寝坊か、とはのっそりと上体を起こして気だるげに目を擦った
真横にある窓から差し込む光は既に真上にあるし、学園内も騒がしい
自身の緊張のなさに苦笑を零してはゆっくりベッドから立ち上がった
デスクに置かれているルルーシュからの衣服、さすがに毎日制服でいるわけにもいかないのだろう
持ち上げてみればボーダーのニットのセーターに、その下はプリーツのスカート
何処の善良な一般市民だ、と肩を竦めてその衣服に腕を通した

クラブハウスにロロとルルーシュの姿はなく、機密情報局の司令室かと思案する
愛用のブーツをこつこつと鳴らし、が小さく欠伸を漏らしてキッチンへと向かった刹那だった

「学園より生徒の皆さんに緊急連絡です、クラブハウス近くに立ち寄らないでください」

不審者の目撃情報が入りました、そう慌てた声で放送される内容に目を見張る
クラブハウスといえば、此処だ
は慌てて玄関を抜けた

「ロロっ!!」

見た光景に、絶句する
倒れる使用人の咲世子、そして地面に叩きつけられる少年、の声に彼とその上の男性が彼女を向いた
男は見慣れない服装で、妙な仮面のようなものを左目に装着していた
それより問題点は大きかった、あのロロが追いやられているなんて、在りえない
時を止めるギアスはほぼ完全不敵、何故、ロロが

さんっ、」

ロロが押さえつけられた状態で彼女を見た
は瞬間地面を蹴りつけると、俊足ともいえる速さで其処を駆け抜け大きく飛躍する
手に武器はなかったが、その腕に意識を集中して外部的な圧力を腕に纏った

「ジェレミア卿!」

だが彼女の攻撃が届く前に、響いた声音に意識が逸れる
慌てて着地し、距離をとる彼らの元へヴィレッタが漸く到着した

「ルルーシュは今イケブクロの駅ビルにいます、お願いですジェレミア卿、わたしを解放してください!」

唖然とする、彼女はとロロの前でルルーシュを裏切ったのだ
ジェレミアは彼女の言葉を聞くと、暫しヴィレッタを見つめ静かにロロを開放した

「引き受けよう」

くるりと踵を返すジェレミア、は慌ててロロに駆け寄った





咲世子の手当てを終え、あたし達四人は手配された航空機に乗っていた
機内でロロが急いだようにルルーシュに連絡を取る
ジェレミアというやつは、どうやらギアスキャンセラーらしく、それでロロのギアスも効かなかったという
そんな人間が、いたのか、そんな能力が、あったのか
ギアスを無効化されて、ルルーシュに一体勝ち目はあるのだろうか
嫌な想像だけが脳裏を巡る

「…ルルーシュ」

漸くイケブクロ駅ビルのヘリポートに到着した直後、飛び出るロロに続いて航空機を降りた

「ロロ、あたしは下を!」

振り向き様に頷いた彼にあたしは非常階段を目指した
螺旋状になっているそれの吹き抜けを飛び降りる
着地する瞬間に、足に意識を集中させて衝撃を防いだ
もう手馴れてしまったこれに、僅か苦笑を漏らした瞬間だった

!」

煙に包まれ、人気の消えたビル内に響いた少女の声音、心臓が跳ねた
嫌な予感しかしなくて、それでも振り向けば眩しい橙色の髪の毛が見える
何故此処にいるのか、その疑問が駆け巡って逃げることを忘れていた

「シャーリー、どうして」
「やっぱりルルは此処なのね!、あなたがいるってことは」

目を見開いた、何故、それを
驚いて彼女を見れば、シャーリーは悲しそうに笑んで見せて足を止めた

「久しぶり、

改めて、告げられてあたしは激しい呼吸を徐々に整えていく

「聞いてほしい、の、あたし全部知ってるんだ、ルルがゼロで、貴方が黒の騎士団ってこと」
「っ!」
「でもね、だから!だからルルを助けたいの!一人にさせたくないの!」

ギアスが解除されていることに、然程驚きはしなかった
既にジェレミアの存在を認知していたからなのかは定かではないが、シャーリーの強い想いをぶつけられて多少ひるんでいた
色んな疑問が駆け巡るけど、それでもあたしはしっかりと彼女の言葉に耳を傾けていた

「お願い、一緒にルルを」
「駄目よ、シャーリー、此処は危険すぎる、戻って」

懇望するシャーリーに告げるのは辛かったが、此処が危険なことは確かだ
戦場となった此処に、彼女がいるのは相応しくない
シャーリーは一度くしゃりと表情を歪めてあたしの腕を取った

「お願い、信じて、私はルルを助けたいの!っ、貴方だって友達だもの!一緒にいたい!」
「あたしと貴方は違う!ここは危険なの!だから」
っ」

強く名前を呼ばれて、はっと彼女を見た

「本当は、ともずっと会いたかった、こんな形じゃなくて、もっといい形で
私と貴方は立場も全然違うかもしれない、でも私達は友達なんだよ?いつまでも!」

シャーリーの言葉に、息を呑んだ
あたしは、まだ、彼女の、友達でいれていたのだろうか

「全部知ってる、だから貴方とルルを救いたい!ルルの本当でいたいの!」

叫んだシャーリーの瞳に、迷いや恐怖は無かった
ただ一途に彼を思う、真実を突きつけられた少女が其処にいた
彼女もあたしと一緒だ、ルルーシュを、護りたかったんだ、彼を一人に、させたくなかったんだ
父親の敵であるゼロを、ルルーシュを、彼女は救いたいと言った
彼女は全て受け入れたんだ、ゼロであるルルーシュを、孤独な彼を、厳しい現実を
憎むべき相手なのに、こんなに想って、そして救いたいと
そんなシャーリーが、ひどく、切なくて、儚くて

「…シャーリー」

きっと、辛かった、何が本当か分からないこんな世界が
それでも真実を信じるシャーリーに、首を横に振ることなんてできなかった

「分かった、」
「ありがとう…っ!」
「でもあまり上へは行かないで、危険だから」

これは本当だった、彼女を戦いには巻き込みたくない、多分ルルーシュだってそう言う筈だ
シャーリーはにっこり微笑んで見せて首を横に振る

「危険でも、行かせて、ルルに会いたいの」

あまりに強いシャーリーの想いに、頷くしかなかった
そんな彼女を置いていくのは危険だと分かっていたが、ルルーシュより先にジェレミアに遭遇しなければ
彼とルルーシュを鉢合わせるのはあまりに無謀だ

「ごめん、シャーリー、先に行くね」

そう告げて再び床を蹴る、その刹那に声を掛けられる

、ありがとう」
「…、」
は黒の騎士団かもしれないけど、でも私達友達だもの、また会えるよね」

確信した物言いに、静かに頷いた
それに満足気に微笑んだシャーリーは、最後に大きく手を振った

「ありがとう!!」

そう言った彼女の笑顔があまりに綺麗で、あたしは無意識に浮かべた笑顔を零して踵を返した