スザクは昨夜の少女のことばかり、頭にあった。イレブンの、自分が衝動に駆られるがままに抱いた少女。泣きながら礼を言った彼女は結局スザクに無理やり抱かれ、泣きながら帰っていった。その小さな背中を見ても、しかし罪悪感のようなものは彼の中に見当たらなかった。いくら彼女が一等兵だからと言って、こんなことは許されるはずもないが、あのという少女がこのことを話そうと思う相手もいないだろうと推測できる。彼女は、孤独だ。
「…、」
そんなを掻き抱いて、自分は何をしたかったのだろうかと考えても答えは未だ出ない。ただ良く分からない優越感に浸れたことだけは、事実だった。
夜、スザクはを部屋に呼んだ。間接的だったそれは、部下の人間に伝えるよう頼んだものの、それを聞かされたときのの表情が安易に思い浮かぶ。驚いたような、恐怖したような表情であろう。実際今ドアの前に佇む彼女は非常に緊張したように顔の筋肉が強張っているように見えた。
「…、あ、あの、何か御用がおありでしょう、か」
マントを脱ぎ、騎士服の上着のボタンを外しているときである。スザクはゆっくりを見て、こちらに来るよう指示した。いちいちの行動にびくつくは硬く瞳を瞑ってから、意を決したようにスザクの前まで歩み寄った。冷たい翡翠、は何かを思ったようにそれに釘付けになる。
「そこ、座って」
「…はい」
指示されたのは昨夜と同じベッド。嫌な予感がした。ぎしり、とスプグの軋む音がの恐怖心を更に煽る。そうして昨夜と同じ格好となったスザクがそんなの前に立った。
「君を抱くよ」
「…!」
抑揚のない声でそう告げられて、しかしは拒否することも出来ず、はいそうですか、と頷くこともできない。ただ見下ろしてくる翡翠を見上げるだけである。怖い、の表情からそれが滲み出てくるようだった。
「…反論は受け付けないつもりだったけど、拒否しないみたいだし」
「あ、あの…、」
うろたえるの肩を強く掴む。弾かれた様に顔を上げるはそのうち小刻みに震え始めた。じわり、じわり、と大きな瞳の淵に涙が溜まっていく。ゆっくりその身体を押し倒せば、ついにその涙は零れた。
彼女の膣内で欲が爆ぜる。の真っ赤に染まった表情が歪んだのを見て、スザクはようやくそれを中からずるりと引きずり出した。そんな行為にさえ、はひくりと反応してこちらの熱をまた高めるような悩ましげな声を漏らす。がこの部屋に訪れてから数時間、やっとそれは終わった。
「…は、…はぁ、ん、」
とろりと漏れ出す白濁の液が気持ち悪かった。何度も突き上げられて、今にも意識が途切れそうなだが彼の部屋でまさか情事の余韻で眠ることなんて許されない。一等兵が後処理もせずにナイトオブラウンズの前で眠りこけるだなんて有り得ないのだ。休みを求める身体に鞭を打ってはゆっくり身体を起こす。乱れた息が、ようやく落ち着いてきた。
「…」
ベッドの下に、剥がされた衣服が散らばっている。スザクは半裸の状態のままの横で横になっている。顔は見えない、見えるのはたくましい背中だけ。はそっと瞳を細めた。
服を着るためにベッドから降りたが見たのは、取り付けられた鏡だった。そしてその奥にいる自分の首元にはまた新しい鬱血痕、これは、何なのだろう。何のために、こんな所有印みたいなものを、刻むのだろう。放り投げられた下着を手にして、は静かに口を開いた。
「…枢木卿、」
彼からの返答はない、だがスザクがこんな無防備に寝ているわけもなく、はそのまま続けた。
「…何故、私なんかを、抱くんですか?」
響いて空気に溶けていった言葉のあと、暫し沈黙だった。スザクがゆっくりを見る。鮮やかな翡翠色の瞳が、細められる。
「別に」
小さな言葉がの心臓を抉る。
「暇だからだ、期待なんかするなよ」
吐き捨てたれた言葉に、は涙を一筋伝わせて、はい、と告げた。