「大丈夫?」
が優しく話しかけると、男性は驚いたような顔で彼女を見た
「ッ!」
その時、後ろから聞き覚えのある、少し慌てたような声が聞こえた
はその男性に手を差し伸べたままで後ろを振り返る
「カレン」
それこそ、心底驚いたような、呆れたような表情のカレンがそこにいた
彼女の肩越しに見えるルルーシュも、呆れたようにため息をついている
「何してるのよっ」
「…だって、」
そこまで言っても言葉を濁す
自身だって、あの時この男性を助けたら此処でもう商売ができなくなるかもしれないと分かってはいたが
しかし助けずにはいられなかった
「…」
が俯いていると、はっとした面持ちで男性は二人の制服を見る
そしてブリタニアのマークを見つけると、無理やりに笑顔を作った
「い、いらっしゃいませ!カリフォルニアドックはいかがですか?」
「…え?」
は思わず首を傾げた
男性は後ろにいたルルーシュも見つけると、更に笑顔で商売を続けようと必死だった
「……」
カレンは驚きが隠せないといった表情で男性を見つめたままでいる
はそっと彼を立ち上がらせてやると、そのままどこかへ消えてしまった
*
「何をやっているんだ、お前は」
頬を少し腫らせて、ルルーシュは仏頂面でソファーに座っているに声をかけた
はルルーシュの頬を見て、一瞬だけ驚いたような顔をするが、しかしすぐ視線をテレビに戻す
「助けずには、いられなかった」
「お前だって分かっていただろうが、あのイレヴンが…「分かってるよっ」
ルルーシュの言葉を遮るようには普段見せないような、困惑や悲しみが混じった表情で声をあげた
思わずルルーシュはぴたりと動きを停止させた
「…、ごめん、でも…」
「分かっているなら何故、と言いたそうな顔をしているな ルルーシュ」
そこにいつの間にか入ってきたのか、C.Cが部屋の入り口で腕を組んで2人を見ていた
ルルーシュは眉を顰めると、しかし鞄を机に置き椅子に腰掛ける
「ねえ、ルルーシュ どうしてあの人はあそこまでして商売を続けるんだろうね」
「…いかなる理由があるにしても、暮らすには金が必要だからな」
は膝を抱えて小さくなっている
「…罪は、償うもの?」
いきなり話の内容が変わり、ルルーシュは視線をに投げる
それでもの視線は宙を泳いでいた
「あの人見て思った、頭さげてればいいって、だけどそれはプライドを捨て切れてない自分への罪」
「何が言いたいんだ」
「…もし、償えない罪があるとしたら、それはどうすればいいの?」
問いかけるような口調、だがそれはルルーシュに向けられているとは思えなかった
まるで自分に言い聞かせるような、そんなにC.Cはそっと口を開く
「償うべき罪なのか、自分で判断するんだな」
「周りの人は皆言うよ、罪を償えって でもそれは、できないことなんだよ 絶対に償えない」
「何故だ?」
「…あたしの存在と矛盾するから」
の漆黒の瞳は光を失っていた
そして何かから逃げるように、更に膝を抱え込んでは俯いた
C.Cもルルーシュもただを見つめる事しかできなかった
「罪は償うためにあるんでしょう?…だけど、できない したくてもできないんだよ」
「…なら償わずに生きればいい」
「っ!!」
はやっとルルーシュの瞳を捕らえた
怒っているようにも見える、の表情は、しかしすぐ力が抜けたのか、ふっと自潮するかのように緩んだ
「生きる事が罪ならば…」
「…何?」
の呟きにも似た言葉に、C.Cはぴくりと反応を見せる
「そう、生きる事が罪なんだ だけど、だけどあたしの対価は…」
震える肩
光を失っている瞳
消えそうな声
ルルーシュはそんなを落ち着かそうと、彼女の肩をぐっと掴んだ
しかしの視線は、決してルルーシュを捕らえずに、宙を彷徨っている
「どうしたんだ、」
「…だ、ゃだ…」
「え?」
かたかたと音を立てて震える唇
ルルーシュはさすがにが心配になり、そっと頭を撫でてやる
だがは目を見開くと、思い切りルルーシュを突き飛ばした
「…なっ!」
「!?」
「なんでっ!?なんで、なんで…なんであたしなの!?いやだよッ、あたしはあたしなのっ!」
大きな瞳から、ぽろぽろと涙の粒を流す
C.Cもルルーシュも言葉がでない
「もう、いやだッ…ごめんなさい…」
完全に顔を隠して丸くなるの背中は時折しゃくりをあげて揺れる
そしてもう一度ルルーシュが近づこうとした瞬間、はいきおいよく飛び起きて、C.Cの横を抜けて部屋を出た
部屋に残されたルルーシュは驚きで声が出なかった
C.Cはが座っていたソファーにどっかり腰掛けると、いつもの挑発的な笑みは一切見せず、珍しく困惑したような顔を見せた
「…成程、にもいろいろあるということだな」
「…何故、泣き出したんだ…?」
訳が分からないといった様子のルルーシュは、しかし今晩の作戦を優先すべきと、部屋を出た
C.Cはそっと悲しそうな顔をして「…」と呟いた
涙の痕も拭かずに、は学園内を彷徨うように歩いている
時々すれ違う学生は、少し困惑した顔でに振り返っていく
はそんな視線を気にも留めないで、ゆっくりとした足取りで、しかしクラブハウスからは確実に遠のいていった
「まさに、殺人兵器だな」
「存在意義を間違えるな」
「お前の罪は、お前の」
「…存在だ」
ぽつりと呟いた言葉は、次にふいた風に混じりすぐに消えた
「…もうっ、やだ…怖いよっ」
「…?」
は聞こえた声に、いきおいよく顔をあげる
するとそこには、少しびっくりしたようなスザクが軍服のまま立っていた
「どうしたの、?」
「す、ザクこそ、どしたの、こんなところで…今日は軍が…」
「うん、でも大切な資料取りに行ってくれって上司に言われてさ」
言いながらスザクは手に持っていた紙束を見せる
はそう、と小さく言ってスザクの横を通り過ぎようとした
だがそれは、スザクの腕によって阻止されてしまう
「…、何?」
「どうしたの、?何かあった?」
「何も、ないよ?」
言ってからは今できる限りで、必死に笑顔を作った
しかし他人から見ればその時ほどの笑みが辛そうに見えた事はない
それに加え、くっきりと残る涙の痕、冷たくなった肩
スザクはここでを離してはいけないと、直感で感じた
「嘘だ、本当にどうしたの、」
「…なんでもないんだよ、」
「…」
「は、なして スザク」
消えそうな声で訴える
スザクは小さくため息をついて、視線をと交わらせた