ぐずぐずと泣いていた少女はスザクが自室のベッドにおろすと更に嗚咽を殺して泣いた。捲り上げられた細く白い腕は男達が掴んだ痕が痣になって残っている。スザクは一度少女から離れると慣れた手つきで備え付けの小さな冷蔵庫から氷を数個取り出して、水とともに容器に放り込んだ。ばさり、と上着を投げ捨てれば少女はびくりと大きく震えた。

「顔、上げて」

いつの間に彼女の前にたたずむスザクは感情の読み取れない、抑揚のない声音でそう告げる。ひぐ、と最後の大きな嗚咽を漏らすと少女はやっと息を吸い込んで、俯いていた顔を上げた。見えたのは、真ん丸い翡翠、少女は目を丸くした。

「っ、」

ひやり、真っ赤な痣が見える元は白くて柔らかいはずの頬に白いタオルが触れた。先ほどスザクが冷やしたタオルは少女のその傷を冷やすのには少し冷たすぎたようで、未だ涙を溜めたままの黒の瞳が痛みに細められた。黒のインナーだけとなったスザクはそんな少女を見下ろしたまま、濡れたタオルを彼女に渡す。ありがとうございます、と消え入りそうな音量で少女は頭を下げた。

「…枢木卿、お手数おかけしまい、申し訳ございません…、」

そのときスザクはやっと彼女の泣き声以外の声を聞いた。やはり一等兵の彼女もスザクのことは知っていたか、ナイトオブラウンズの顔は軍中に知れ渡っている。ふと、スザクは少女の名前を知らないことに気がついた。

「君、名前は」

「…、あ、…柊、と申します」

瞬間スザクはイレブンか、と口の中で唱えた。確かに顔つきといい小さな体系といい、イレブンでないかとは疑っていたが、確かに自分と同じ、"日本人"だ。だからこそ、先ほどのような行為を強制されていたのかもしれない。立派な差別、である。

「ああいうの、初めて?」

何故スザクはそういった質問をしたか、自分でも分からなかった。ただ、興味、であったといえばそうかもしれない。目の前で強姦が行われかけ、それを自分が止めに入ったのだから。と言った少女は大きな目を更に大きく見開いて、ひくり、と肩を引きつらせた。タオルを持つ指先に力がこもるのが分かる。

「…い、え」

「何回目…?」

「…っ、…、わ、…分かりません、ああいうの、…しょっちゅうなん、です…」

そう言うの声はまた震えて、仕舞いにはせっかく涙が乾いた瞳に再びそれが浮かぶ。
スザクは、おかしな気分であった。目の前には怯える兎が、自分が捕食者となってもおかしくない獲物がいた。実際襲われかけた小さな兎、同じ男の手によって、もしかして自分も同じように捕食者になるかもしれないのに、もうこの少女は安心しきっている。不思議な気分、強いて言えば、多分。

「ねえ、」

ふらり、との前に立つ。少女が涙を溜めたまま不思議そうにスザクを見上げた。

「じゃあ君、処女じゃないんだ?」

「っ!」

それは少女にとってあまりに卑劣な言葉だった。じわり、は唇を噛み締めながら再び滲んだ涙をこぼすまいと耐えるも、急に襲った衝撃にぽろり、とそれが零れた。

「…―え」

どろり、どろり。よく分からないそれがスザクの胸を蔓延していく。一度漏れたそれは止まる術を知らず、段々と、しかし確実にスザクの中を満たしていった。イレブンで、可愛そうな少女。彼女はスザクにしか助けられない、誰も手を貸してくれない。自分だけが、彼女を、助けてやった。一等兵の、を。

「枢木卿…っ?」

「どうせ、さっきヤられるはずだったんだ、今したって同じだよね?」

少女の黒に瞳が絶望の色を灯す。押し倒してみればの身体はやっぱりどこも細くって脆かった。シーツに散らばる栗色の髪の毛、所々くるくると跳ねているそれは、どこかで見たことのあるようなものだった。

「いいよね?」