最早瓦礫と化したそこに、は懐かしめいた何かを抱いてそれを見つめた

ここで自分は生かされ、V.Vに生という呪いを与えられた
ギアスの根源、ギアスの呪いはこの世には必要ないのである
震えるC.Cは一度蜃気楼で待機させられ、嵐のあとの静けさが漂うそこにとルルーシュはいた

「あたしは、お母さんに、呪いを貰った」
「…」
「そしてV.Vは生きるという、呪いをくれた」

あたしはいい実験材料だった、こんな人外と呼ぶに等しい力を託して、戦えというのか
致命傷でなければ治癒できるこの力、それすら生の呪いというのか
ふと、崩れた瓦礫のそこに座り込む人影を見た
だらりと垂れ下がる金色、小さな人影はぴくりとも、動かない

「…あれは、」
「V.V、…!」

途端、ルルーシュが警戒した様にの腕を引くが細い腕はするりと彼の手中を抜けた
よろよろと動かないV.Vに近寄り、は目を見開いた
白い手が、小さな肩に触れる

「V.V」

奴は不死身だ、に生を与えた張本人、ルルーシュは思わず少女を止めようと駆け出すが刹那、息を呑む
ゆっくり膝を折り、俯くV.Vと同じ目線になると少女は静かにだらりとぶら下がる彼の手を握った
尽きぬ命を持つ彼の、子供のような手は、冷たくなっていた
V.Vの足元には、真紅の塊

、」

耐え切れずに名前を呼ぶルルーシュに、は一瞥もくれずにただV.Vを見た
決して開かれぬ瞼、ああ、彼は、死んでしまっているのに

「…皇帝のコードは、V.Vから奪ったもの、か」

コード所持者は不死身だ、ギアスという能力を持たなくとも神に等しい永遠の命を持っている
しかしルルーシュが与えた致命傷は、傷が癒える前にコードを奪われたV.Vの身体を死へ導いた
V.Vは死んだ、
は悲しみに暮れるわけでもなく、呪いを与えたV.Vの死を笑むようなこともせず、ただ彼を見ている
それから冷たくなった動かない手を握って、立ち上がった

「あたしは、V.Vに生かされた、今となって生存するべき意味を、書き換えられたけど」
「…」
「だけどあたしはルルーシュを護るために生き続ける、もう、迷わない」

振り返ったの目元に光るそれを見つけてルルーシュは苦しそうに表情を歪めた
白い手中から、生気を失ったその小さな手が滑り落ちる
重力に従い地へ吸い込まれた彼の手、は一度V.Vを見てから踵を返した
真っ直ぐに、ルルーシュはを見た

「俺はお前を手放したりしない」
「うん」
「誰も、失わない」

ルルーシュの華奢な手がへ伸ばされる
それを暫し見つめて、は静かに自身の手を彼に差し出して、握り返した


「さよなら、V.V、あたしはルルーシュのために、生き続ける…―ありがとう」


こつり、と二つの靴音が段々と遠のいていく

あたしはV.Vに生かされた、その理由がどんなものであれ、死ぬべきあたしを彼は"救って"くれたのだ
だから今、大切なルルーシュのために、生き続けれる
ありがとう、V.V、貴方を恨んだことはなかった、あたしを生かしてくれた貴方を
あたしは貴方のためには、もう生きれないけれど、貴方がいつかあたしを思い出したとき、

「…」

きっとそのとき、そこは優しい世界で、ありますように。





、だよ、って呼んでみて?」

斑鳩のプライベートルーム、は部屋の隅っこで怯えるように此方見る若草色の少女にやんわり微笑みかけた
金色の瞳にはの知る鋭さとか、余裕はなく、ただ人間という存在を恐れる少女が其処にいた
C.Cが記憶を失ったのはコード継承を恐らく途中で中断したためのエラーだと思える
彼女の記憶がいつ戻るかは定かではないが、今はそんなことを後ろ向きに考えているときではないのだ

「…ご主人、さま、ですか」
「違うよ、、ね、呼んでみて」

びくびくとやっぱり震えたままのC.Cに出来るだけ優しく問いかけた
C.Cは暫く考えるようにしてから一度視線を泳がせ、やっとの黒の瞳を見る
桃色の唇が、弱弱しく動いた

「…ん、、さま」

うまく発音できないのだろうか、口の中でくぐもったように、しかしC.Cは小さく小さくそう漏らした

「そうそう!それ!…うーん、でも様はいらないかな」

ギアスに掛かる前の、奴隷の少女
ここらが限界かな、とは勝手に解釈すると嬉しそうに微笑んで怯えるように彷徨う手をとった
びくり、と大きく肩を揺らしてC.Cはを見る
動揺とか、困惑とか、そして恐怖が入り混じっている金色の瞳

「大丈夫、痛いこともひどいこともしないから」

そう言ってはみたものの、C.Cは慌しくソファーの後ろに隠れてしまった
慣れてもらうのはそう容易いことではないようだ
は固まった筋肉をほぐすように立ち上がると、奥にいるルルーシュに歩み寄る

「皇帝が行方不明っていうのは本当?」
「ああ、恐らくあちらの世界に閉じ込められたままなのだろう、…これでナナリーの安全が保障できる」
「…よかった」

皇帝がいる限り奴の監視下にいるナナリーの安全は保障されない、が、今皇帝は行方不明
このチャンスを逃すわけにはいかないのだろう、恐らく近いうちにもナナリーの奪還作戦が行われるはずだ
ぎ、と背もたれに背中を預けたルルーシュが斜め上にある少女を見る

「…C.Cに聞きたいことがあったんじゃないか」
「…全部思い出したの、まあ経緯とかは全然分からないしV.Vはもういない、教えてくれるのはC.Cだけなんだけど」
「肝心のC.Cは記憶を失ってる、か」
「…そんなにうまくいかないものだよね」

困ったように微笑んだの細い腕を、ルルーシュはふと引っ張った
バランスを崩して彼の膝元に倒れ込んだは不服そうに顔をあげてアメジストをじろりと見やる
床に膝を着いて、しかし肘は彼の太腿にあって、変な体制だった
しかし急に真剣みを含んだアメジストに、は文句を垂れるわけでもなく口を閉ざす

「お前の母親は、俺の母さんの騎士だったんだろう?」
「そうらしい、ね。それをそのままあたしが受け継いでるみたい、マリアンヌ様の子供のルルーシュに
ソフィーの子供であるあたしが騎士になって、輪廻っていうのかな」
「いやに哲学的なことを言うんだな」
「好きでしょ?こういうの」

にやり、と微笑んで魅せたにルルーシュが吊られて微笑んだ

「…それにお前、イレブンって言ってきたくせに、実際ブリタニア人なんだろう?」
「…、それは分からない、お父さんがどんな人か知らないし、その人がイレブンかもしれないでしょう」
「そうだな」

ソフィー・サリエマールは何を考え何をしようとして、を産んだのか
そして何故彼女に呪いを与え、死んでいったのか
何故は多すぎる、それでも今のこの状況に感謝するべきだと、は思案した

「嬉しいな」
「何が?」
「お前も俺も、一つ前の世代から関わりがあったんだ、騎士と主という、な」
「運命的だって言いたいの?」
「そう解釈してもいいぞ」

ああ、嬉しいよ、ルルーシュ。
はぎゅう、と彼の胴体に抱きつくと胸よりやや下の薄っぺらい腹に顔を埋める
彼の匂いが伝わる、彼の温もりが、こうして感じられる幸せ

「あたしがルルーシュを護るのは、決まっていたことなんだね」

幸せそうに呟く少女の髪の毛を、ルルーシュはそっと撫でた