天帝八十八陵、中華連邦の歴代天子を祀る陵墓
黒の騎士団は一旦、其処を籠城場所としてナイトメアを収容した
依然、中華連邦との膠着状態でしかし其処へブリタニアのナイトオブラウンズが参戦したのである
焦りと困惑が募る黒の騎士団員、は十六夜から降りると斑鳩内で罵声を上げる玉置を見た

「どうすんだよ!援軍もないのに!」
「落ち着け、此方には相手だって下手に手出しは出来ないはず…、うわっ!」

そう、黒の騎士団には天子が人質として囚われていたはずだった
しかし斑鳩を襲う攻撃に、あからさまには眉を顰める

「ゼロ!此処が攻撃されてる…!どうして…、」
「…ああ、奴らは天帝八十八陵ごと我らを押しつぶす気だろう」

だがそれが意味するのは中華連邦が天子を見捨てたということ、
動揺が斑鳩内に広がる
設けられた個室で神楽那と天子が寄り添っている様がまざまざと思い浮かんだ
まだあんな子供、やっと朱禁城の外へ出られたというのに、この仕打ちは一体、

「藤堂、出撃できるか」
『ああ』

無線より届く藤堂の返答と同時に、斬月が斑鳩より飛び出す
今の今までソファーに腰掛けていたC.Cすらも立ち上がり、暁で出撃を始める準備が行われた
そうして敵の圧倒的な攻撃力の下で、この斑鳩すらも危機に晒される
はC.Cに続き身体を反転し、漆黒のコートを翻すと総司令室を後にした

「…(スザク、)」

ナイトオブラウンズが出撃したということは、無論、ナンバーセブンの枢木スザクも、だ
はくっきりと眉間に皺を刻むと、濃紫のキーを力強く握り締めた




ナイトオブラウンズのナイトメアに加え、ブリタニア軍には最新の量産機が揃っていた
明らかに、中華連邦の反乱軍、並びに黒の騎士団の不利な状況
斬月と暁はランスロット、神虎はトリスタン、モルドレッドは中華連邦の反乱軍に当たっている
其処へふらりと斑鳩より飛び出す薄紫のナイトメア、
シルバーの塗装が銃弾に反射して輝いている様がスザクの視界に引っかかる

「…、あれは」

照準を拡大し、そのナイトメアをしっかりと確認するより早くスザクの視界から"それ"は消える
次にその機体を見つけたのはトリスタンの正面だった

「な、」

唐突に現れたナイトメアに、ジノ・ヴァインベルグは思わず距離をとる
しかしいつの間にか伸ばされたスラッシュハーケンがトリスタンの腕を引き付けていて
そうしてナイトメアの持つ仄暗い朱を放つ剣が振り下ろされた

「…っく!」

だが無論、そう易々とやられるほどナイトオブラウンズの名は軽くはないのか
スラッシュハーケンを引きちぎるようにしてトリスタンは薄紫のナイトメアの腕の中から抜けた

「…なんだ、あのナイトメア…、」
『ジノ、そのナイトメアには、』

スザクがジノへ無線を飛ばした刹那である、
聞きなれた、少女の声が響いた

『こんにちは、ジノ・ヴァインベルグ』

少年の、栗色の髪の毛が揺れ、大きな大きな翡翠はこれ以上ないほど見開かれた

「お前、」
『悪いけどお喋りするほど暇じゃないの、死にたくないのならその口閉じたら?』

瞬間、危険という言葉を知らないのか、少女―の搭乗する十六夜はいきおいよくトリスタンの懐に飛び込む
右手に廻転刃刀を構えたまま再びスラッシュハーケンで十六夜はトリスタンの左腕の自由を奪った
刃を振りかざしながら懐に重いその十六夜の足が入れば、トリスタンのコクピット内にがくんと衝撃が走る
何とか刃だけを交わすも、十六夜の腰に装備されていたライフルが左手に握られていた

『ジノ!』

撃ち放たれる真っ赤な銃弾、機体を大きく捻りそれを何とか回避すると
ジノは至近距離の十六夜へ流れるようなスピードで、素早く銃を撃ち込むもそれは防がれる
薄緑の発光色のバリア、ブリタニアがよく目にするものだった

「…ブレイズルミナスの防御まで、」

スペックが、最早異常なまでの高さのナイトメアだった
勿論それを乗りこなすデヴァイザー、ジノは興味深げに口元に弧を描く

「へえ、黒の騎士団も紅蓮以外に、こんな伏兵を隠していたなんてな、お前、だろ」
『名前覚えてくれたんだ?律儀な人、』

嘲笑するかのような口ぶり、余裕そうに綺麗に微笑むの姿が少年の脳裏に過ぎる

『裏切り者のナイトオブセブンのお友達さんはお喋りが好きなんだね』

刺々しいとしか言いようのないその口調に、スザクは瞳を細める
ジノが再び微笑み、操縦桿を握ったその時、アヴァロンより無線が繋がれた
勿論、相手を絞る気はないのか、無線の電波はそこ等一帯のナイトメアへ注がれる

『ジノ、いい相手を捕まえてくれたね』

低く響くテノール、瞬間、ルルーシュが仮面の奥でそのアメジストを目いっぱい見開く
同じく十六夜のコクピット内で、も驚きに表情を染めた

「…シュナイゼル」

ブリタニア帝国の第二皇子、シュナイゼルだった
そして明らかにジノというよりかは、に対する言葉がシュナイゼルから漏れる

『まさか彼女が前線に出てくるとは、予想外ではあるけど、…、とても都合がいい』

妖艶に、微笑む
シュナイゼルは玉座の横で控えていたカノンへ合図を送ると肘を着いた
そうして対するは斑鳩内でへ無線を繋ぐゼロ

!戻って来い!」

策略か、何にしろ今の言葉によりシュナイゼルが何か策を練っていることなど安易に推測できる
それを誰よりも早く察したゼロだが、しかしガンルーの奥から姿を現した濃緑のナイトメアに気付く者はいない
濃緑のナイトメアは銃を構えるわけでもなく、小さく電波を飛ばすべく顔面部位を立ち上げる
十六夜が斑鳩へ、機体を向けた、刹那

『…っ、あああああああああああああっ!!!!!』

悲鳴、狂ったような絶叫、
無論、その声の主は少女、ゼロはひやりとしたものを背中に感じたという

!?」

薄紫の機体は暫く上空に佇んだまま、そうしてゆっくり地上へ吸い込まれていった