「離せるわけないだろう?」

そう優しく言うと、スザクはの頭をそっと撫でる
は決してスザクを見ないようにして、視線を投げていた

「…何があったのか、言いたくないんなら仕方ない でもどうして此処にいるの?ルルーシュと一緒じゃないの?」
「…ルルーシュは」

ルルーシュは今日、リフレインという薬物のアジトに乗り込む
昨日彼から伝えられたが、スザクに言えるはずも無く、「今はいないの」とだけ言っておく
恐らく彼は今そのアジトに乗り込んでいる最中だろう

「…帰らないの?」
「帰らなくてもいい」
「でももう暗くなるよ?外ももう寒いし」
「寒さには慣れてるよ」

そう言ってはみたものの、肩は既にもう冷たいし、白い頬も氷のように冷たい
はっきりいうと、長時間外にいた所為で、指先の感覚が薄れてきている
そんなを見て、スザクは少し考えるように顎に手を当ててから彼女の腕を引っ張った

「スザク?」
「今行くあてないんでしょ?なら一緒においで」
「おいでって、軍?」
「うん、大丈夫 特派の人達はみんないい人だからね」

そういう問題ではない、とは内心突っ込んだ
一般人が、ましてや学生がそんなに簡単に軍内に入れるのだろうか


「はい、着いたよ」

入れてしまった

自動ドアを抜けると、眩しいくらいの電気と数え切れないほどのパソコンの数が目に入る
は拍子抜けたように前を歩くスザクを見ていた

「あら、スザク君おかえりなさ…あの、後ろの子は?」

びくりと、肩が揺れるのが自分でも分かった
椅子に座っていた、スザクと同じような軍服の女性は少し驚いた表情で近づいてくる
は必死に顔を俯かせていたが、スザクは笑顔で話し始める

「彼女、僕の友人なんですけど、今ちょっと行く宛てないらしいんで、此処にいさせてもらっていいですか?」
「え、ええ…それはいいけど…」

見事なほどの口達者ぶりで言いのけると、スザクはずいっとを前に出した

「…すいませ」

が声を発しようとした瞬間、その女性は彼女の肩に触れて、大きな声をあげた

「まぁ、すっごい冷たいわ!」
「へ?」
「こんなに冷たくなるほど外にいたの?!」
「え、あ、はい…」
「少し待ってて、毛布取ってくるわね」

言うが早く、女性はどこかへ消えてしまった
はぽかんと口を開いたまま固まってしまっている
スザクは小さく笑うと、「ね、いい人でしょ?」と言った

「それじゃ、はここにいて 僕はちょっとあっちに行くから」
「え…スザク、行っちゃうの?」

のその言葉に、スザクはどきりと胸を鳴らす
それが例え右も左も分からないようなところへ来たという不安感からだとしても、スザクは嬉しかった
だが仕事をさぼるわけにもいかず

「大丈夫だよ、セシルさんが今来るから」
「セシルさん?今の人?」
「うん、あっ来たよ」

スザクの視線の先を追うと、笑みを浮かべたセシルが毛布を片手にやってきた

「はい、どうぞ」
「あ、りがとうございます」
「じゃぁ、僕はあっちだから」
「いいわよ、スザク君 行って来て」

セシルに一礼したスザクは、軍服のままかけていく
は渡された毛布に包まりながら、セシルをちらりと見る

「こんにちは、ちゃん?」
「え、あたしの名前…」
「ふふ、いつもスザク君が話してるわ、ちゃんでしょう?」

いつもスザクが話している、というところには気にも留めず、ははいっと返事をした

「あ、どうぞ座っていいわよ」
「ありがとうございます」

進められるまま、椅子に静かに座る
毛布を肩からかけるの姿は、セシルから見てもとても小さかった

「なんか、すみません…あたしみたいな関係のないのが…」
「何言ってるのよ?あなたスザク君のお友達でしょう?もう関係があるわ」

にっこりと微笑むセシルに、は言葉も発せずに彼女の顔をじっと見ていた

「それよりどうかしたの?今日は寒いのにこんなに冷たくなるまで外にいたなんて」
「あ、ちょっと住んでる人と喧嘩しちゃって…」

といっても、一方的にが押し切って出てきたようなものだ
は脳裏に浮かぶ、驚いた表情のルルーシュを必死に振り払った
セシルはそこまで聞くと、あとは何も聞かず、そうとだけ言うとにマグカップを渡す

「スザク君、学校でどう?」
「え?」
「なんか問題とか抱えてないかしら…スザク君って、なんでも一人で抱え込むのよね」

そう言うセシルの表情は、子供を心配するお母さんの表情のようで
は小さく笑みを零した
そういえば、クラブハウスを出てきた時のような感情は今はもうない
それがセシルやスザクのおかげだということを、はしっかりとかみ締めていた

「おんやあ?見ない顔だねぇ」

どこか抜けているような、飄々としている声がセシルとの間を割って入った
は声のする方にそのまま身体ごと向いた

「ロイドさん」
「何、何、スザク君の彼女ー?」

にやり、という言葉が似合うその笑みは、ずいっとの前に近づく
は真っ黒な大きな瞳で、そのレンズの向こう側の水色の瞳を見つめ返した

「あっ、もしかして君がちゃんー?」

一方的に話してばかりのロイドは、やっとに言葉を与えるような質問をした

「あ、はい、」
「ふーん、へー、そっかー」

何やら嬉しそうとも、企んでいるともとれる笑みを浮かべたロイドは、ひらめいたように手をぽんと叩いた

「そうだ、ちゃん こっちにおいで」
「え?」

その言葉にはセシルも少し驚く
スザクの友達ということでも、まさかロイドがランスロットへを招くとは思わなかったからだ
は素直にロイドの後を着いていく

「…これが、」
「そうっ、ボクのランスロットだよー」

目の前には白を基調とした、黄色のナイトメア
はこの前の河口湖の出来事を思い出す
あの時、窓の外にいたナイトメアはランスロットだった気がする
まさか、ルルーシュの言っていた白兜とはこのランスロットのことだったのか

「スザク、これに乗ってるんですか?」
「そうだよー、彼ほどのいいパーツはいないからねぇ」

と心底嬉しそうに語るロイドを尻目に、パーツ?とは小さく呟いた
丁度、シュミレーションを終えたスザクが、コックピットから出てくる

「あ、
「スザク…お疲れ様」

の言葉にはにかむように、嬉しそうな表情を浮かべるスザク
ロイドはまたもにやりと、笑みを浮かべた

「もう、大丈夫?」
「うん、さっきはごめんね?」

デヴァイザースーツのスザクは、そっとの正面に立つとそっか、と微笑んで見せた
特派内に和やかな雰囲気な雰囲気が流れた瞬間だった

「スザク君、お客様よ」
「え?」

セシルの声で、スザクもも視線を扉に移す
そこには、笑みを湛えたユフィの姿があった

「ゆっ、ユーフェミア様!?」
「こんばんは、スザク」

美しいピンク色の髪を靡かせ、ユフィは優しそうな笑みを浮かべたままこちらに近づく
スザクは慌ててユフィに近寄った

「何故特派へ?」
「駄目ですか?私は此処に来ては?」
「いえっ、そうではないんですが…」
「ならいいでしょう?」

優しく、しかし有無を言わせないようなユフィの言葉に、スザクは笑みを零すだけだった
しかしその時、ユフィの薄紫の瞳には、毛布をかけた制服姿のが映っていた

「あなた…!」
「え?…?」
「へ?」

こつこつと気持ちいい靴音を鳴らして、ユフィは目を丸くしているに近づく
は首を傾げたままユフィを見つめ返した

「あなた、あの時の…河口湖にいましたね?」