「信じてくれないかもしれないけど、あたしは兵器と呼ぶに相応しい」
一瞬だけ、ひどく悲しそうに笑みを浮かべてからは胸元を開いた
ぎょっとしてルルーシュがその腕を止めようとするも、見えたそれに言葉を失った
真っ白な胸元に、異様なまでの紅いそれ、
刻印、それもいやにはっきりと綺麗に肌に刻み込まれている
普通刻印を体に押せばそこは焼け爛れ、何年経っても肌の回復能力は追いつかずに
いつまでたっても薄いピンク色の再生途中の不恰好な痕が残る
だが彼女の其れは違った
まるで元々身体に刻まれていたかのように、美しい真紅だった
そしてその紋様、ほんの僅かでも自身のギアスのマークに似ているとルルーシュは思案する
「それは…」
「これはきっと証なんでしょう、あたしが兵器だという、証」
そのとき、かちゃりと音が鳴った刀に視線を移す
日本刀、と言ったか
黒光りする鞘に収めれた刀の柄はまるで西洋のものを思い浮かべてしまうもので
「…匿ってほしい、と言ったな」
「はい」
「どうしてだ?」
どうして、だなんてルルーシュは自分自身に問いたかった
何だってこんな不審な女の話を真剣に聞いているのか
それは見せられる様々なものへの好奇心でもあるのだろう
は刻印を一度指でなぞってからルルーシュを見上げる
「追われているんです」
「…何処にだ?」
「…よく分かりません…、だけどやつらはあたしを追ってる」
「軍、か何かか」
「いえ、軍とかではないんです…、何処かの組織のような人に」
曖昧すぎる説明だと思った
「お願いです、助けてください」
そう懇望され、ルルーシュは肩を竦めた
馬鹿な、自分は今漸くブリタニアへの反逆の力を手に入れてこれからまさに反旗を翻そうというのに
こんな女を匿ってやれるほど暇ではないのだ
と、そこで妙な思案がルルーシュの脳裏を過ぎる
は戦争を幾度と無く経験したと言っていた(あくまで本人の口からではあるが)
もしかしたら駒として使えるんではないだろうか
ルルーシュははっとした
「(何を考えている、万が一でも俺の素性がばれたら)」
そうだ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがばれれば最愛の妹のナナリーの安全が保障されない
やはりこんな女無視するべきだ
ギアスを掛けて追い出すか、それとも教師に連絡するか
ルルーシュは兎にも角にもクラブハウスに戻るのが最善の策だと考えた
「…悪いが俺もそんなに暇じゃあない、他を当てれ」
「…」
「お前も一学生に何を言っているんだ、戦争を経験しただと?馬鹿も休み休み言え」
よくよく考えればルルーシュよりも幼く見えるこの少女が戦争を経験したなど
兵器として扱われ、今も何者か分からない組織に追われているなどそんなのありえない話なんだ
持っている刀は怪しいが、その話を信じるという要素には足りなすぎる
ルルーシュは踵を返して、そして吐き捨てる
「そろそろ他の人間を呼ぶぞ、此処から立ち去れ」
だがその言葉にもはめげずに反語を返す
「ま、待ってください!」
「…」
「これを、見てほしいんです」
ゆるゆると顔を向ければ立ち上がったの姿
何をするかと思えばは生い茂る木々の一つに手を当てると僅かに其処に力を入れた
その瞬間だった、
ぐらりと木が揺れ、そうしての手を当てた幹の部分はぽっかりと穴が開いていた
さすがのルルーシュも、これには同様を隠し切れない
「な、お前何を…」
「あたしの兵器としての能力です、名前は分からないけど、あたしはずっとこれで戦争をしてきた」
急に眼光が鋭くなり、はばさりと漆黒のコートの裾を靡かせた
「意識、というか身体の内部に込めた力をそのまま具象化して固体にぶつけるんです
そうすると今みたいに具象化されたこれが木を貫く、あたしの能力です」
バランスを失い倒れてくる木を掌で受け止める様を見て目を疑う
それもまたの言う能力なのだろう
掌に意識を集中させてそれを具象化する、掌と倒れこんできた木の間にそれがクッションとなる
分析力が並大抵のものとは桁違いのルルーシュが出した答えだった
「この刀はその連動をもっともっと素早くしたもの、柄に意識を集中させれば刃先は力を蓄える
この刀で斬れないものは…、多分ない」
「…」
それはあまりに説得力のある言葉だった
は手にした刀をそのままにルルーシュに歩み寄る
かちゃん、と刀が指先から滑り落ちてルルーシュは漸く我に返った
「信じて、もらえますか」
頷くより他に、術はなかった