まるで嵐のように
「アンタ、嫌な性格してるよね」
元々本日はあまり機嫌がすぐれなかったというのに、ホームルームの後、顔も知らない1年の女子に呼ばれ、案の定愛の告白を受けてしまったルルーシュ・ランペルージはそれこそご機嫌斜めであった。
その器量の良さゆえ、愛を告白されることは少なくない。
寧ろ多いくらいであって、リヴァルは羨ましがるのだが、しかしルルーシュにとってそれが好ましいことだとは思ったことはないのだ。
だからこそ長々と前置きを置いて、表面上だけでは愛想よく振舞っていたルルーシュはつい先ほどその女子生徒の告白をばっさり断った。
勿論女子とは繊細なもので、(いやはやルルーシュがこんなにはっきりと断るとは思っていなかったのだろう)涙を流して走り去っていったばかりである。
それを見届け、やれやれ、教室に戻ろうとルルーシュが歩みを進めた瞬間に降りかかった言葉が冒頭であって、勿論眉間の皺はそのままに振り返ると其処にいたのは先ほど走り去っていった女子生徒と同じ制服を着た少女(少女というのは他の女子生徒より幾分彼女が幼く見えたからである)。
「…何か用か」
学園内では愛想のよいルルーシュ・ランペルージを演じているだけあって、ルルーシュは皺こそ消さないもののその険悪な雰囲気をすぐさま消して彼女に告げる。
彼女は口元だけ笑みを見せて、ふふ、と笑ってみせた。
「生徒会副会長様ってモテるけど嫌な性格してるんだね、あんなキツイ言い方しなくてもよかったじゃない、今の女の子」
「君には関係ないだろう」
「昼寝を楽しんでいたのにあの子のしゃくり声で起きちゃったんだからその言い方はないでしょー」
「立派なサボりだな、最初っから場所を移せばいい」
「…ははっ!」
口だけは達者なルルーシュは態々会話を成り立たせることもないだろう、と思いつつこのまま貶されっぱなしなのも性に合わないため彼女の言い分に反論した。
それに再び返答を返すのかと思いきや、彼女は盛大に笑い始めたのだ。
勿論、更に眉間の皺を増やしたルルーシュの機嫌は悪くなる一方である。
笑い終え、彼女が言葉を発するのを待った。
「そーいうところに惚れるのかな、女の子って、あれかな、やっぱりルックス?」
「…」
「そんな怒った顔しないでよ、女の子が寄り付かなくなっちゃうよ?」
元から他の生徒の前でこんな表情はしない、と思いながらも口にしないルルーシュはそのまま彼女を無視して教室に向かおうとする。
まったく無駄な時間を過ごしてしまった、早めに理科のレポートをリヴァルから返してもらわなければ。
くるりと踵を返したところで、しかし目の前に彼女がいた。
瞬間移動なんて非現実的なものを信じる性質ではないルルーシュなので、余程彼女が身軽で足が速いのだと認識できる。
まだ何かあるのか、と今度は面倒くささを隠しもしないで露にすれば、予想通りの反応が返ってきた。
「だーかーらー、そんな顔しちゃだめだって」
「…俺がどんな表情をしようと勝手だろう」
「…」
一瞬だけ、彼女が押し黙る。
漸く無駄な会話が終わるのか、とルルーシュが眉をくい、と上げたときだった。
「やっぱり、ルルーシュ・ランペルージはそっちの方がいいよ」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまったのは、ルルーシュのミスだろう。
すると彼女はにっこりと笑みを見せて(その笑みはそこらにいる女子生徒なんかより断然綺麗であった)そして口を開いた。
「ランペルージ君ってさ、自分作りすぎじゃない?」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だよ、今のランペルージ君の方が教室にいるランペルージ君より全然新鮮に見える」
それだけ言うと、自分から引き止めといたくせに彼女はさっさと校舎への道を進む。
何故だか最後の言葉にだけ反論を忘れたルルーシュは、呆然と彼女の後姿を見守ることしかできない。
そうして彼女の後姿が完全に見えなくなってからルルーシュは、はた、と思い出す。
自身のサボりスポットだ、なんだの、というだけ言って去ってしまった女子生徒に名前を聞き忘れた、と珍しく落胆していたスザクの姿を。
此処は裏庭、
彼女が出没したのも裏庭だと、スザクに聞いた。
「(今のがスザクの言っていた…)」
決定事項ではないが、そんな気が何処となくする。
後でスザクに確かめてみようか、とルルーシュは当初の苛立ちさえ忘れて教室へ向かった。
まるで嵐のように
(それにしても告白の場面を見てもなんとも思わないのか、あの女は)