「あれはっ!」
飛び上がった瞬間、遠くに見えた機体
それはがよく知るもので
「ランスロット…、まさかスザク!?」
ゼロの小さな気配を頼りに、は足をできる限りの速さで動かす
しかし見えた白と黄色の機体に目を見開く
「なんでスザクが…」
それはゼロとランスロットの戦い
ルルーシュとスザクの戦いを意味している
は困惑したような、悲しそうな瞳でそれを見つめた
「なんで二人とも…」
親友の二人なのに、今目の前で戦いあっている
は一刻も早くそれをやめさせなければ、と身体の動くままに二人の下へ向かう
「!!」
ランスロットが粉砕した無頼の上に立つゼロにバリスを向けている
は息を呑んだ
―駄目だ、駄目だ、 やめさせなければ
いいの?勝手に手を出して 貴方は此処にいていい人間じゃない
駄目なの、ゼロを助けなきゃ
貴方には関係のないことでしょう?
駄目!ゼロはあたしが守る!ルルーシュはあたしが守るの!それが今あたしができる唯一のことだから
「やめてっ!!」
風より速く、はざっ、とゼロの前に立ちはだかる
そして刀をランスロットに向けた
「ゼロはあたしが守る、」
狐の面をもう一度しっかりつけると、はぎゅっと刀を向けた
ランスロットの中にいるのはスザクなのはも知っている
だからこそ、ランスロットとは戦いたくはない、というのがの本音だった
「……ブリタニアのナイトメアの脆さは知れてる、貴方も塵となるのよ」
ぐ、と足に力を入れた瞬間だった
草陰から静かにC.Cは出てきた
「やめろ、この男には手を出すな!狐の面の女もだ」
言いながらがたがたの地面を歩いていくC.C
その方向は確実にランスロットに向いていて、目の前まで来ると、C.Cはそっと白いボディに触れた
「何をする気だ!相手はナイトメアだぞ!?」
ゼロの焦りの混じった声がの後ろから響いた
しかしC.Cは同時もせず、風に美しく髪を靡かせる
「お前に死んでもらっては困る、感触接触だが試す価値はある…、少し我慢してくれ」
言葉の意味を理解できないは眉を顰めたが、次の瞬間襲ってきた頭痛に頭を押さえた
「くっ…」
その強さに、思わずその場にしゃがみ込んだ
すかさずゼロがに近づく
しかしはゼロの手を振り払い、C.Cの元へ行くように告げた
「…っ、」
ゼロとC.Cの声が遠くに聞こえる
何故だろう、何故こんな痛みが襲うのだろうか、は正常に働かない脳でふいに考えた
「あっ!」
再び刺されるような痛みがの頭を刺激した
しかしその痛みの後、もう頭痛は襲っては来なくなった
は不審に思い、ぐらつく視界をランスロットの方に向けた
そこにはC.Cの肩に手を置いているゼロ
二人ともすこしも動かない、否、微かに震えている
「どうし…っ!」
C.Cの瞳から涙が零れている
はその光景に言葉を失い、そして歩みさえ止めた
何が起きている
C.Cが胸を押さえて倒れこみそうになった
「C.C!?」
近づこうとした瞬間、今まで沈黙を守っていたランスロットがいきなりバリスをそこ等中に撃ち始めた
それはまるで暴走しているようにも見える
「二人ともっ!危ない!」
の声が響いた時、C.Cの胸に砕け散った破片が刺さった
目を見開き、倒れそうになるのを必死に堪えているが、しかし激痛には敵わないのだろうか
C.Cはゼロに倒れこんだ
「ゼロ!C.Cを安全な場所へ!」
「お前は…!」
「あたしはいい!とにかくC.Cを連れて行って!」
細いC.Cの身体をゼロに押し付け、その場を離れさせる
はゼロの姿が見えなくなったのを確認すると、目の前で暴れているランスロットを見据えた
「…スザク…、どうしたのよ…っ!」
辛そうに顔を歪めた後、刀に力を込める
「あたしがこの場でできるこはひとつ…」
そう呟き、地面を蹴ろうとした瞬間、機械越しの声でそれをやめた
「貴様!黒の騎士団の者か!?」
濃い紫色のナイトメアは後ろに数台のナイトメアを連れての前にやってくる
はちっ、と舌打ちすると、しかし目の前のランスロットから意識を離さずにそのナイトメアに叫ぶ
「お前、ブリタニア軍の輩か?」
「貴様に話す必要はない!その前にそのナイトメア…」
「ランスロットはあたしが止める、それまでの間は手を出すな」
低い声でそう告げると、刀を再びランスロットに向けた
「ふざけた戯言を!貴様のような生身の身体であのナイトメアを止めると?」
「なら見てなさいよ、零番隊隊長をなめてもらっちゃ困る」
しかしランスロット以外のナイトメアを巻き込まない自信はにはなかった
刀を開放したら、間違いなくパイロットのスザクにも被害がいく
それだけは避けたかったは、言葉通り刀は持ったまま、生身でランスロットに飛びついた
「ああああぁ!!」
ありったけの力を込め、右足をランスロットの頭部に打ち込む
その衝撃は想像するよりはるかに強いもので、ランスロットの其処はべこりとへこんだ
だが、それに気づいたランスロットは無我夢中でに向けて左手を振りかざした
「っな!」
あまりに速い、ランスロットの動きには反応を遅らせ、そして刀は地面に落ちた
「っち!」
刀なしではさすがに暴れるランスロットはにとっては辛い
顔を歪ませるが、しかしそのまま地面に足をつき、再びランスロットに飛び掛った
とりあえず武器をなんとかしようと、は右手に握っているバリスに鬼道を打ち込んだ
ばちぃ、と音をたててバリスは粉々になる
「よしっ」
次は左手に握る厄介な刀
へこんだ頭部に手をつき、身体を反転させたはそのまま遠心力に力を任せ、足を振りかざす
ある程度の距離により、強い衝撃を受けた右手は半分ほど地面に落ちた
完全に武器を失ったランスロットは、しかし動きを止めない
「そこをどけ!」
機械越しの声には、ばっ、と後ろへ1メートルほど飛んだ
が動いたのとほぼ同時に、ナイトメアはランスロットのコックピット部分に銃を打ち込んだ
ようやく動きを止めたランスロット
は小さく息をついた
「ほらね?あたし一人でも止められた」
「………」
「とっとと中の人出してあげなさいよ」
土に汚れた白い羽織に少し嫌そうな顔をしたは、落ちた刀を拾って何処かへ消えてしまった
ナイトメアの中―ギルフォードは声が出なかった
つい先ほど、コーネリア直々に連絡があったのは黒の騎士団にいる狐の面の少女のこと
最重要警戒人物と称された彼女は、今自分の目の前で身体ひとつで暴れるランスロットを止めた
「…ありえない」
そう、人間がナイトメア相手に、それもゼロを追い詰めたランスロットを止めるなど、ありえないことなのだ
ギルフォードは特派が彼女についてのデータが欲しい、と言っていたのを思い出した
濃い栗色の髪、印象的な狐の面 そして零と書かれた白い羽織
ギルフォードは自分の部下がランスロットを回収しているのを、ただ見つめるしかできなかった