いけない、今、ルルーシュにかけてやる言葉が、ない

は動揺していた、否、無論ルルーシュの焦燥は計り知れないものだろうが
皇帝が生きていた、其れはすなわちナナリーの身が再び危険に晒されるということ
ギアスも通じない、黒の騎士団の人質でもあるコーネリアの命すら構わない、奴に対する勝算が見つからない
下手な言葉はかけてやれない、大丈夫、だなんて、言えない

はきつく唇を噛み締めてそこを逃げるように飛び出した
後ろでC.Cで何か言っているような気がしたが、足を止める気にはなれなかった


「(…どうするんだ、ルルーシュは、どうすればいい)」

少し走ったところで足を止めた
その場に座り込む、大して走っていないのに、息が大袈裟に乱れた
皇帝が何をするか分からない、ゼロの正体を明かしてしまうかもしれない、ナナリーを殺すかもしれない
今までルルーシュが積み上げてきたものを、奴は一瞬で崩すことさえできるのだ
仮にナナリーを助けれたとして、黒の騎士団のリーダーが敵国の皇子となれば見方は消える
これこそが絶体絶命というに等しい状況なのだと、は身をもって知った




部屋に戻ると、室内は嫌に静かだった
C.Cが驚いたようにを見てから小さく小さく微笑む
ルルーシュは奥に居た、携帯の端末を握り締めて苦い顔をしている

「…何してるの」

何も言わないでおいた
軽はずみな言動は、間違いなく彼を傷つけると気づいたからである
ルルーシュはを見ると、一瞬苦しそうな顔をして小さく呟いた

「ナナリーを、助けてもらう」
「…誰に」
「C.Cが言ったんだ、中から痛いときは、友達に助けてもらうんだと」

ルルーシュの言葉全てを理解できたわけではない、しかしその中の友達というフレーズにが固まった
ナナリーを助けてくれる、ルルーシュの唯一の友達、
は目を見開いた

「な、なんで…なんで…、あいつは駄目!あいつなんかに頼んじゃ駄目!!」

枢木スザク、彼の顔が一瞬での脳裏に蘇る
決して許さないと、誓った男、憎い、麗らかな小さな恋心がいつしか憎しみに変わった

「…あいつしかいない、今の俺ではどうしようも、ないんだ」
「駄目よ、いやだ、やめて、あいつなんかにっ!」
「スザクしかいないんだ!!ナナリーを護ってやってくれるのは!」

叫んだに、思わず感情が高ぶったルルーシュも叫んだ
驚いたC.Cが慌ててソファーの裏に隠れる
だって分かっていた、スザクはナイトオブラウンズ、ナナリーを護ってやるには、一番近い存在
だけどは彼が許せない、どうしても、ルルーシュが彼に頼み込むのが許せなかった

「あいつはナイトオブラウンズだ、ナナリーを護ってやれるのは…助けてやれるのはあいつしかいない」

の表情に悲壮が浮かぶ

「ルルーシュはあいつに裏切られたんだよ!?あんな奴、許せるはずがないでしょう!」
「でもあいつしかいないっ、俺にはどうしようもできない!」

唇を白くなるほど噛み締めたが思わずルルーシュの手から端末を奪った
その顔には苦しさと、悲しさと、言いようもない悔しさが滲んでいる
端末を奪われたことに、ルルーシュの表情がいよいよ歪んだ

「ブリタニアの中で、あいつしかいない!!」
「いやだ!!やめてよルルーシュ!あたしがナナリーを助けるからっ、」

スザクに裏切られて、皇帝に突き出されて、ルルーシュはもう十分苦しんだ
もしまた、スザクに裏切られたらルルーシュが、あまりにも可哀想だった
にはそれだけだ、ルルーシュが心配で、裏切れたら、もう彼は人を信じれなくなってしまう
それがは怖かったのだ

「お前には出来ない!!」
「出来る!あんな奴に頼むくらいなら、あたしがっ!!」

叫んだに、思わずルルーシュは彼女の手中から端末を力付くで奪い返した
衝撃にが後ろへよろめく
それでも強い眼光に、ルルーシュは告げた

「何も出来ないくせに!!お前にナナリーが救えるはずないだろう!俺にはもうっ、ナナリーしかいないんだ!!」

そう、黒の騎士団のに、シュナイゼルのいい道具として成り下がってしまうかもしれないに、
現エリア11総督のナナリーを救い出すことは、不可能だ

がたん、とルルーシュの手中を端末が滑り落ちた
叫んで、ルルーシュはを見れなかった
俯いて彼女に背を向ける、彼女の表情を見ることが、怖かったのである
分かっている、が自分を心配してこんなことを言っているのが
しかし現実に、ナナリーを救えるのはスザクしかいないのだ
ルルーシュがこうしてゼロとしているのも、世界を握ろうとしているのも、全部全部ナナリーのためだ
彼女が死んでしまっては、もう、どうにもならない

「…、さま…、どこか、痛いんですか」

小さな声でそう告げるC.Cの声が静寂の部屋を包む
痛いよ、胸の奥が、張り裂けそうに、痛いんだ
がく、と息を呑むのが聞こえた
ルルーシュは、多分、またを傷つけてしまった
それを直視することすら、怖い

が泣いているかもしれなくて、怖かった

「…」

ルルーシュがゆっくり振り返れば、は決して泣いてはいなかった
苦しそうに歯を食いしばって、瞳を閉じた

「あたしには…、確かに、ナナリーを助けることは、できないかもしれない」

震える声音、しかし決して涙は零さなかった

「でも、…でもっ、ルルーシュを護ることも、できないの?」

水滴の膜を張った大きな瞳がアメジストを見た
そのまま長い髪を翻しては部屋を出た
彼女の気持ちは痛いほど分かる、勿論感謝もしている

「…すまない、

自分にはナナリーだけだと言っても、は決して泣かなかった