「朝から山登りだね」
ゼロ用の無頼の肩に乗っているは、吹いてくる風に髪を靡かせた
相変わらず見えてくる景色は山ばかり
ナナリーには友達と旅行と言ったが、ルルーシュも同じ理由だったらどうしようか、とはふと考えた
「此処だな」
ルルーシュの声で、は視線をあげた
そこには小さな山小屋
「人なんかいるの?」
「当たり前だろ、此処は日本解放戦線の勢力範囲なんだからな」
ふぅん、と小さく納得したは仮面を被るルルーシュを見て、自分もそっと狐の面をつけた
「ゼロ!」
中に入った瞬間、2人の男は慌てて銃を手にした
しかしルルーシュはゆっくりと仮面を外し、そしてギアスを発動させた
「お前達は無視するだけでいい、全ての異常を」
言った瞬間、鈍い痛みを頭に感じたは、一瞬眉を顰めた
男達は少しの間動きを停止させて、そのまま椅子を戻し、先ほどのように碁を撃ち始めた
ルルーシュはさも当たり前かのように、奥の椅子に腰をかけた
「…ギアスね」
小さく呟いたは、しかし中には入らないでそのまま身体を反転させて外へ出た
「やっぱりルルーシュは本気なんだね、C.C?」
山々がよく見える位置に立つと、は視線も動かさずに言い放つ
いつの間にかいたのか、C.Cがの横に立った
「相変わらずだ、よく私がいると分かったな」
「分かるよ、気配感じるもん」
へへ、と笑みを浮かべたに、C.Cも小さな笑みを零す
「C.C、何をしているこんなところで」
しかしそんな雰囲気をぶち壊すような、ルルーシュの鋭い声
C.Cはそっと顔を後ろのルルーシュに向けた
「守ってやると言っただろう」
「保護者面をして…」
とC.Cが一緒にいるということに疑問は持たないルルーシュは、そのまま2人に近づいた
「ルルーシュ、お前は何故ルルーシュなんだ?」
「哲学を語っている余裕はない」
すっぱりと言い捨てたルルーシュだが、C.Cは続ける
「家の名はランペルージに変えた、だがルルーシュと個人は残した、甘さだな、過去を捨てきれない」
やっとルルーシュが歩みを止めた
は視線を遠くに投げたまま、2人の会話に耳を傾ける
「だからって、C.Cはやりすぎだろう 人間の名前じゃない」
瞬間、ルルーシュに振り返るC.C
何か秘めた瞳に、ルルーシュは言葉を止めた
「どうして、雪が白いか知っているか?」
その言葉はにも向けられているようだった
はようやく身体を反転させた
「自分がどんな色だったか忘れてしまったからさ」
悲しそうな金色の瞳、自潮するかのように笑みを浮かべたC.Cに、は口を開いた
「白っていうのはさ、安易に何にでも染まる」
は漆黒のコートを羽ばたかせて、栗色の髪を弄る
小さな笑みを零したまま、は背を向けた
「思い出して、そしてまた染まりたいのかなあ」
*
「なぁ、本当にやるのか?」
扇の言葉に、ゼロが回りを見回す
そして、少し迷っているような扇に鋭い声を掛けた
「相手はコーネリア、ブリタニアでも屈指の武力を誇る軍だ」
はそんな2人をちろりと見てから、そして再び視線を戻す
所々から泥が滝のように吹き出ているその光景に、ふぅ、と息をついた
その時、今まで何もなかった灰色の空に、ぽつぽつとブリタニアの機体が見え始めた
「始まったな」
みなその機体の多さに、驚きを隠せないようだ
「じょ、冗談じゃねぇぞ、ゼロ!あんなのが来ちゃ完全に包囲されちまう!帰りの道だって!」
「もう、封鎖されてるな 生き残りたいなら、此処で戦争しかない」
釘を刺すような、その言い方に玉置は声を荒げた
「真正面から戦えっていうのか!?囲まれてるのに!」
ゼロはしかし落ち着いた物言いで、言葉を繋ぐ
はそんなゼロの奇跡、という言葉に少しだけ悲しそうな顔をした
「あのなぁ!奇跡は安売りなんかしてねぇんだよ!やっぱりお前にリーダーは無理だ、俺こそが」
そう言って、背負っていた銃を手に取る玉置
しかしゼロの方が早く銃を構えた
「!!」
「…ゼロ?」
の声の直ぐ後、ゼロはその銃を自分に向けた
その行為に、周りの者はみな驚きを隠せない
「既に退路は絶たれた、この私抜きで勝てると言うのなら、誰でもいい、私を撃て!」
誰も声をあげられない
玉置は目を見開いてゼロを見つめた
「黒の騎士団に参加したからには、選択肢は二つしかない、私と生きるか、私と死ぬかだ!」
しんと静まり返る辺り
玉置は、一瞬間を置いて、ふんと鼻を鳴らした
「勝手にしろよ」
ゼロは仮面越しに勝ち誇ったように笑みを浮かべた
「此処で仲間割れしてどうするつもりだったのかな」
皆に背を向けたまま、は呟く
はつい先ほどゼロより、黒の騎士団に紹介されたばかりだった
「でもゼロ!こいつは」
「何、あたしがいちゃ不満なの?」
狐の面がきらりと光に反射した
玉置はのその物言いに、再び声を詰まらせる
「ま、あたしもゼロも、顔隠してばっかじゃ疑うのも当然、か」
そう言うと、はそっと狐の面に手をかけた
ゼロとカレンは、はっとを止めさせようとしたが、遅かった
「改めてよろしくね、黒の騎士団のみなさん」
栗色の髪を美しく靡かせ、はにっこりと微笑んだ
その幼い顔つきに、周りは驚きを隠せないままを見つめる
ゼロは小さく舌打ちし、カレンは驚いたように目を丸くした
「君は、無頼には乗らないのか?」
ふいに掛けられた声に、はくりると顔を向ける
「…扇さん?」
「え?」
「前カレンに聞いたの、名前」
へへ、と笑みを浮かべた少女がこれから戦争に巻き込まれるのだと思うと、扇はなんだか申し訳なくなった
「…大丈夫だよ、あたしは」
これがあるし、と自分の腰にささっている刀をこんこん、と指で叩く
扇は刀があるとはいえ、生身で戦場に出向くのか、と眉を顰める
はそんな扇に気づくと、「見ててよ」と再び笑みを浮かべた
「あたしが必ず黒の騎士団に勝利を導いてあげる」
「よし!全ての準備は整った!黒の騎士団、総員出撃準備!」
はそっと狐の面をつけた