「…こっ、これはなんだ…!」

唖然として機密機関のディスプレイを見るルルーシュに平然とした咲世子
ディスプレイに映し出された映像、それはつまり、ルルーシュ(の格好をした咲世子)とシャーリーのキスシーンであったりして
は初めて足を踏み入れたその司令室に、きょろきょろと物珍しそうに視線を動かした
ルルーシュの悲痛な悲鳴に似たそれは彼女には生憎届いてはいない

「俺がシャーリーと…!どうなっている!」
「はい、キスをさせていただきました」
「えっ!」
「…え」

大袈裟に驚くロロと、肩を揺らす、後ろで同じようにヴィレッタが目を丸めた
当の本人つまり咲世子はきょとんと微笑んで見せて首を傾げる
彼女の話によればこの司令室が知られる恐れがあったので仕方なく足止め代わりにしたのだという
目を見開いて放心状態のルルーシュにロロが詰め寄った

「兄さん…咲世子が昔から仕えていたからって」

そうして咲世子からスケジュールを受け取ったルルーシュはまたしても声を荒げる
興味深げにそれを覗き込むは記された女子生徒との交流に、半ば呆れたように咲世子を見た

「…忠実なんだか、なあ」

複雑なところである
これからゼロとして、ルルーシュ・ランペルージとして文字通り目の回るような生活が待っているのか
ほんの僅か彼に同情したは小さく息をついてから、大きすぎるディスプレイを眺めた





「お疲れ、ルルーシュ」

目まぐるしいほどの一日を終えてからのの一言だった
ひょっこりと司令室に顔を覗かせたはばったばったと忙しなく動き回るルルーシュに告げる
午前中は代わる代わる女子生徒とデートを続け、15時からは上海へ中華連邦と通商条約の締結のためにゼロとなり、
それから午後もほぼずっと女子生徒とデートを続けてきたのだ
そしてこれからまた何処かへ出かけるのか、ルルーシュ珍しく衣服を散らかして走り回っていた

「これからは誰と?」
「シャーリーだ、…とりあえず彼女には待ってもらっているが」
「ふうん、大変だねえ」

端正に整ったその顔には明らかな疲れが滲んでいた
一体どうやったらこれほどぎりぎりに予定を詰められるのだろうか、最早謎である
私服へと着替えたルルーシュはの横をすり抜けてエレベータに乗り込んだ
そこへちゃっかり一緒に搭乗したは一度ルルーシュに微笑んで見せて、彼の衣服の糸くずを取って見せた

「あたしはクラブハウスに戻るね、ロロもいるでしょ?」
「ああ、気をつけろよ」

それは即ち、見つかるな、という意だった
すでに認知済みのその言葉に小さく頷いたは慌ててエレベータを降りてばたばたと図書室を駆けるルルーシュの背中を見る
シャーリーのふくれっつらが脳裏に浮かんで、苦笑を零した

こっそりと図書室を抜けたは騒がしいクラブハウス外を一瞥してから懐かしい其処に足を踏み入れた
灯りが灯されない階段を静かに上り、ルルーシュの自室を目指す
ブラックリベリオン以前からあったの自室は多分、そのままだろう
あそこは、懐かしくも、優しい場所だった
しかしはルルーシュの自室でもなく自分の自室でもない一室の前で足を止めて、そのまま扉はスライドされた

「こんばんは」

部屋の主ににっこり微笑めば、少年はソファーの上で大袈裟に肩を揺らした

「…何の用ですか」
「…、ロロ、あんまり警戒しないで?」

困ったように眉尻を下げはロロの許可も無しに静かにベッドへ腰を下ろした

「ルルーシュ大変そうだよね?」
「…」

ロロは何も言わなかった
こんな彼の態度はギアスのことを知られてからだ
やはりギアスを他人に知れるということは危険であり、あってはいけないことなのである
それでもルルーシュを含め、理解者であろうとしたにとってロロの態度は些か切ないものでもあって
はふいに、視線をはたりと落とした

「…あのね、ロロ、多分貴方から見たらあたしは危険人物なのかもしれないけど、
あたしは本当にロロの見方だから、ね。ギアスのことで、壁を作りたくないなあ…」

そこまで続けはなんてね、と肩を竦めた

「あたしのわがままかもしれないけど」

ロロは眉を顰めた
の言っていることは事実かもしれない、実際ルルーシュは彼女には随分心を許しているように見える
勿論ギアスの事も全て認知しているだし、ロロのギアスを知ったところでは然程驚かなかった
多分、兄であるルルーシュが心を許す彼女が、少し、羨ましいだけなのかもしれないのだ
ギアスの事を知られて多少、ロロには弱みとなる部分がにあった
だから、これ以上の接触をロロは好まなかった

「ごめん、やっぱり今の気にしないで」

再び笑みを浮かべたに、よく笑う人だとロロは思案した
そのまま部屋を後にしたの小さな背中を見つめ、ロロは強く唇を噛んだ











翌日司令室にやってきたを待っていたのは気難しい顔をしたルルーシュだった
相変わらずディスプレイには様々な女子生徒の写真が映し出されていてはふとルルーシュを見た

「えーと、キューピッドの日だっけ?」
「ああ、今日で女との関係を制裁する…!」

キューピッドの日、現生徒会長のミレイ・アッシュフォードが自身の卒業イベントとしてあげた提案だった
男女それぞれの赤と青の帽子を互いに交換すれば、その二人は強制的にカップルになるというやはり強引なイベントだ
このイベントにて女子生徒との関係を絶つつもりらしいルルーシュ
イベントがイベントなだけにあまり作戦にも緊迫感がなかった

「幸いこのイベントには教師も参加できる、…ヴィレッタに俺の帽子を奪ってもらう」
「それはおかしな誤解を招くだろう、この件は咲世子の…」
「申し訳ございません、私はイベント途中でルルーシュ様の影武者を」

責任の擦り付け合い、というのは少々言葉が悪いだろう
兎に角大事な大事なルルーシュの帽子の行方は一体何処へ
ふとヴィレッタの案でシャーリー・フェネットの名が挙がった
刹那、ルルーシュの瞳が僅かに細められたのに気付いたのはだけだった

「…だから、もう巻き込みたくないんだ」

ルルーシュがディスプレイを睨んだ

「とりあえずもうすぐスタートの合図が出るだろう、教室に戻ったらどうだ?」

ヴィレッタが思い出したように告げると、ルルーシュは渡された青色の帽子を手に立ち上がる
そしてソファーで一部始終を眺めていたに視線をやると、微かに表情を和らげた

「ねえ、ルルーシュ、あたしはどうしてればいい?」
「お前は此処で待機だ、下手に外には出るなよ」
「…えー、あたしも参加しちゃ駄目?」
「なっ、当たり前だろう!」

目を見開いて驚愕するルルーシュとは打って変わり、はしかし笑みを浮かべたままだった
こういうときのの言葉は最早了承を得るためではなく、確認だということをルルーシュは痛いほど知っていた
中華連邦のときもそうだった、この頑固な少女はルルーシュの駄目、という言葉に従った試しがない

「…大丈夫、みんなには見つからないようにするし」

にっこり微笑んだに、ルルーシュはきつく眉を寄せてから盛大なため息をひとつ、ついたのだった