中華連邦から無事アッシュフォード学園に戻ってきたミレイは一段落着くと、ゆっくりソファーに身体を埋める
ふう、と柄にもなく大きなため息が唇から漏れ思わず苦笑を漏らした
そういえば、アーニャ・アールストレイムとジノ・ヴァインベルグの二人がアッシュフォードへ
編入したいということを言っていた気がすると、ミレイはふと瞳を細める
これから面白いことになりそうだと一人口元を緩めていると、ふいに彼女の端末に記録されていた写真を思い出した

「(そういえば…)」

晴れやかに微笑むジノ、驚き顔を真っ赤に染めるロロ、アーサーと戯れるスザク、
とにかくナイスタイミングとしか言えないシャッターを切るアーニャの写真の中に、一枚。
一枚、不思議なものを見つけた
あの瞬間、隣に座っていたスザクの表情が固まったのをミレイは見逃さなかった

「あれって…」

カメラの存在に驚き、目を丸くする少女が映った一枚の写真
大きな丸い黒の瞳、薄く開いた桃色の唇、その栗色とも言える長い髪の毛が妙に印象強かった

「…?」

一年前のあの日、自分達を見逃し、しかし黒の騎士団の一員だということが知れた少女、
それまではアッシュフォード学園で自分達と同じように笑いあっていた、あの少女だ
その写真はまるで彼女の一年後を見ているようでならなかった
しかしありえない話だ、は今も生きているのかも分からない状況なのだ
それも何故アッシュフォードなんかに姿を現すのか、ミレイは眉を顰めてバッグを放り投げた

「(…、、だったのかしら)」

スザクの、信じられないと言った表情が脳裏から離れなかった









「(優しい目、をしてる)」

晴れ渡った空、斑鳩の上、一戦のあと無事星刻の元へと駆け寄った天子は涙ながらに彼と永続調和の契りの手をした
それを見守る黒の騎士団と中華連邦の武官達、僅かながらに穏やかな空気が流れる
ぼろぼろと涙を零す天子を見る星刻の瞳は、恐ろしいほど優しく、柔らかい
あの武官もこんな表情をするのだと、はC.Cの隣で密かに瞳を細めた

「ゼロ、天子の婚姻が無効になったと世界中に喧伝する必要があります」

ふいにゼロの隣に佇むディートハルトが彼に口を開いた
常に先の事を見越す彼の言葉に、耳を傾ける

「そうだな」
「その場合、日本人の誰かと結婚していただくのが上策かと思われますが」

思わず眉を顰める、なんてことを言うのかこの男は
せっかくの安堵の空気が一変する、星刻は鋭い眼光を黒の騎士団に向けた

「なんなら此方の方で候補者を…「なりません!!」

しかしそんな彼に反語を唱える一人の少女、神楽那だ

「神楽那さま、これは高度に政治的な問題です」
「単純な恋の問題です!政治で語ることでは在りませんっ!」
「うん、そうだな」

彼女に続き、C.Cが首を擡げてゼロを見た
珍しく彼に反論する気なのだろうか、はただ黙ってそれを見つめる
しかしまさかC.Cに反論されるとは思っていなかったのだろう、ゼロは僅かにたじろいだ
C.Cに続き千葉、そうしてラクシャータまでもが笑みを見せる
なんて滑稽な一場面、そんな中ゼローと暢気な玉置の声音が響いた

「昨日の件なんだけどよー…、あれ、まだ会議中?」
「いや、玉置の件も重要事項だ」

とかなんとか言いながらちゃっかりその場を逃げるゼロに、笑みが浮かぶ
C.Cを見れば同じく口元に弧を描いてゼロの背中を見つめていた

「…不器用なんだなあー」

呟けば若草色が揺れて、金色の瞳がを捉えた

「そういうやつだろう、あいつは」
「…こういったことはね」

どんなに頭が切れようと、こういう恋だの友情だのといった人間感情には随分と鈍い彼のことだ
悩み悩んでいるのだろう、さて彼が此処に戻ってくるまでどれくらい掛かるだろうか
だがしかしそんな疑問もゼロが颯爽と戻ってきたことで解決する
答えは出たのだろう、つかつかと天子の前まで歩み寄ったゼロは高々に告げた

「天子よ!あなたの未来はあなた自身のものだ」
「…ゼロ」
「さすがですわ、ゼロさま!」

神楽那が感嘆に声を高める
ああ、やはりあの男らしい答えだとC.Cがほくそ微笑んでいるのが分かった

「ゼロ、君と言う人間が少し分かった気がする」
「進むべき道は険しいが」
「…だからこそ、明日という日は我らにある」

しっかり交わされた握手に、ようやくひとつの戦いが終わった





脱ぎ散らかされたC.Cの服をてきぱきと片付けながらルルーシュは開いた扉に視線を投げる
グレーの自動扉の奥に見えた漆黒に包まれた少女、は目を丸くして部屋の中の様子を見渡した


「ルルーシュ、あっちに戻るの?」
「ああ」

昨晩のような様子は見られず、いつも通りの彼女にルルーシュは僅か安堵した
ラクシャータから話された、パラノイアのことはまだには話していない
無論、これからも絶対的に必要がないのならそのことをに話すつもりはルルーシュには毛頭なかった
はC.Cの寝転がるソファーの背もたれに腰掛け、自身の漆黒のコートを脱いだ

「ねえ、あたしもエリア11に戻ってもいい?」
「別に構わないが…、此処に残っていた方が色々便利だろう」
「うーん、まあそうだけど…、戻りたいの」

上目にそう訪ねられ、断る理由もなかった
頷けばは嬉しそうに瞳を細めてから、立ち上がる

「いつ出るの?今日中?」
「…、お前、なんでそんなに戻りたいんだ?」

いつになく嬉しそうに表情を染めるにルルーシュは眉を顰めて彼女を見た
C.Cは上体だけ起こし、そんな二人の様子を見つめる
一方は一度目を丸くしてから、にっこり微笑んだ

「何ででしょう」
「言え」
「ロロに会いたいから」
「なっ、」
「…なんちゃって」

悪戯を成功させたような笑みではルルーシュに振り返る
あまりにテンポよく進んだ会話に耳を傾けたC.Cはふ、と鼻で笑って見せて再びソファーに埋もれた
怪訝そうな表情のルルーシュは、ゼロの衣服の胸元を広げてとC.Cの向かい側にあるソファーにどっかり座ったのだった