響く低い羽音、一人乗り用の蜃気楼には現在二人の人間がいた
操縦席に座る少年とその斜め後ろで佇む少女、はモニタに広がる海中に僅か声を上げた

「十六夜も海の中潜れるのかなー」
「最新鋭なんだから余裕だろ」

かちゃかちゃと手馴れた手つきで操作を行うルルーシュは一度手を止めると顔を上げる
そのまま首を捻って操作画面を見つめていたと視線を絡めるとその腕を引いた
突然の衝撃に成す術もなく、ぽすりとルルーシュの膝に落ちる
慌てて顔を上げるといつの間にかその身体はルルーシュの足の間にあった

「…なに?」

当然向かい合う形で、しかも足の間に身体があるとなればその顔と顔の距離は近い
怪訝そうにルルーシュを見るは伸びてきた白い指に反射的に瞳を閉じる
その少し冷たい指先はそっとの頬をなぞって唇に触れた

「ん、ルルーシュ?」
「身体、大丈夫か」
「…、ああ、うん、ごめんなさい、昨日は」

何だかんだ言って一番心配していたのはルルーシュなのである
毎回毎回彼に余計な心配をかけてしまっている、その事実にはしゅん、と項垂れた

「あたし、どうしちゃったんだろう、ほんと、ごめんなさい」
「…もう、大丈夫だ」

長い栗色の髪を撫でながら、ゆっくりゆっくりルルーシュはの唇に自身のそれを押し付ける
ラクシャータによればマイナスのパラノイアの完成にそう時間は掛からないと言う
できることならもラクシャータとともに中華連邦に残ってほしいものだが、彼女のお願いを
断れるルルーシュではないのだ
兎に角マイナスのパラノイアができるまではを前線に出さないということで、ルルーシュは彼女には黙認を決め込んだ
それでもいずれ、口にすることが来るだろう、ルルーシュは居た堪れない気持ちになった

「ん、ぁ」

最初触れるだけだったキスも、段々と角度を変え深いものに変えるとルルーシュは舌を滑り込ませる
びくりと揺れる肩を押さえつけて更に深く、奥まで咥内を荒らす
後頭部を押さえつけてしまえば、に逃げる術は残っていなかった

「ふあ…、る、るしゅ」

ぐい、と肩を強めに押されルルーシュは名残惜しげに唇を離す
唾液によっててらてらと光る唇を厭らしいな、と一人思惟して

「…ルルーシュ、変」
「そうかい?」

ふふん、と微笑んでやればは悔しげに唇を尖らせた











浮上する機体、ロロは今か今かとそのコックピットが開くのを待った

「おかえり!兄さんっ」

水上に浮上した蜃気楼から姿を現した兄、ルルーシュに笑みを見せるも瞬間ロロは眉を寄せる
蜃気楼に乗っていたのはルルーシュだけではなかったのだ
同じようにルルーシュに続きコックピットから出た少女は長い髪を靡かせて咲世子に駆け寄る

「咲世子さんっ!久しぶりです!」
さん、お久しぶりですね」

格好はルルーシュのままで微笑む咲世子、は嬉しさににっこり笑んだ
一方なんで、とかそういった類の表情を見せるロロにルルーシュはやれやれと首筋を叩く

「なんだ、驚いたのか?」
「え、や、うん、まあちょっと」

曖昧に語尾を濁すロロに苦笑してルルーシュは咲世子に顔を向けた
咲世子と大体の挨拶を済ませたはその軽い足取りのまま同じようにロロに駆け寄った
漆黒のコートに白い足が剥き出しのホットパンツ、
こんな格好のまま歩き回るのだろうかとロロは再び眉を顰めた

「久しぶり、ロロ」

微笑んだ、その笑顔は確かに見とれるようなものだった
ルルーシュの他にのような反応を取るものが少ない所為かロロはたじろいでその瞳を反らす

「…(あれ?)」
「…何故貴方も帰ってきたんですか」
「ロロに会いに…」
「は?」
「なん、て…」

ルルーシュやC.Cと違った冷めた反応には若干眉尻を下げた
やはりギアスのこともあってか、それ以前のような可愛らしい様子を見せてくれなくなったロロに
は寂しげに瞳を伏せた

「(学園祭のときはもっと親しくしてくれたのに…、まあ、ギアスのこともあるし)」

考えながらルルーシュとロロの後を着いていく
後ろの咲世子手を振ってはぱたぱたと駆けていった



ロロやルルーシュの暮らすクラブハウスに戻った三人は、
しかしは生徒に見つからないようにとそのずっと後ろを歩く
と、前方に見えた見知った少女、シャーリーには大袈裟に肩を揺らして物陰に潜んだ

「…いきなりシャーリーか」

この調子だと何処に会長やリヴァルがいても不思議ではない、
は今のうちにとこっそり正面玄関に向かおうと踵を返した

「おはよう、ルルーシュ君」

しかし聞こえた端末の音と、少女の声に足を止める
その後にルルーシュとロロの息を呑んだ気配に気付き顔だけ振り返った

「…うそ」

見えたのは、ナイトオブラウンズのナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムだった
何故此処にいるのか、否、何故アッシュフォード学園の制服を着ているのか
ルルーシュの表情が分かりやすく歪んでいる
そうして其処に加わる声音に、ますます眉を寄せた

「やー!君が副会長のランペルージ卿だね?」

つい昨日聞いたばかりの声だった、ナイトオブスリーのジノ・ヴァインベルグだ
その容姿は忘れもしない、ブリタニアに捕虜として監禁された際に自分を訪ねてきたのだから

「普通の学生っていうのを経験したいんだって」

そしてやはり奥の扉から現れるリヴァルとミレイ・アッシュフォード
はただ冷や汗が流れるのを感じていた