「私は、ブリタニア第3皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアです」

透き通るような声の主は、そう淡々と言うと、床に倒れていたニーナに声を掛けた

「あなた、大丈夫?」
「…は、はい…」

驚きの所為か、ニーナは目を見開いて小さくそう言った
そしてちっとも驚いてないような顔のあたしを見ると、あなたも大丈夫?とでもいいたそうな顔で見てきた
あたしがそれに軽く微笑むと、しかし日本兵の鋭い声が響いた

「…いいだろう、ソイツを草壁中佐の元へ連れて行け」

日本兵はそれを聞き、隣で顔を青くさせている付き添いの人の手を振り払ってユーフェミア皇女の腕を引っ張った
数人の日本兵とともに扉の向こうに消えたユーフェミア皇女を見つめていると、再び鋭い声が耳に届いた

「そっちの女は、そうだな―死刑台へ連れて行け」

その瞬間、小さな、しかし恐怖でいっぱいのどよめきが起こった
多分それは、死刑台という言葉によるものだった
さっき連れて行かれた男性は今だ戻ってはこない
―その男性が死刑台に送られたのだとみな、感づいたからだ
日本兵を見ると、何やら笑みを浮かばせていた

「そ、んな…!―…」

震えた声はあたしの左下から聞こえた
涙目のシャーリーが、必死にあたしのスカートの端を持っていた

「…シャーリー、大丈夫だから」
「いやだっ、…!」

そんな震えているシャーリーをどかし、日本兵はあたしの腕をがっちりと掴む
軽くあたしを挟んでいる日本兵を睨んでから、あたしも部屋を出た


「(さて、どうしようかなあ)」

一歩進むごとに死刑台に近づいていると言うのに、あたしはいつも通りでいた
こんな2人の日本兵なんて、倒すのにそう時間は掛からない
けど問題はその後だ
死刑台で待っている他の日本兵が様子を見に来たら始末がめんどくさいし、とにかくあたしはゼロに逢うのが目的だった

「(多分ルルーシュのことだから、あの草壁って人と一緒にいるんだろうな)」

そうだとしたら、何とかいってあのユーフェミア皇女と一緒に行けばよかったと、少しばかり後悔する
しかし、次の瞬間、あたし達を待っている角の向こうから見知った気配を感じた

「…!」

微かに聞こえた物音に、日本兵も気づいたのだろう
1人は銃を構えて角に近づいた
その場に緊張が走った

「……―誰だっ!」

そう日本兵が叫んだ瞬間、物陰からは見慣れた紅色の頭が出てきて、日本兵に攻撃をしかけた
それを見て、尚もあたしの腕を掴んでいた日本兵は、咄嗟に飛び出そうとしたが、あたしによってそれは阻まれた
あたしは思い切りその日本兵の顔を蹴り飛ばすと、まだ反動で宙に浮いている身体に踵をいれた

「ぐあっ!!」

目を白くさせて日本兵は床に崩れた
顔をあげると、もう1人の日本兵も同じように床に倒れている
もう少し目線を上にあげてみたら、見慣れた顔が心配そうな表情で走ってくるのが見えた

っ、大丈夫だった!?」

カレンはそう言うと、あたしに抱きついた

「大丈夫、大丈夫」

笑顔でそう言うと、カレンは尚も心配そうな顔であたしを見つめた
そして、思い出したように腕の中にある布の塊を見てから、それをあたしに突き出した

「これ、ゼロがに持って行けって…」
「ゼロが…?」

渡された布の塊を見ると、それは見覚えのありまくるもので
あたしは驚いたように、けど呆れたため息を漏らした

「ありがとう、カレン」
「ううん、全然…それよりこれは?」

中身を見ていないのか、首を傾げるカレンにあたしはほれっと言って布の広げて見せた

「一応ゼロの下で働く時に着てるやつだよ」
にっこりと微笑んで見せてあたしは布の塊の中にある鞘に触れた

「ひとまず着替えてからゼロの下に行くから、カレンは他の人たちと合流してて」
「分かった、…あと、こんな時に聞くなんてあれかもしれないんだけど…」

いきなり声の大きさが小さくなったカレンに、首を傾げると少し迷ってから彼女はあたしを見つめる

「ゼロは…、あなたがって知ってるのよね?」
「え?うん、そりゃあ…」
「あなたが学校行ってるのも?ハーフだってことも?」

やけに真剣に聞いてくるカレンには、ハテナマークが飛んだが、一応頷いておいた

「うん、知ってるよ」
「そ、そうよね ごめんなさい」

にこりと笑みを浮かべたカレンは、そのまま来た道を戻っていった
今だハテナマークを飛ばしながらも、あたしは急いで例の服装に着替えた











ゆっくりと刀を抜いて、一緒に包まれていた狐の面をつけた
角を曲がると、手前には日本兵、奥には恐らくレジスタンスであろう銃を持った人が数人見えた

「お前っ…」

レジスタンスの人は、あたしの姿を見ると驚いたように目を見開く
直接レジスタンスの人には会ったことはないけど、スザクを助ける時カレンと一緒にいたから憶えていたんだと思う

「なぜこんなところに…」

困惑したような声色で、その人はあたしを見つめていた

「大丈夫、あたしはゼロの部下だから、あなた達とも仲間」

そう言ってから、扉の前に立つ
中からは何も聞こえない
それを確認してから刀を持っていない手で扉を開けた

「!?」
「!!」

部屋の中の視線は一気にあたしに集まった
ゼロは仮面を被っているから分からないけど、ユーフェミア皇女は驚いた表情だ
扉を閉めて、ゆっくりとゼロの下へ歩みを進める

「…遅くなった」

ユーフェミア皇女には聞こえない、小さな音量でゼロにそう言うと、彼がため息を漏らしたような気がした

「…あなたは…」

振り返ると、ユーフェミア皇女が口に手を当てて、眉を顰めていた
しかしあたしが口を開く前に、ゼロがかちゃりとあたしの後ろで銃をユーフェミア皇女に突きつけた

「そういえば、あなたもそうでしたね…」

話の内容はつかめなかったが、ここはゼロに合わせようと思い、あたしは刀を鞘に戻した
かちゃという音を聞いた後、ゼロは尚もあたしを見ているユーフェミア皇女に口を開いた

「こいつは私の仲間ですよ」
「あなたの、仲間…?」

困惑した声が部屋に響く
揺らいでいるその瞳は、しっかりとゼロを捕らえていた