「おはよう」

静かな声で返してくるスザクに、は無理やりにでも笑みを浮かべる
つられてスザクも笑みを零すと、は満足そうに口を開こうとした
その時、幸か不幸かちょうど教師が教室内に入ってきたのを視界にいれた

「また後でね?」

は残念そうな顔で、スザクに言うとカレンの隣まで急ぎ、そして席に着いた
カレンはが席に着くと、首をかしげて小声で話しかけてきた

「ねぇ、って枢木スザクと仲いいわよね?知り合いなの?」
「あは、それリヴァルにも聞かれた」

小さく笑うは、しかし心の中は悲しみでいっぱいだった

「別に知り合いなんかじゃないよ ただ、」
「ただ…?」
「お母さんが日本人だったから、話してみたかったの」

カレンは「そう」と一言言うと、に向けていた顔を真正面に向きなおす
はカレンに見られないように、そっとため息を漏らした





「あれ?」

休み時間になり、スザクの姿を確認しようとしたは思わず声を漏らす
教室内を何度見回しても、スザクの姿が見えないのだ
その上、ルルーシュの姿もない
は困ったような表情で教室を出た


迷わないように、ルルーシュから渡されていた地図を手の中に収めて、は中庭まで来た
中庭に着くまで、何回も迷ってしまいかけた
というより、迷ってしまった果てに中庭に来てしまったのだ

は眉をひそめて、自分が今何処にいるかを地図を見て確認する
その時、どこからか水の流れる音がしたので、顔をあげた

「何処からだろ…」

ぽつりと呟いたは音のするほうまで足を向ける
段々と大きくなっていく水音
やっと人の姿が見えたは、大きな目を細めてその人物を捉える

栗色の曲がりくねった髪の毛
細い、しかし筋肉のついた体

「…スザク?」

見知った後姿に、は少々驚いた表情をする
そしてゆっくりと彼の後ろまで来ると、ぽんと肩を叩いた

「スザク?」
「っわ!?!」

よほどびっくりしたのか、いつもより大きめな声をあげたスザク
は彼の顔を見て、にっこりと微笑んで見せるが、手に持っているものを見て眉をしかめる

「何コレ」

スザクの手から、ほぼ強引にそれを取ると、白い布のような塊を開いてみる
ぽんといい音を立てて、水しぶきが飛ぶ
白い布―スザクの服には真っ赤な文字で、彼を批判する文字が並んでいた

「…、こういう事は慣れっこなんだよ」

眉をへの字にして笑う彼に、は悲しそうに手に持っていたものに力をこめた

「…ヒドイ」
「はは、がそんな顔しないでよ」

あくまで他人を心配するスザクは、どれほどの優しさを持っているのだろうか
しかしはその服をスザクに押し付けると、開いててと告げる

「こうでいいの?」
「うん」

肩の部分を持って、開かれた服にはやはり赤い文字が並んでいた
はその文字の上に細い人差し指を持ってくると、軽くそれを押し当てた
人差し指でその文字をなぞると、文字は綺麗に無くなっていた

「え?!」

驚きを隠せないスザクは、に向けていた服を自分の方に向けると、何度も何度も服を見返した

「何したの?」
「え?ふふ、ナイショ」

大きく瞳を輝かせて聞いてくるスザクに、笑って見せたは、出っ放しだった蛇口を捻った





扇からの電話を切ったルルーシュは、不服そうに窓の外を見つめた
馴れ馴れしい扇達の切り所を考えていたのだ
その時、窓の向こうに自分の知人を見つけたルルーシュは、軽く目を凝らす

スザクは何かを水道で洗っているようだった
服を持ち上げると、ルルーシュからも見えるほど真っ赤な文字が、その服には書かれている
ルルーシュはそれに思わず息を呑んだ
自分の知人があんな目に逢っているのだから

しかし今の自分には関係ないと言い聞かせ、その場を立ち去ろうとしたルルーシュだったが
スザクの後ろからやってきたまたもや自分の知っている人物に、足を止める

「…?」

彼女はスザクの肩を叩いてから、彼の持っていた服を見つけるとそれをほとんど強引に奪い取った(ように見えた)
そしてその服をスザクに持たせると、人差し指でその卑劣な文字をゆっくりとなぞった
次の瞬間には、その文字は無くなっていた

のことだから、何か力を使ったのだろう
の横顔の笑顔を見たルルーシュは、自分でも分からない感情が湧いてきたのを感じた
蛇口を捻ったはスザクの服を畳み、彼の手を引いてどこかへ行ってしまった

ルルーシュは暫くその場に立ちとどまり、そして小さく舌打ちをして其処から立ち去った
もやもやとした感情を抱いたままで