絶叫、その悲鳴のようなそれを耳にした黒の騎士団員たちには沈黙が走った
そしてそれを無線越しに聞いていたナイトオブラウンズ、スザク達の動きも止めた
空中に浮遊していた紫色のナイトメアは一度動きを止めると重力に逆らうことなく地上へ吸い込まれる
一番早く行動を起こしたのはゼロだった

!聞こえるか、!」

返答はない、無線の奥は震える吐息だけである
無論敵である彼女が戦力外となれば、これは捕虜にすべき絶好のチャンスだ
十六夜のその自由を奪おうと、トリスタンはスラッシュハーケンを伸ばした

「…何?」

だがそれは十六夜の廻転刃刀によって防がれる
何事かと、照準を地に佇む十六夜に合わせた途端、無線に彼女の最早音と化した言葉が届いた

『あ…、やだ…、やだ、たすけ、…ゼロっ!』

震えている、その声にルルーシュは眉を寄せた
まるでこれは、マオが現れたときの彼女の反応にひどく酷似しているからだ
何かに怯え、助けを求めるの様子がまざまざと脳裏に過ぎる
C.Cがなんとかランスロットからの攻撃をかわし、十六夜に近寄った

、大丈夫か、どうしたんだ」
『だ、め…、C.C、…来な、で』
「…?」

C.Cの搭乗する暁の、薄桃色の腕が十六夜に触れた
瞬間、彼女のナイトメアは勢い良く弾き飛ばされていて
目を見開いたのはジノだった

『やだっ!!いやだっ!!…っ、ああああああっ!!』

再びの悲鳴のあと、十六夜は飛翔滑走翼を起動させて空中へと舞い戻る
しかしすぐ傍のトリスタンへは目もくれずに彼女が攻撃を仕掛けたのは紛れもなく黒の騎士団の機体へだった
十六夜の廻転刃刀の赤黒い光が機体を貫く
秒差もなしに、ライフルを朝比奈の搭乗する暁へと向け発射する
スラッシュハーケンを伸ばしたかと思うと、避けられた分と言わんばかりに急接近した暁に至近距離で放った
慌ててコックピットを脱出させる朝比奈より、の元へ無線が届く

「何してるんだ!!」
『あ、あ、…や、だ』

うわごとの様に繰り返すが最後に一言、ぽつり漏らした

「…藤堂!の機体を止めろ!!」
『こちらはランスロットで手一杯だ…!』
「C.C!十六夜を止めろ!」
『分かっている!』

ランスロットと刀を交える斬月の横をすり抜けたC.Cの機体が再び十六夜へ向かう
だが量産型の暁よりも圧倒的にスペックの高い十六夜にC.Cの攻撃が届くはずもなかった
放たれた銃弾を何とか避け、C.Cは眉を顰めた

『…C.Cっ、お願い…、近寄っちゃ、駄目』
!?どうしたんだっ!」

今まで沈黙を護っていたからの無線に、C.Cは驚いたように十六夜を見た
しかしまた段々と震え、制御が利かないロボットのようにの口調は再び覚束無いものになる

『おねが、…、あ、たし…、止め…』

の言葉は其処で途切れ、再び十六夜からの銃弾の雨が訪れる
だが一人、斑鳩内で現状を把握した人物がゼロを見上げた

「分かったわ、ゼロ、あれよ」
「…何?」

ラクシャータがモニター越しに指差したのはガンルーに紛れ、しかしライフルすら構えていないナイトメア
濃緑のナイトメアは電波を飛ばすためだけに出動したのか、それ以外の攻撃らしい行動は伺えない
それを睨むように見つめ、ラクシャータは口を開く

「事情なら後で話してあげる、とりあえず今はあのナイトメアを破壊することねえ」
「あのナイトメア…?何故…」
「事情は後で話してあげるって言ったでしょ、あの子の暴走止めたいならとっととあのナイトメア破壊しなさいよ!」

珍しく語尾を荒げるラクシャータの言葉の後、ゼロはすぐさまC.Cへ告げる

「C.C!あの濃緑のナイトメアだ!あれを破壊しろ!」
『あのナイトメアを…?』
「いいから!」

切羽詰ったようなゼロの言葉にC.Cは反語を唱えるより早く、操縦桿を握る
今度は千葉の暁へ攻撃を仕掛ける十六夜を尻目に、C.Cは素早くライフルをそのナイトメアに向けた



穏やかな声音、それがシュナイゼルのものだと理解するより早く、銃弾はナイトメアに届く前に弾かれる
驚きに目を見開くC.Cの視線の先には、やはりというか十六夜の姿
同胞への攻撃を含め、どうやらは故意でないものの、あのナイトメアを護っているようにも見えた

『くそ、あれじゃあ攻撃はできんぞ』
「…よし、藤堂はそのままランスロットへの攻撃を続けろ、千葉とC.Cは十六夜への攻撃に当たれ」
『それじゃあ…』
「いや、あのナイトメアは玉置、お前が破壊しろ」

無線の後、情けない玉置の声
だが一々事情を説明している余裕もない
神虎は押され、加えて中華連邦よりの攻撃だ
その上ナイトオブラウンズからの攻撃に彼女の十六夜が加わるなど、不利もいいところだ
兎にも角にも彼女の暴走を止めなければ新機体、蜃気楼の出動もままならない

「玉置!」
『わっ、分かったよっ!』

千葉とC.C、二人で十六夜の自由を奪うとその隙に玉置の乗る暁がその間を潜り抜ける
十六夜がライフルを片手に二人を弾き飛ばすも、玉置の放った銃弾がそのナイトメアを貫いた瞬間だった
爆発する濃緑のナイトメア、それを見届けたかのように、十六夜は今度こそ地上へ吸い込まれた











回収された十六夜より引きずり出されたは死人のように顔を青ざめさせ、意識を失っていた
結局ブリタニアに裏切られた中華連邦は破れ、見事黒の騎士団が勝利を収めたのだった
一件落着と、息をつきたいもののそれもまだ先の話だ
とりあえず今は彼女の反逆行動について知らなければならない
団員の集まる中、はうっすら瞳を開いた

「…あ、」
「…分かる?」

ソファーに横たわるの正面でそれを見つめていたのはラクシャータだ
は一度ラクシャータを見つめてから、それから目を見開きソファーを飛び降りた

「!どうした」
「ああっ、あっ、…やだあっ…」
「ラクシャータ…!」
「分かってるわよ」

ソファーから飛び降りたは怯えるように部屋の隅へ後ずさる
それを見つめるゼロは心配げにラクシャータに声を掛けるも、彼女はひとつ息をつくとへ手を伸ばした
朝比奈と藤堂、千葉やC.Cやディートハルトも、ただその様子を傍観するしかなかった

、大丈夫、分かる?あたしよ、ラクシャータ」
「…っ、ら、くしゃ、た…さん?」
「そう」

伸ばした手をゆっくり額に当てる
ひんやりした掌が些か気持ちよかったのだろう、は抵抗を和らげた
それから親指をの目の下に当て、ぐ、と皮膚を引っ張り瞳を観察するようにラクシャータは瞳を細めた

「ふうん、もう大丈夫でしょ、誰かこの子寝かしてやってきて」

くるり、立ち上がったラクシャータは踵を返してゼロへ告げる
仮面越しにを見つめるゼロは、C.Cに彼女を運ぶよう指示をすると椅子に腰掛けた
C.Cによって支えられながら立ち上がり、部屋を後にするを見送った後ゼロは口を開いた

「それで、ラクシャータ?」
「分かってるわよ、よく聞きなさいよ」

彼女の青とも緑とも取れる瞳がゼロを捉えた