「あれっ、ルルーシュとスザク…二人だけ?」
ふいに生徒会室に寄ってみれば、中には見慣れた顔が二つ
恐らくアーサーの入っているだろう段ボール箱の前のスザクは、ぱっと顔を明るくさせてを見た
「こそ、どうしたの?今日は最初っから生徒会行くって言ってたのに」
「ああ、うん 先生になんか呼ばれちゃって」
そう言ってちらりとルルーシュを盗み見る
案の定、ルルーシュもちらりとを見て、そして持っていた雑誌に視線を戻した
は腕にぶら下がっている鞄を、机に置くと、ルルーシューの向かいの席に腰を下ろす
「それにしてもさ、スザクって本当涙もろいんだね」
思い出したように呟くに、ルルーシュはやっと口を開く
「あんなところで泣くなよな、恥ずかしいやつ」
「素直って言ってよ」
その後に続くスザクの小さな悲鳴
ぐっと顔を逸らしてみれば、段ボール箱の中のアーサーがスザクの腕にぶら下がっている
は「あちゃー」と呟き、しかし顔を笑顔だった
「ま、みんなが助かったのはよかったけどな 黒の騎士団様々だな」
目の前の少年の発言を耳に入れたは、よく自分でそう言えるもんだと、視線を彼に戻す
スザクは何か考えるような、時折見せる真剣な顔で声を変えた
「犯罪者を取り締まりたいなら警察に入ればいいのに、彼らはどうしてそうしないんだろう」
スザクの思ってもみない言葉に、は顔を彼に向ける
ルルーシュも、何か思ったように、そして口を開いた
「警察じゃできないと思ったんだろ、警察なんて…」
「今は駄目でも、警察の中に入って変えていけばいいじゃないかっ」
スザクは振り返り、少し大きな声でそう言った
は、小さくため息をつくとルルーシュが何か言う前に、「スザク」と彼の名前を呼んだ
ルルーシュに向けられていた視線は、一瞬でに向けられる
「それを変えていく中で、またいろんな柵を抱えるんじゃない?」
「それは…、それはギリギリまで変える努力をしてきてから言えることだよ」
「努力ね、ならその努力のためならどんな問題が起こってもいいと?」
スザクはぐっと言葉を詰まらせる
しかし、その奥に何かを秘めているような、漆黒の瞳をしっかりと見つめ返す
「だけど、その努力もなしに、彼らが主張するのは独善にすぎない」
「…独善」
ルルーシュは繰り返すように、小さく呟いた
は面白そうに整った顔を、歪ませる
「…一方通行の自己満足だよ」
「それでも」
スザクの言葉に反するかのように、透き通った声が響いた
「黒の騎士団によって助けられた人もいる、その人達も自己満足の内に入るの?」
は美しい笑顔を見せながら問う
スザクは言葉を捜すのに必死だった
「なんてね」
「え」
しかしいきなり明るくなったの声色に、スザクは思わず首を傾げた
「あたしなんかがそんな偉そうに物言えないって、…戯言に過ぎないね」
そうが言った瞬間、扉がしゅんと音を立てて開いた
視線を移すと、茶色の髪を靡かせたシャーリーが少し不思議そうに目を丸くしている
「あれ、まだ3人だけ?」
「あ、シャーリーだー、遅いぞー」
ふざけたようなからは、先ほどのは想像できなかった
シャーリーはそんなに微笑み掛けると、部屋の中に入ってくる
スザクも先ほどとは打って変わって、いつもの少年の顔に戻っていた
「それじゃ、僕は軍に戻らなくちゃいけないから…じゃあね、シャーリー」
「あ、うん、じゃあね」
笑顔で送り出したと思いきや、スザクは扉の前で足を止める
そして顔だけ振り返ると、椅子にもたれかかっているに声をかけた
「…」
「んー?」
も顔だけスザクに向けると、大きな真っ黒な瞳を向けた
「君の言っている事は、全てが戯言じゃないかもしれない」
「…うん、じゃあね」
スザクは今度こそ部屋を出て行った
そして振り返るシャーリーの瞳を見たは、何か考えるように、そして部屋を出ようと扉へ足を進めた
「あ、…」
「頑張って、シャーリー」
シャーリーは驚いた顔で、え、と声を漏らす
はそのまま部屋を出た
「若いなあ、シャーリー」
扉の外のの声は、決してシャーリーには届かなかった
しかしその分、部屋の中で小さく呟いたルルーシュにが気づくはずも無かった
*
「んー…思えばルルーシュなしに街に出るのって初めてかも」
行く宛てもなく、街に出たはぶらぶらと彷徨うように歩き続ける
見たことがあるような町並みはそこになく、近未来のような、そんな雰囲気がそこにはあった
「本当に、占領されてるんだね」
小さな呟きは、空気に混じって、すぐに消えた
「…ん?」
小さなざわめきが耳に入り、はそちらに視線を移した
「…あれは放っておけないかも」
と同じく、しかし別の場所で、ルルーシュは飛び出そうとしたカレンを止めた
「相手は5人だ、勝てるわけないだろう」
「だからって放っておけるの?」
そう言うと、ルルーシュはそっと彼らを見る
「やられてるイレヴンを見ろ、下手に加勢して勝ってみろ、あのイレヴンは明日から此処で商売ができなくなる」
カレンは悔しそうに顔を歪ませた
「…だからって…、え?」
「…え?」
カレンは途中で言葉を途切れさせる
ルルーシュも同じく、そして眉をしかめて殴られているイレヴンを見た
「何面白そうなことやってるの、」
そこにはアッシュフォード学園の制服を着た少女が1人
こげ茶色の艶のある髪を靡かせる少女を、2人は知っていた
「…!?」
「なんだ、ねえちゃん 文句あんの?」
見た目、強面のブリタニア人は平然としているを囲んだ
はそれでも平然と口を開く
「ありありね、あんた達みたいなブリキ共が食ってかかって何リンチしてるのかと思って」
「お前、調子こいたことほざいてんじゃねえぞっ!」
のたった一言でブリタニア人はキレてしまったのか、男達は手をあげた
しかしは笑顔でその腕をうけとめ、そのまま腕をものすごい力で引っ張るとその男の鳩尾に膝をいきおいよく突きたてる
男は目を白黒させ、そして地面に倒れた
「っ、てめえ!」
他の3人も同じようにに攻撃をしかけるが、は面白いくらい軽やかにそれを交わし、それぞれ、鳩尾、顎、首に
先ほどと同じように今度は踵を落とした
男達はどさどさと倒れていく
はそれを興味なさそうに見つめた後、1人の男の髪の毛をぐっと引っ張って、目線を自分と合わせた
そして今までにないくらい、地を這うような声で言った
「もう一回、同じようなことしてごらん?…今度は手加減しない」
それを聞くと、男達は逃げるように走り去った