、信じられないといった表情。
誰がどう見ても、彼女は怒っていた。

「知らないはず無いでしょう、貴方が」

「何が…何のことを言っているんだ、君は」

一方的に言われても此方は何のことを言っているのか分からないのだから。
彼女は唇をかみ締めながら、そして告げた。

「…ナナリーは何処へ行ったんですか」

時が止まったかのように見えた。
彼女は何て?
ナナリーのことを、覚えているのか?
今度はルルーシュが驚く番だった。

「ブラックリベリオン以来、ナナリーは何処へ行ったんですか」

「…君」

「…貴方の兄弟はロロさんなんですか?ナナリーは、どうしたんですか」

そうか、彼女は。

「それに、あの監視ビデオの数…ランペルージさん、私は貴方を知りません、だけどナナリーに会わせてください」

驚いた、最早それだけだった。
俺は目の前の彼女をしっかり見つめると、湧き出る微かな恍惚に無意識に頬を緩ませた。
ナナリーを覚えている女、そして監視ビデオにさえ気づいている。

真っ直ぐな眼差しが、暗闇だった偽りの中へ差し込んだ。

「ナナリーは、何処ですか」

これが、彼女との出会い。
そしてこれが、再びの反逆の始まり。

始まりを告げる何か

(待っていて、ナナリー)