「っ、離せっ!ルルーシュ!!ルルーシュっ!」

石段の下へと連れて行かれるルルーシュに、はこれでもかというほど抵抗した
ルルーシュの淀んでしまった瞳がと一度だけ捉えるもすぐに軍人の背中に隠れる
自分の腕を押さえているのは二人の軍人、銃を一丁しか持たない彼らを殺すことは可能だ
しかし連れて行かれたルルーシュの安否が保障されるかは否だ
強く強く唇を噛み締めるとの眼前にスザクが状況を理解していないように困惑した瞳を見せる

「貴様っ…!またルルーシュをっ、裏切ったな…っ!!」

大人しくなる様子が見受けられないの身体を地面に崩す
その場に座り込まされる形となったは両腕を背中でねじ上げられ、しかしきつくスザクを睨み上げた

「あらあら、本当、この子もいるだなんて…」
「…え?」
「シュナイゼル殿下が仰ったのよ、貴方をつければゼロがいるとね」

シュナイゼルは気づいていたらしい、ゼロ、否ルルーシュとスザクに関係があると
そう、この場に軍人を配置していたのはスザクではない、シュナイゼルだ
しかし感情が高ぶった今、にそんなことは認知できない

「許さない…、枢木スザク…っ!!ルルーシュはお前を信じて…」

そう、最後の最後にルルーシュはスザクを頼った、信じたかったのである
それをこの男は裏切った、見せ掛けの友情と希望を与えて、が誰よりも大切に思うルルーシュを
射殺さんばかりにスザクに向けられる視線に、カノンはふ、と嘲笑した

「そんなに威嚇しないであげて?枢木卿はまたひとつ功績を挙げられたんだから」
「貴様らみんな殺してやる…っ!絶対殺してやる!!」

ルルーシュがなんとかここを脱出できたら、ここにいる全員を殺してやろうとは思った
しかしその案は絶望的だ
グラストンナイツが控える中で戦力のないルルーシュが脱出できることは、不可能である

「まあ、とりあえず貴方は殺せないわ、シュナイゼル殿下がお待ちだもの」
「…シュナイゼル…!?」
「そうよ?いつか貴方に逃げられてしまったからね、まさかゼロを捕獲すると同時に
貴方まで捕獲できるだなんて、枢木卿、お手柄ね」

にっこり微笑んだカノンに殺意を覚えるだが、瞬間首に微かな痛みを感じる
がたがたと身体が無意識に震えて、そうしていつの間にか目の前は真っ暗になった

「これは…!」
「安心して?シュナイゼル殿下が万が一にって用意してくださったものよ」

そういうカノンが軍人から小さな注射器を受け取る
中にあった液体はもうない
変わりに肌で感じるほどの殺気を醸し出していた少女は力なくそこに突っ伏しぴくりともしなかった
長い栗髪を引っ掴んで顔を上げさせても大きな黒い瞳は薄く閉じられている

「アヴァロンへ、」
「イエス、マイロード」

軍人の手によって担がれたの顔がようやく見える
噛み締めすぎた薄桃色の唇からは真紅の血が滲み、長い睫には水滴が付着していた
まさかがここにいるとはスザクでさえ思わなかった
それから、あの射殺さんばかりの瞳、少なくとも今回自分にはルルーシュの意思を裏切るつもりはなかった
この出来事は計算外なのである
それをに伝えられないとしても、あの瞳、本気でスザクを憎んだ瞳
スザクには、それが何故か心を痛めるような、そんなものとなって彼自身を傷つけた
訳が分からなくて混乱して、だがそれが微かな彼女への希望だと気づくことがスザクは怖かった
彼女はとっくに自分を憎んで、憎んで、きっと殺したいに違いない

「…、」

自分の中の、この愚かなまでの希望に似た何かが苦しかった





ギルフォードの乗ったグロースターを引きつれルルーシュは政庁へと向かっていた
何故自分は気づかなかったのだろうか、スザクを信用してしまったのだろうか
ルルーシュの中にはただその疑問が渦巻いていて、後悔だけが押し寄せる
自分は今こうしてあの場から脱出できたがはまだブリタニアに捕らえられているのだ

「…っ、」

昨晩、あれほどまでには自分の行動を止めようとした
それでもルルーシュはを振り切り、挙句の果てには彼女を傷つけるような言葉まで吐いて、結局このざまだ
しかし後を追いかけてきたのだろう、はルルーシュの傍にいた
ルルーシュを助けようとあの場に飛び出して、捕らえられてしまった
にただ、申し訳なさが募る

「(…、、すまない)」

初めからの言葉に頷いていればよかったのかもしれない
彼女を確実にブリタニアから奪還できる保障は今の状況では限りなくゼロに近い
ブリタニアに渡ればまず最初にシュナイゼルが出てくるだろう
は彼の実験材料として一時ブリタニアで捕虜になっていた
パラノイア、今は抗生物質を作って投与したおかげでその効果はないが
シュナイゼルがそれを上回る薬を投与するかもしれない
そうすれば今度こそはシュナイゼルの思うがままの、人形と成り下がる

ルルーシュは昨日、感情の高ぶりからに言ってしまった
自分には、ナナリーしかいないと
確かにナナリーだけがルルーシュの家族だ、たった一人の妹
はそう言われても苦しそうな顔をするだけで何も言わなかった

自分は何故、何度も何度も同じ事を繰り返すのだろう、何故何度もの大切さを忘れるのだろう
ルルーシュが自責の念に襲われる
何度もあった、ルルーシュにはが必要だ、彼女は何度もルルーシュを助けてきた
その度はまるでそれが当たり前のことのように笑って、ただルルーシュの無事を祈った
が言うように、彼女の母親の代から、そして自分の母親の関係も含めて
もしかしたら自分達もそういった関係なのかもしれない
騎士と主、護る側と護られる側、けれどそれは建前であって事実ではない
今までの行動は全てのルルーシュを護りたいというただそれだけの気持ちで構成されてきた
だからルルーシュは何度も何度も、が自分にとってどれだけ必要だということを忘れてしまう

「俺にはもうっ、ナナリーしかいないんだ!!」

なんてことを言ってしまったんだ、
たとえルルーシュにはナナリーしかいなくても、にはもう、ルルーシュしかいない
V.Vもいない、家族もとっくにいない、にはルルーシュしかいない
は果たして昨晩何を思ってあの部屋を飛び出したのだろう
たった一人の、護りたいと思うルルーシュに必要を否定されて、何を感じたのだろう
は泣き虫だから、一人こっそり泣いていたに違いない
自分は臆病だからが泣いているのを、見ることが出来なかった
はいつでも、現実と、向き合っていたというのに

…、」

違う、ナナリーが大切であってもも同じように大切だ
がルルーシュを護りたいように、ルルーシュもを護りたいのである