、といつもより声音の低いそれで名前を呼ばれ、少女は俯かせていた顔をモニターに向けた
見えるのは綺麗な綺麗なアメジスト、少しだけ、心配そうにを見ている
ルルーシュはこんな表情をする人間ではなかったのに、と少し苦笑をもらしてはインカムを装着した
「大丈夫、失敗はしないよ、シャーリーのためにも」
『…ああ、だが先ほども話したとおり、』
「分かってる、V.Vにはなるべく接触しないから」
にっこりと微笑んでみたに、それでもルルーシュの表情は晴れなかった
ギアス嚮団、V.Vを嚮者とするその組織を殲滅すべき黒の騎士団の一部はそのアジトへと向かった
勿論、黒の騎士団といってもギアスの存在を知るわずかな人間だけではあるが
今まさにジェレミアのネットワーク通信を使ってV.Vとコンタクトを取ろうとしているルルーシュ
ロロとジェレミア、とC.Cは合図を今か今かとナイトメア内で待っている状態だ
との通信を切り、ルルーシュはV.Vへネットワークを繋ぐべく、キーボードを叩いた
『待て、ルルーシュ』
中華連邦にて待機を命じられているC.Cから通信を切ろうとした際、である
最後に挑戦的な笑みを浮かべた彼女は、少しだけ表情を歪めてモニター越しのルルーシュを見た
立ち上がったところをもう一度椅子に座りなおし、モニターの奥の金色を見る
「なんだ、まだ何かあるのか」
『ギアス嚮団に、は連れて行かないほうがいい』
魔女は苦々しくそう告げるとアメジストから視線を外した
「何故だ」
『V.Vが、いるからだ』
V.V、C.Cと同じく不死の身体を持つコード所持者
現段階のギアス嚮団の嚮者である彼の元に、を連れて行ってはならないというのだ
アメジストがき、と細くなって鋭さを増す
肘掛に細い肘を付けて、ルルーシュはまるでどこぞの玉座に座っているような格好でC.Cを見据えた
「V.Vがいるから、だと?何故だ、言え」
『詳しいことはいえない、ただV.Vとを会わせては駄目だ』
まただ、詳しいことは言わずに曖昧に話を濁す
が泣きながらルルーシュに言った、C.Cに教えてほしいことがたくさんあるというのに、彼女は何も教えてはくれない
彼女にだって知る権利はある、否、知るべき事と知らぬべき事があるのは事実だが
「には言わない、俺だけが聞く、言え、C.C」
圧倒的な威圧感だと、魔女は思った
勿論こんな坊やに口を割るほど自分も落ちぶれてはいないと自負したが、それでも眉を寄せてこちらを見る少年は
真実を追い求めるには充分は覚悟と決意が垣間見えている
C.Cは暫し考えるように視線を泳がせてから、ふいにモニターを見た
『分かった、しかし全ては話せない、全てはいつか本人が知るべきことだからな』
そう言ってC.Cはかくん、と首をソファーに預けた
簡潔に言えば、ギアスを殲滅するということは自体をもこの世から消すということに繋がる
分かるだろう、ルルーシュ?
ギアスとは繋がっているんだよ、ギアスというものが消えればも消える
とギアスは直結しているんだ、ギアスがの命、というのは少し違った言い方だがな
勿論、今回お前が起こそうとしていることでが消えるということはない、
お前のギアスがまだこの世にある限り、も消えることはないんだよ
私が言えるのはこのくらいだ、ギアスとは繋がっている、それだけを忘れるな
例えばお前のギアスも含めてこの世から消えるというのならば、無論も消えるさ、消滅だ
だがもしギアスを殲滅してもお前のギアスがこの世に存在する限り、はお前の傍からは消えない
私の言葉から真実を導き出せ、ルルーシュ、V.Vとを会わせるな
どん、という鈍い爆発音、白い不気味な建物が音を立てて崩れていく
「V.V、裁きを下すのは、俺だ」
ルルーシュの蜃気楼の傍に控えるロロのヴィンセントとジェレミアのサザーランド
V.Vは鋭くモニターの奥のルルーシュを睨んで唇を噛んだ
「…これは、」
建物の中はまるでもう一つの都市のようなものだった
そうしてやC.C、そのほかの黒の騎士団のナイトメアに逃げ惑う白の装束の人間達
彼らは一方的に逃げ惑うだけで反撃はない、此方が虐殺しているように捉えられても仕方ない光景だった
はきつく眉を寄せ、銃を構えるだけで発砲はしなかった
転がる真っ赤な死体、本当に彼らがギアスの源、シャーリーの仇なのだろうか
「C.C…」
『余計なことは考えるな、』
不安になって繋いだ無線の奥の彼女も、抑揚のない声音でそう返すだけだ
ここにいる人間は反撃はおろか、武装すらしていないのだ
ギアスの殲滅、それは勿論実験体資料を含めた殲滅ではあるが、これではまるで虐殺だ
「!」
断続的に続いた爆発音とは違った音の後、一度目にしたことのある、特徴的なナイトメアが姿を現した
オレンジ色のナイトメア、それはブラックリベリオンの際にジェレミアが搭乗していた機体である
何故それが今ここで、は思わず照準をそちらに定めた、が
瞬間、緑色の巨大スラッシュハーケンが勢い良く蜃気楼に突っ込んだ
「ゼロ!!」
巨大なそれに対し、絶対守護領域のバリアを駆使しそのまま建物の外へと消える蜃気楼
十六夜も同じように建物から飛び出ると、ジークフリートに輻射破動砲を向けた
トリガーに指がかけられ、ルルーシュは思わず彼女のそれにスラッシュハーケンを伸ばして阻止する
「ゼロ!?」
『お前は手を出すな!』
此処でがV.Vに手を出せば彼に感づかれてしまう
C.Cが言うほどなのだ、V.Vはきっとを探している、きっと、手に入れようとしているのだ
今此処でV.Vにの存在を気付かれてはならない、なるべく彼の意識を反らさなければ
ルルーシュの思惑に誰よりも早く気が付いたジェレミアがジークフリートに発砲した
『全軍、攻撃開始!!』
ゼロの声で一斉に銃弾の雨がジークフリートに降りかかる
だが電磁装甲によって銃弾を全て弾き飛ばすジークフリートは、回転をそのままに黒の騎士団のナイトメアを破壊していった
圧倒的な強さである、元よりジークフリートはその電磁装甲によって防御は勿論のこと、
その回転による攻撃は近づけず、しかし相手からは一方的な攻撃によるものでブラックリベリオンの際もルルーシュが眉を寄せていた
ルルーシュの、ゼロの命令によってそれを傍観するだけのは強く唇を噛み締めてその戦いを見つめた
『できたよ、兄さん!』
ルルーシュの命令か、ジークフリートに機体をぼろぼろにされながらも取り付いたヴィンセント
しかしその機体から発せられる電磁波に、ロロの悲鳴じみたそれが聞こえた
その瞬間、崩れかけた建物の中から何発もの銃弾が飛び交い、思わずヴィンセントはジークフリートから離れ落ちる
手足が壊れたヴィンセントをすかさずキャッチした十六夜、ロロは驚いてモニターを見た
「大丈夫、ロロ!」
『ありがとう、ございます』
ロロの少し掠れたその声を聞いてから、は照準を中破した暁に合わせた
どう見ても応急改造を施したであろうその機体に乗っているのは、見知った臙脂色の髪の毛
ユーフェミアの実の姉、コーネリア・リ・ブリタニアである
何故彼女がこんなところにいるのか、そんな疑問もしかし無意味だった
恐らくジークフリートの弱点をついているその攻撃に、いつしかV.Vの乗った機体は攻撃もままならない状態となる
それを呆然と、見ていることしか出来ないロロと
そして、コーネリアとルルーシュの乗る蜃気楼が同時に射撃を開始した
「この呪われた皇子め!!」
忌々しげにV.Vが吐き捨てた言葉に、アメジストは僅かに細められるだけだった
ひとつ、大きな大きな爆発が起きて爆音が響き渡る
「…死んだ?」
『いや、V.Vは不死身だから、まだ…』
爆発したジークフリートが建物の中へと吸い込まれていく様を見つめ、は呟いた
そうだ、V.Vは不死身、ルルーシュの作戦では高圧力ケースに彼を封印するのが目的だ
其れを示唆して、はなんとか飛翔滑走翼の機能が生きているヴィンセントを手放し建物内に向かう
『さん!?』
「ルルーシュには中にいるって伝えて!」
少しくらい彼の力になりたい、はそう思案して廃墟と化した建物の中へ十六夜を向かわせる
既にジークフリートの中に人影はない、恐らくV.Vは機体から逃げ出しこの建物の中の何処かにいるはずだ
そうして辿り着いたのは外の光が僅かしか差し込まぬ、祭壇のような場所、
真っ赤な絨毯が地面に敷かれていて、その先はまるで祭壇そのものだった
そこに蹲る、一人の少年、ははっとした
「いた!」
見つけたと言わんばかりに、は十六夜を下降させて此方の存在に気付いたV.Vにライフルを向けた
照準を合わせると頭から真紅を流す幼い顔付きの少年がそこにいた
は眉を寄せて彼を見る
何処かで、何処かで見た気がする
そんな途方もないような曖昧な記憶に促されるように、は銃を構えながら十六夜を降りた
「V.V、降伏して」
かちゃり、トリガーに手を掛けながら絨毯の上に這い蹲る少年に銃口を向ける
V.Vは一度瞳を細めてからゆっくりに振り返った
身に付けていたマントは破れみすぼらしい格好となったV.Vはそれでも高貴な笑みを浮かべて静かに立ち上がる
「、まさか君から会いに来てくれるなんて」
「なんであたしの名前を…!」
の眼光が鋭いものに変わり、しかしV.Vはにやりと不気味な笑みを浮かべるばかりである
「そっか、そうだよね、君には忘れてもらうようにしたんだもんね、」
「何を言って…、」
「」
びいん、と響いた少年の声音
真っ直ぐと此方をみる紫色の瞳に、は言葉を失った