目の前のグレーの扉を前に、あたしの足はぴたりと止まる
ふと、ルルーシュの怪訝そうな顔が思い浮かんだ
こんな時間に帰ってきて怒ってるのだろうか

「…よし」

小さくぐっと拳を握った

「…ただい、「さん!?」

入って小さく声を出すと、それを上回る可愛らしい声
視線を部屋中に回すと、慌てたように車椅子を押してくるナナリーが目に入った
ソファーには、少し驚いた様子のルルーシュも見える

さん、どうなさってんですか、こんな時間まで」
「えと、…ごめんなさい」

珍しく声の大きなナナリーは、目こそ開いてないが今すぐ泣き出しそうな顔をしていた

「…あ、いえ そういう訳じゃないんです…でも本当心配して…」

あたしが素直に謝ると、逆に頭を下げるナナリーに、ちくりと罪悪感で胸を刺される

「ううん、本当ごめん…」

しゅんとうなだれると、ソファーに座っていたルルーシュがやっと立ち上がった
そしてそのままあたしの前まで歩みを進める
正直言って、どんな顔をすればいいか分からなかった
ただあたしはルルーシュからの言葉を待った

「…まったく」
「え…」

ふぅ、という小さなため息のあとに頭から伝わる体温
ルルーシュの腕があたしの頭に伸びているのが見え、やっと頭を撫でられていることに気づく

「心配したんだぞ、俺もナナリーも」
「…うん、ごめん」
「私、さんが帰ってこないのかと思ってしまいました…」

ルルーシュはいたって平常どおりだ
あたしは隠れて息をつくと、にっこりと笑みを見せた

「とりあえず、晩御飯食べようか?」
「え、まだ食べてなかったの?二人とも…」
「はい、さんがいないのに食べてられませんもの」

ふんわり浮かべられる笑みに、あたしは一瞬の罪悪感と嬉しさに包まれた

ああ、あたし 今此処にいる
あたしがいるんだ
今此処に、確実に

先ほどクラブハウスを飛び出してきた時の自分に言い聞かせるようにしてありがとう、とナナリーに言った





驚くほどの優しい気持ちのまま、すやすやと寝息をたてるナナリーの頭をそっと撫でて、あたしは部屋を出た
しゅん、という音を後ろで聞きながら、あたしは目の前に腕を組んでるルルーシュと目を合わせる

「…ルルーシュ、」

ルルーシュはいつもみせないような、穏やかな表情だった

「今日は、本当ごめんね…その、突き飛ばしたりしちゃって」
「そんなこと…もう気にしてないさ」

そう言ってもらえ、あたしは腹の奥から息をついた

「でも、何処行ってたんだ?あんな時間まで」
「あ、その 学園内歩いてたらスザクに会って…それで」

そこまで言って、あたしは言葉を詰まらせた
まさか軍にいた、なんて言えなかった
その後のユフィのことも、あまりルルーシュに言うべきではないと、あたしの直感が囁いた

「ちょっと喋っただけ、その後は少しだけ街に出て…」

ルルーシュはそうか、と言うと再びあたしに近寄って顔を近づけた

「それより、俺こそ悪かった…今日のことは忘れよう」

正直、あたしはすごく驚いた顔をしていたんだと思う
ルルーシュはそれだけ言うと、自分の自室に足を向けた

「…謝らないで」

そっと呟いてみても、返事をしてくれる者はいなかった











「お前、そんなに気にしているんなら直接に聞けばいいじゃないか」

どぼん、とプールに吸い込まれたC.Cは水に身体を任せて浮いている
俺はパソコンから目を離すと、今だ空を見ているC.Cに口を開く

「今のに聞いては駄目だ、」
「何故だ?」
「…壊れてしまう気がするんだ」

今日のは何かがいつもと違った気がした
何かに怯え、そして何かから逃れようとしている
そして"罪"という言葉への、異様な感情
過去に何かがあったことを物語っている

「俺はの何も知らない、彼女から聞いただけの話は所詮上っ面の話だ、過去だとかそういうのは…」
が言いたくないから言わないんだろう?だが、それはの過去にそれほどのことがあったということだな」

それはそうだ、言いたくないから言わない
人として当たり前に抱く感情であって、何ら不思議でもなんでもない
だけど、俺は知りたかった
何故だろう、ずっと気になって仕方がない

は強いんだ、だけど きっと誰よりも脆い」

C.Cの言葉がよく響くプール内に余計に響く

「隠し続けるという弱さと、それを乗り切ろうとする強さ お前にはそれがあるか?」

問いかけるような口調
隠し続ける弱さなら自分でもいやというほど実感している
だが乗り切る強さなんて、俺にはない

「矛盾しているな」

呟くように言うと、C.Cのふ、という鼻で笑うような声が聞こえた

は矛盾に怯えている、弱さと強さ そして存在と罪のな」





はそっとスポットライトに照らされた紅蓮弐式を見上げた
完全なる日本製のナイトメア
今回キョウトから送られてきたものだ

「すごいね、」
「ええ」

隣にいるカレンに言うように呟くと、声が返ってきた
はそのまま機体を見上げながら口を開く

「カレンが乗るのかな」
「まさか、ゼロでしょう?」
「いや、パイロットはカレン お前だ」

暗闇からの声に、カレンははっとして顔をあげる
黒い空間から同じように真っ黒のゼロは出てきた

「え?…あっ」

ぱしっと気持ちのいい音をさせてカレンはゼロから投げられた物を受け取った
掌には紅蓮弐式のキー
カレンはばっとゼロを見た

「でも、紅蓮弐式ほどの防御力ならゼロが乗るべきでは…」
「エースパイロットは君だ、私は指揮官、無頼は使うが先頭の切り札は君だけだ、いやもだな」

そう言われ、しかしは視線を動かさなかった

「それに、君には戦う理由がある」

カレンは一瞬間をとってから、そしてはい、とキーをぎゅっと握った
はカレンにそっと微笑みかけると、歩いてきた扇の横をすり抜けてゼロの前から姿を消した