「…ルルーシュが?」

結局あのまま部屋に戻らずに自室へと篭ったままのがC.Cの前に現れたのは翌日だった
C.Cは一人で何やらリモコンと奮闘しながら驚いたようにを見る
彼女によるとルルーシュは何やら朝早くから何処かへ出掛けたという
信じがたい、今日、カゴシマ沿岸で黒の騎士団が超合集国憲章の初めとして赴いているのに
一体指揮官でるゼロがどこへ出向いたというのだ

「…本当に、スザクに」

ルルーシュはきっと最早手段は選ばない
自分を売った相手にでさえ、ナナリーが助かるというのなら縋るはずだ
それで昨日、自分達は喧嘩したままなのである
交渉は受諾されたのか、否、スザクがいまさらルルーシュの言葉を信じるはずもない
ルルーシュはどこへ行った

「…あの」

ぐう、と眉を寄せるにC.Cが控えめな声で口を開く
振り向いて、はああ彼女はC.Cではないのかと改めて思い知らされた

「あの…ご主人様は、昨日、く、くるるぎ、じんじゃ…?に…とか言っていたんですが」
「枢木神社?」

知っている、彼はまだ日本が日本である時代、首相の息子であり神社に住んでいたという
そこにブリタニアからルルーシュとナナリーが送られてきたのだから
まさかスザクがそこを指定してルルーシュを呼び出したのだろうか

「ルルーシュ、枢木神社に行ったの?」
「え、と…ごめんなさい、よく、分からないんですけど…」

C.Cにこの状況が理解できるはずがない
それでも大切なキーポイントを彼女は耳にして、記憶していた
それだけでもにとっては大きな収穫である

「ううん、ありがとう」

確証はない、だがにはルルーシュを守るという責務がある
自分のただひとつの生存理由、無駄足でも構わなかった、がそこへ向かう理由などひとつでいい

「ごめん、またお留守番よろしくね、C.C」

駆けていった背中をC.Cはただ真っ直ぐ見つめていた





枢木神社の場所は調べればすぐに分かった
海の見える神社、古く、由緒ある場所である
斑鳩の滞在していたそこからそう遠くはなく、は銃を一丁だけ懐に隠しコートを羽織った
彼女が黒の騎士団として活動する際に来ている衣服は全身真っ黒である
ロングブーツもショートパンツも中に来ているタンクトップ、そして膝下まであるコートも黒だ
一見街に居れば不審に思われるその格好も人気の少ないゲットーであれば浮くはずもない

「…ここ、か」

長い長い石段、一番上は遠く木々に覆われていて肉眼で確認することは不可能だ
この石段を、幼きルルーシュとナナリーは上ったのだろう
ブリタニアから捨てられて幼いナナリーをたった一人で守るルルーシュは恐怖で一杯だったに違いない
自分のあの、人並み外れた力があればこんな石段を上るのに時間は要さないだろう
それでもは確かに一歩ずつ石段を踏んだ

「(…お母さんが、この力をあたしに与えた)」

ギアスとは似ていて違う、物理的なこの能力
殺すことも出来る、癒すことも出来る、この力は強大だ
それゆえにはこの力をくれたという母に感謝と憎悪を感じる
こんな力があるから自分はv。vの人形になった
この力があるから自分はルルーシュを護れる

「…、」

目の前を舞った木の葉にそっと手をかざして意識を集中した
手を退かす頃には木の葉は既に塵となって空気と混じっていた



上りきる頃、は息を殺して気配を消した
聞きなれた声が聞こえたからである
ルルーシュの、これ以上ないほど追い詰められたような、苦しそうな声音
そっと近くの茂みに身を隠しては顔を上げた

「俺は今、初めて人に頭を下げている」

赤い砦の下、黒の制服に身を包んだ青年が二人いた
一人は地に膝をつけて、顔は見えないがルルーシュである
そうしてそんなルルーシュを冷めた瞳で見下ろすのは枢木スザクだ

「今になって、なんだそれはっ」

スザクの足がルルーシュの頭を踏みにじる
白い石が引かれた地にルルーシュは顔を平伏す形になっているが何も言わない
は思わず息を呑んだ

「許されると思っているのか、こんなことで!」
「…思わない…!だが今の俺にはこれしか…ナナリーを救うにはお前に縋るしかないんだ」

あの山より高い自尊心とプライドを持つルルーシュが人に頭を踏みつけられても抵抗しなかった
それほど、ルルーシュはナナリーを救い出すことに手段は選んでいないのである
今すぐにでも飛び出してルルーシュを庇いたい、しかしは必死に自分を押さえ込んだ
ルルーシュのようやくの決断なのだろう
それを今この場で自分が打ち壊すことは決して許されない

「なら…今この場でユフィを生き返らせろ!今すぐにだ!」

ゼロの悪意で世界を救うことは、不可能だ
黒の騎士団の今までの"奇跡"は全てルルーシュの計算と演出、奇跡なんてなかった
ゼロはただの記号に過ぎない

「嘘だというのなら、最後まで突き通せ…!」
「しかし過去には戻れない、やり直すことは出来ないんだ!」

ルルーシュの顔にはっきりとした悲壮が浮かんだ
そんな彼を睨んでスザクはルルーシュを突き飛ばす
抵抗がない分、ルルーシュの様子が胸を痛めた

「答えろルルーシュ!何故俺に生きろとギアスをかけた!何故だ!!」

スザクの悲痛なまでの叫びにルルーシュは淡々と答えていくだけ
生きろとギアスをかけたのも、スザクを助け出したのも、ホテルジャックで生徒会のメンバーを助けたのも
ルルーシュはただ黒の騎士団の活動に結び付けて嘘をついた

「ルルーシュ、君の嘘を償う方法はひとつ、その嘘を本当にしてしまえばいい」

先ほどより幾分声音が落ち着いたスザクには懐の銃に伸ばした手を止めた

「この戦いを終わらせるんだ、君がゼロなら…いや、ゼロにしかできないことだ」

地に突き飛ばされた状態のままのルルーシュにスザクが膝を折る
そして、差し伸ばされる、手

「みんなが平和になるやり方で、…そうすればナナリーを」
「助けてくれる…?」
「ナナリーのために…もう一度君と」

差し伸ばされた手に、ルルーシュはすまないと告げて自身の手を伸ばす
その手を取り合えば、二人でならできないことはないと笑ったあの頃のように、優しい世界に

「…っ!!」

銃弾、二人の間に放たれたそれを合図にその場をグラストンナイツが囲んだ
驚愕するルルーシュには思わず飛び出していた

「そこまでだ、ゼロ!正体は知られているぞ!」

神社の方から駆け出す軍人、がルルーシュの前を庇うのと同時だった

「な、…!?」

の構える銃の焦点はスザクただ一人
しかし次の瞬間、後ろにいたはずのルルーシュがあっという間に軍人に自由を奪われた

「枢木スザク!!貴様!!」

血走るの鋭い眼光に、しかし一斉に周りの軍人の銃がに向けられる
グラストンナイツがルルーシュを狙っている所為で下手に手出しは出来ない
思い切り腕を蹴り落とされ、銃が足元に吸い込まれる
抵抗する間もなく、の身体も軍人達に拘束された

「っく!離せ!!貴様!!ルルーシュを…!!」

また、裏切った。
これで功績をまた挙げられた、とスザクの肩をシュナイゼルの側近であるカノン・マルディーニが叩いた
ルルーシュの瞳に、初めて涙が浮かぶ

「俺をまた売り払うつもりで…!裏切ったな、スザク…っ!!」

ほんの少しだけ差し込んだ光が、消えていく
まだ明るかった頃の思い出が、焼けていく

「俺を裏切ったなアア!!!」