ルルーシュはふと、ヴィンセントと共にいるであろう十六夜を振り返った
先ほどジークフリートより振り落とされたヴィンセントを庇ったのが十六夜だったのだ
しかし見えた先にはヴィンセント一機のみが、上空に佇んでいる
ジークフリートの中に、V.Vはいない
ルルーシュはさ、と血が引くのを感じた

「ロロ、はどうした!」
さんならさっき建物の中に…』

切羽詰った自身の声に、ロロが心配そうに返答した
やはり、ルルーシュの予測どおりだった
彼女はV.Vがこの建物内に逃げたのを知って彼を追ったに違いない
自分の管理ミスだ、不味い、とV.Vを接触させては駄目だ、一気に脳内がそのことでいっぱいになった
すぐさまC.Cへの回線を繋いで、ルルーシュは建物内に侵入する

「C.C、聞こえるか!」
『どうした』
が消えた!V.Vもだ!」

言えば無線の奥でC.Cの息を呑む音が聞こえて、それが更にルルーシュの焦燥を煽った

『何故から目を離したんだ!』

焦るC.Cの言葉にまともに反論すらできない
兎に角とV.Vを会わせては駄目だというC.Cの言葉に、ルルーシュは慌てて十六夜を探すべく操縦桿を握った



、思い出してもいいよ、あの日、僕と会ったこと」

少年が呟くように吐いた言葉が崩れかけた其処に鈍く響いた
視線が反らせない、はただ食い入るようにV.Vの薄紫の瞳を見つめる
そうして真っ黒な漆黒より深いその瞳は段々と、しかし確実に朱色に染まっていった

「…あ、」


差し伸べられた手、不気味な笑顔、そしてその傍らには、見知った少女
硬く瞳を閉じぴくりともしない両脚、そう、ナナリーだ
ブラックリベリオンの日、ルルーシュを探すべく学園内にいたの目の前に突如現れた、少年
否、が突如その辺鄙な場所へと導かれたのだろう、その場にいたのがナナリーと

「V.V…」
「あれから君がブリタニアに捉えられることを知って少し消して貰ったんだ、シャルルに」

V.Vは愉快そうにそう言ってみせて、深手を負っているはずなのに嬉しそうに続ける

「シャルルのギアスは完璧じゃないなんて言ってたようだけどそれは違うよ、
あのギアスは完璧だ、シャルルに一番に消してもらいたかった記憶は僕との遭遇だ
君が神根島のすべてを思い出したのは君自身能力、でも勿論シャルルのギアスには叶いっこないけどね」

言っている意味が分からなかった
いつしかV.Vに向いていた銃口は下げられ、は困惑した表情でV.Vを見るだけである
反論も、勿論意見すらできない
まるでそれは何かを言い聞かせられているようなそんな錯覚に陥ったのだ

「教えてあげるよ、、どうもC.Cが言ってあげないようだからね」

真紅の伝った幼いその表情には身震いをするような笑みが浮かべられて、は逃げ出すことも出来なかった


「君は何処から来たのか、自分が何者か、分からない、それをC.Cに聞いたらしいけど、本来ならばそれは僕にすべき質問、
何たって、君は僕のお陰で今この場にいるんだ、僕が君の親だといってもおかしくない、分かる?
簡単に教えてあげるとね、君とギアスは繋がってる、ルルーシュやシャルルとは訳が違う
君のギアスは君の存在そのもの、君もギアス所持者だ」

ギアス、其れが何なのか、聞いてはならないような気がした
耳を塞いでしまいたいような衝動は、V.Vの唇から零れるあまりに大きな事実にかき消されていった



今から16年前、一人の少女が産み落とされた
母親はギアス嚮団に加担する重要な人間ソフィー・サリエマール、彼女はギアス所持者だった
彼女はしかし決してギアスを使うことはなく、無論、彼女のギアス内容を知るものはいなかった
ソフィーはマリアンヌの騎士としてアリエスの離宮に住まわり、そうしてV.V、C.C、シャルルとも繋がっていた

彼女は優秀だった、ナイトメアの操縦は勿論戦術センスも全て含めて
だから円卓の騎士でもあったマリアンヌが自ら彼女を騎士に選任したのである
しかしマリアンヌの騎士として、彼女の名前が公に上がったことは嘗て一度もない
それは彼女の生い立ち、ソフィーが貴族でもなく、元はただの使用人だったためもある
だがそんな彼女だからこそ、マリアンヌは騎士とした選任したとも言われていた
ソフィーは若くして子供を身ごもった、父親は誰も知らない、彼女は何も言わなかったのだ

ある日、ソフィーは一人の少女を産んで、死んだ
殺されたのだろうか、マリアンヌはそう呟いて連日ルルーシュたちのいない部屋で泣いたという
そんなソフィーが産んだ少女、それがだったのだ
もとより貴族に好かれていなかったソフィーの子供、彼女を養子に貰ってくれる人間は誰一人としていなかった
孤独な哀れな赤子、マリアンヌはそんな少女を自身の養女として受け持つ覚悟を決めていた
だがは消えた、ある日突然、白い質素なベッドはもぬけの殻となっていたのである
無論、大それた捜索はできなかった、それがソフィーの子供であるということもあったからだ
マリアンヌはの無事を一人祈り、そうしてあの日、殺されたのだ


「ねえ、僕の言いたいこと、分かる?」

V.Vは其処まで話すと、一旦口をつぐんでから微笑んだ

「僕が君を攫っていったんだ、丁度その時嚮団にいた子供はみんな自分で立って歩けるような歳だったからね
何事もそうだろう?調教を始めるのなら、一から始めるより、ゼロから始めた方がいいんだ」

V.Vは新たなギアス保持者となる人間を作り上げたかった
は丁度いい実験材料だったのだ、親のいない赤ん坊、刻み付けるにはやりやすい、生まれたばかりの人間
だが、そこでV.Vはソフィーのギアスを知ったのである

「君の母親は死ぬ間際に君に最悪のギアスをかけて死んでいった」

ソフィーのギアスは、多分、V.Vが知るうちで尤も恐ろしいなギアス
彼女のギアスは呪いというに等しい、それだった

「ソフィーのギアスは、呪い、産んだ君に死という呪いをかけて死んでいった」

多分、使える回数がひどく限られていたのだろう
言われてみれば彼女が騎士に成り上がるまで、いくつかの不審な点があった
彼女の成り立ちには数回、知るべきではない血染めの道が敷かれた
思い出せばあのとき、彼女は自身のギアスを使って人間を殺したのだということが分かる
そんなギアスを死ぬ間際、自分の子供にかけたというのだ
勿論、ギアスはすぐ効力を発揮せず、しかし日に日にギアスをかけられたは弱っていった

「君は一度死に掛けた、本当はそのまま死んでもよかったんだけど、まあ他にないいい実験材料だったからね」

V.Vがに与えたギアスは、ソフィーのものとは真逆の、生というギアス
そして瞳ではなく胸に刻まれた刻印こそ、彼女のギアスの証であった
ルルーシュやシャルルのものとはまるで違う、のギアスは命と直結したものだった

「僕が君を生かしてるんだ、君の存在も、僕によってできたもの」

君は僕のお人形なんだよ、V.Vの呟いた言葉に、は、目を見開いて、その場に崩れた

「それから僕は君を特別訓練施設に入れた、公には知られてない、裏の軍施設だ」

特別訓練施設というのは、孤児などまだ10歳にも満たない少年少女が将来ブリタニアのために訓練される施設である
そこに入ったとき、軍人が与えた名前こそが、だった
母親はブリタニア人だというのに、彼女の容姿は身体つきがひどく小さく、そしてその真っ黒な瞳であったから
軍人は彼女を日本人だと勘違いして名づけたのである
しかし特別訓練施設は後に閉鎖された、理由は勿論その施設内で行われていることがあまりに卑劣で残虐なものであったからだ
施設に入っていた孤児は皆それぞれ通常の施設へと送られたが、はV.Vの手引きで再びギアス嚮団に戻ってくることとなった

「それから君は様々な訓練を強いられた、まあ特別訓練施設にいた頃と変わらなかったんじゃないかな」

ナイトメアの操縦、銃の使い方、人の殺し方
ギアスによって生命を繋ぎとめられているに感情はなく、淡々と全てを飲み込んでいった

が15歳のときだった
V.Vは再びに新たなギアスを与えた
それは全てを忘れるという、シャルルと似たようなもの
に生存上で必要な知識だけを残し、本来生まれ持った性格を与え、それまでの記憶を全て抹消させた
それはギアスというよりかは、リセットのようなものだった

「だけど君にあんな力があるなんて、思わなかったなあ」

V.Vがいう力というのは、が身体の意識を集中してそれを物理化させ、攻撃や防御に使うものだ

「多分、僕が思うにその力はソフィーから受け継がれたものだと思うんだ
元々ソフィーの能力は殺傷能力、それに似たようなものが君も受け継がれた、あるいはそれを受け継がせるというのが
ソフィーのギアスだったのかもしれない、君に呪いをかけて死んでいったソフィーの最後のギアス」

そう、ソフィーはただに呪いをかけて死んでいったのではない
に人外なるその力を授け、死んでいったのだ

「さて、多分が知りたいことはこのくらいかな?ここからは僕の話
僕は君に生というギアスをかけたけどその際、君に存在理由は与えなかった、だから君は何も考えず何も感じずに
ただ育っていった、だけど一度君をリセットしたとき、僕は君が生きながらえることを考えて生きるという生存理由をあげた
だから君は今も生きてる、人を殺すためじゃなくて、生きるために、生きてるんだ
でもね、君は邪魔なんだ、僕達の作戦には、でも君を殺すにはあまりにも勿体無い、だから君の存在理由を書き換えることにしたよ」

は既に光の宿らない瞳ではっとしてV.Vを見た
少年は変わらず笑んでいた、その出血量でいつまで続けられるのだろうか

「生きるという存在理由はいつしかルルーシュを護るというものに変わっていった、それは君も分かるだろう?」

そう、はあの日から生きるために生きるのではなく、ルルーシュを護るというために生きてきた
あれこそが、存在理由というに等しい、の決意だった

「そんな理由はいらないよ、君はこれからは僕やシャルルのために、生きるんだ」
「や、やだ…、やだ…っ!」

力の入らない足腰、逃げ出すこともできなかった
V.Vはゆっくりと脚を引きずっての元へと歩み寄る
不気味な笑み、小さな少年の血塗れた手が、の額にそっと宛がわれた

「可哀相な、でも君が間違えたのがいけないんだよ、あの日ギアス嚮団から逃げ出した日、
ルルーシュになんか出会わないでブリタニアに明日を見ればよかったんだ
そうすればこんな邪魔な存在にはならなかったのに、勿体無いな、、は」

ルルーシュと出逢ったことは、間違いであるはずがない
はそこで初めて生きるということを見出し、存在理由を自ら見つけられた
孤独な可哀相な彼を護りたい、彼の傍にいたい、それだけがの生きる理由だった

「いっ、いや、だあっ、…やだやだっ!」
「ほら、、思いだして、本当は僕のものだったんだよ、ルルーシュなんかに騙されて、君を知るのは僕一人なんだ」

だから。僅かに朱に染まっていく瞳が、紫を見た

「僕のために生きるんだ」