開かれた瞳には、一体何が映るというのか
少年のその血より深い朱色の瞳は、
少女のただ絶望を知る無垢な瞳は、
平和を、希望を、望んだ未来を見つめられるのだろうか

ひたすらに交差する運命は決して味方してくれないけれど
神すらも手を差し伸べてくれぬこの世界は
だけどきっと。いつか光が差し込むと、少年は少女は、何処かで信じていたのだ





ルルーシュ・ランペルージはその日、生徒会の仕事も曖昧に片付け学園の屋上で佇んでいた
風の抜ける音と、それからグランドで部活動に励む生徒達の声だけが聞こえる
穏やかな光景だと、ルルーシュはあざ笑うように口元を歪めた

「(平和なものだ、まったく)」

まったくこの学園という世界は平和だった
今も罪も無き人間達が虐殺されてようなど、ブリタニア生徒諸君が知るはずも無い
どれだけこのブリタニアという国が腐っているかなど、知っているはずが無いのだ
そう思惟して、もう一度嘲笑を浮かべるとルルーシュは見えた光景に瞳を細める
木々の連なる裏庭の、その奥
だだっ広い裏庭に、動く影だ
生徒が裏庭に出向くことなど滅多に無いし、教師も同じだ
態々校舎からこんな遠い裏庭を(しかも何もない)、利用するものがいるはず無い
しかしルルーシュは見た、その木々の間に動く人影を

「…暇な奴だな」

そう口では言うものの、気になるのだろう、ルルーシュは屋上を後にしていた


屋上よりも木の葉の擦れる音が強くなる、裏庭までやってきたルルーシュは適当に辺りを見渡した
誰もいない、それはそうだろう、ルルーシュは踵を返した

「…、う」

だが聞こえたうめき声にも似たその声音に、ぴたりと歩みを止めた
誰かいる、眼光を鋭くして顔だけを反らせば木の幹から僅かにグレーが見て取れた
やはり誰かいたのか、しかしその格好は明らかにアッシュフォード学園のものではないだろう
ルルーシュは臆しもせずにざかざかと草木を踏んでその人物に近づいた

「おい、誰だ」

一応、生徒会の副会長でもあるルルーシュだ、声を掛けることに不審はないだろう
蹲っていたその塊は、一瞬肩を揺らしてゆっくりルルーシュに振り返った

「あ、あの…」

驚いた、それは少女であった
しかもルルーシュよりも幼いであろう、真っ黒な瞳と栗色の髪の毛が印象的だった

「(誰だ…、)」

顔付きからして少女はイレブン、即ちブリタニア人ではない
格好も制服ではない少女は薄汚れたグレーの服に、そして

「あのっ、あたし…、」

少女は懇望するようにルルーシュを見上げた
だがしかしその白い手が掴む鞘に、ルルーシュは眉を寄せた
少女は刀を手にしていた、黒光りする鞘に収められた、刀である
思わず左目に意識が集中する

「ひ、人を呼ばないで、ください!」
「…は、」
「あ、怪しいものじゃないんです!」

このアッシュフォードという貴族が受け持つ学園に、見慣れぬ格好でしかも刀まで持っていて
そんな少女を誰が怪しくないと言うだろうか
ルルーシュは少女をぎっと睨み付けた

「お前、何者だ」
「…です」
「名前を聞いてるわけじゃない!何者だと聞いている」

途切れの悪いという少女に苛立ちが募る
ルルーシュが僅かこめかみを引きつらせると少女は立ち上がってアメジストを見据えた

「かっ、匿ってください!!」

突如叫ぶようにして告げられた言葉に、ルルーシュはただ眉を顰めるだけであった




「その話、何を根拠に信じればいい」
「…あえて言うならばこの刀、しかないでしょうか」

あれから数十分が経過していた
懇望する彼女の話を警戒しながらも耳を貸したルルーシュは話を終えると嘲笑を浮かべた

少女の口にしたこと、―それは到底信じられるようなものではなかった
彼女の名前は、列記とした日本人である
は自分の生まれを知らないという、ただ脳裏に刻まれているのが戦闘能力と名前だけ
何故此処に辿り着いたのかと問えば、それすらも首を傾げる始末なのだ
つまりは身元不明の少女、ついでに言ってしまえば彼女は記憶も曖昧だった
今まで何をしていたか問えば戦争、としか答えず
何を知っていると問えば、戦争としか答えなかった

奇怪過ぎる、あまりに現実離れした人間だった

「本当に、あたしはどうして今此処にいるか、分からないんです
昨日何をしていたかも、一昨日何処にいたかも何も、…ただこの刀を持っていました」
「それは、お前のか」
「はい、記憶の欠如といっても今までの全てを忘れているわけではないんです
所々、あたしはこの刀を持って何かと戦っている記憶があるんです」
「何か?」
「多分、ナイトメアフレーム…」

今度こそありえないとルルーシュは嘲笑した
ナイトメアフレームと言って過ぎるのが先日の出来事
そう、ルルーシュが悪魔の力を手に知れたあの日、である
本当はこんな女、すぐにでも例の力―ギアスでどうにでもできた
例えば今すぐにでも追い出すとか、とにかく構っていることもないのだ

しかし絶対遵守の力からか、それとも単に暇を持て余すことに飽きたのか
ルルーシュはぽつぽつと告げられるその話に聞き入っていた

「…お前、何者なんだ」

それはつまり不信感から
ルルーシュが告げた言葉には視線を泳がせてからアメジストを見た

「あたしは、兵器です」