目をそらしたかった、だけど其れは許されぬ行為
夕焼けの下、いつか見たように泣き崩れるシャーリーの母親に唇を噛む
あのときのように、彼女を支えてやる手は、もうない
シャーリー・フェネットは死んだ、ギアスの下、ギアスに翻弄され、ギアスによって
それでも表向きは彼女が自殺したことになっている

「いやああああっ!!」

真っ黒に染まった墓地、シャーリーの母親は泣き崩れただ声を上げた
それを辛そうに見つめるアッシュフォード学園の人間、ミレイとリヴァルはやりきれない気持ちで彼女を見た
ナイトオブラウンズのスザク、ジノ、アーニャは漆黒のマントを羽織り眉を寄せる

こんなことが、あっていいのだろうか
は彼女が土の中へ消えていく様子を見れずに物陰で、ただ泣いた





一度、強い風が吹いて少女の栗色の髪の毛を大袈裟に揺らした
それからは小さく屈んですっかり人気の消えた彼女の墓石に真っ白の百合を添える
嘘だと思いたかった、
ついこの間まで彼女は笑っていた、そうして先日自分に全てを打ち明けて、そして多分これから。
そんな矢先、彼女は死んだ、ルルーシュは一体何を思ったのだろう
ロロを、ロロを見て何を思うのだろう

「シャーリー…っ、」

情けなくもばたばたと涙が零れる
自分は何をしていたのだ、あの場にいたのに、きっと彼女を護れたはずだったのに
彼女はもういない、もう二度と笑ってくれないし、彼女と出会うことはない
苦しくて苦しくて、は小さく嗚咽を漏らしてその場に蹲った

「よく、此処に来られたな」

ふいに風に乗ってその場に響いた声には涙を溜めた瞳のまま声の出所を見た
驚きはしない、こんなところにいれば彼らに見つかってしまうのは分かりきっていたことだからだ
漆黒のマントを羽織ったナイトオブラウンズ3人が其処にいた
金髪の青年と、桃色の髪をした少女、そしてよく知っている枢木スザクである
は静かに目元の涙を拭うとゆっくり立ち上がった

「友達が亡くなったんだから、弔うのは普通じゃないの」
「友達…、黒の騎士団である君がシャーリーの友達だって言うのかい」
「…、何とでも言えば」

はまるで彼の言葉に関心を持たずに墓石を見る
ナイトオブラウンズが3人もいるのだ、捕虜として今この場で捕まってもおかしくは無いはずだ
それでも彼らに捕まらないという自信があるからだろうか、そんな中ジノがあっと声を上げる

「お前、この間の…」

指を指されていい気はしない、は黒の瞳を細めてジノを見る
先日キューピッドの日、彼にばったり出くわしてしまったが過ぎたこといつまでも言う口ではない
アーニャの朱色の瞳が鋭くを捉えた

「…、スザク、この女捕まえないの」

ふと響いたアーニャの言葉には不敵に微笑んだ
それでも紅く腫れた目元と乾ききらない涙の後は、痛々しく彼女を映す
此方の漆黒の衣服、つまり黒の騎士団の活動の際に身に付けているものを着ていた
こつり、彼女の黒のブーツが鳴る

「捕まえられるなら、ね」
「…」
「シャーリーの死は自殺になってる、だけど多分、嘘だ」

ぎろりと睨んだアーニャには挑戦的な笑みを浮かべる
スザクがふいに口を開く
言っていることは事実だが、真実ではない
確信のある物言いには眉を寄せて、それからゆっくりスザクをその黒の瞳で捉えた

「…あたしが何か、知っていると?」
「そうじゃなきゃ君は此処には来ないはずだ」

翡翠が妖しく光る、失礼な言い方だと、眉を寄せる余裕は生憎にはなかった

「シャーリーの死は、辛い、…でもお生憎様、あたしは何も知らない」
「嘘だ、知ってるんだろ!?彼女が自殺なんてするはずない!」

は辛そうに眉を寄せて唇を噛んだ
桃色の唇はすっかり血の気が引いて白くなり、誰がどうみても彼女の言葉に真実味は無かった
それでも、真実を伝えられるはずは無い、彼女の死は一生闇の中へ消えて、そして弔われればいい
いつしか煌々と光っていた黒い瞳は淀み、目元に水滴が徐々にたまり始めた
だが依然、スザクを睨む鋭さは衰えを知らない
つう、と白い頬を水滴が伝った

「あたしはシャーリーの、友達でいたかった」

ぼたり、足元に涙が落ちるとそれはみるみる土に吸い込まれて消えていた
死んだ人間はみな、こういう風に土へと帰っていくのだろうか
はくるりと踵を返した

「おいスザク!」

消えていく小さな背中に漸くジノが声を荒げた
彼女を捕虜にするには絶好のチャンスだったはずだ、なのにスザクはをみすみす見逃した
気に食わないアーニャも同じようにスザクを睨む

「なんであいつを捕まえなかったんだよ?」
「…無駄だと、思ったからかな」
「…スザク、変」

少年はシャーリー・フェネットと彫られた墓石を見つめ、硬く瞳を閉じた




「ギアス嚮団を…?」

目を丸くしてルルーシュを見上げる少女に、ルルーシュは鈍く頷いた
少女の目元はまだ紅かった、泣いたのだろう、頬に触れればかさりと乾いた感触が指から伝わる

「ギアスという能力を、いや、ギアスという存在を消すんだ」
「…、うん」

ふいに足元を彷徨う少女の視線に、ルルーシュはその小さな肢体を強く抱き締めた

「よく、泣いたか」
「ルルーシュこそ」

は抵抗もしなければ、しかし口を開こうとはしなかった
ぐったりとルルーシュの薄い胸元に凭れ掛かったまま、瞳を閉じた

「ねえルルーシュ」
「…なんだ」
「あたし、知りたいんだ、自分が何者で、何処から来て、何をするべきなんだろうって」
「…」
「多分、C.Cは知ってるんだと思う、だから、何も教えてくれない」

細い栗色の髪の毛に鼻を埋めて、ルルーシュは少女の言葉に耳を貸した
そうだ、多分C.Cは全部知っている、だから護るために何も言わない
しかしにはそれが辛かった、知りたかった、全部、何者なのか、自分は、誰なのか

「あいつは気まぐれだ、そのうちぽろりと言うだろ」
「そう、かな」

弱弱しく微笑んだの唇にルルーシュは自分のを押し当て、その身体を更に強く抱きこんだ