「ギアス」

少女は僅かに驚いて見せただけでそれっきりただ大人しくルルーシュの言葉に耳を傾けていた
ギアス、絶対遵守の力、悪魔の力だ
だけど自身にも異様な力が備わってる以上動揺は見せなかった
寧ろ同じような人間がいたことを喜んでいるかのようにも見えた

「この世もあまり狭くない、ってことか」

それからルルーシュの力を聞いてからはあの妙に恭しい態度を一変させた
喋ってみるとという少女は実に口数の多い、活発な人間だということが分かった
先ほどの大人しい様子が嘘のようである
はルルーシュから聞かされる作戦だのを実に興味深げに聞いている

「つまりあたしはゼロのサポートをしろって、」
「そういうことだ」
「ゼロかー、面白い名前」

くすりと笑って見せた笑顔はまだまだあどけないものだった

「世の中にブリタニアへこんなに本気に反逆をしようと思ってる学生がいるなんて」
「仕方ないものだ、腐っているんだからな」
「…、否定はしないけどね」

ついでに言えばルルーシュの身元はあっさりにばれた
つまりルルーシュが皇族だということがだ
過程はこうだ、何故その情報をが知っているかは定かではないが
何年か前突如死亡扱いとなった皇子と皇女がいてその一人の名前がルルーシュだと
確信を持って告げるに、白を切れる状態ではなくなってしまったのだ
正直、ゼロのこと、ギアスの事を教えた時点でもう彼女に隠すことも意味を無いのではと思案はしていた

「それからお前を此処においておく中でもう一つ条件がある」
「条件?」
「ナナリーのことだ」

先ほど粗方話した中でも出てきた妹のナナリーのこと
はその名前のあとに少し頷いて見せてなあに、と首をかしげた

「ナナリーに危害を加えることは許さないからな」
「分かってるよ」
「それとそうだな、お前はミレイ・アッシュフォードの遠い親戚としておく」

ミレイ・アッシュフォード、つまりこの学園の理事長であるアッシュフォードの娘だ

「ナナリーにはそう教えておくからあわせろよ」
「了解ですー」

おどけて笑ってみせたそのとき、ルルーシュは何かを思い出したかのようにグレーの扉を見た
つられて扉を見たを尻目にルルーシュは立ち上がってその細い腕を掴む
ぐん、と強制的に立たされルルーシュを見た

「一々延ばすのも面倒だ、多分そろそろナナリーが帰ってくるだろうから行くぞ」
「え、今?」
「そうだ、それからそのコート脱いでいけ、変な奴に思われる」

失礼な、と心中で毒づきながらもは着ていた漆黒のコートを脱いだ
異常に短いホットパンツに襟元が随分と開いたモスグリーンのタンクトップだけの
ルルーシュはその格好を見て、少しだけ視線を外してから今度は自分のコートを放り投げた

「これを着てけ」
「…いえっさー」





開いた扉の奥にいたのはミルクティーのような髪の毛の少女とそのメイドだった
ルルーシュとに気付いた二人は揃って顔を向けるも少女の方は目を瞑ったままである
それにが首を傾げるも、理由はすぐに分かった

「おかえり、ナナリー」
「はい、お兄様」
「あのルルーシュさま…隣の方は?」

先程より随分柔らかな口調のルルーシュの問いに答えるのが、恐らくナナリーだろう
車椅子に座っている少女の傍らにいるメイドの女性はを捉えるとルルーシュを見た
ルルーシュはああ、と言ってを引っ張る

「ナナリーと咲世子さんにも紹介しておくよ、っていうんだ、会長の遠い親戚で」
「日本人の方なんですか?」
「ああ、何でも一昨日両親が亡くなったらしくて…会長の頼みで暫く此処にって」

言えばナナリーは納得したように笑みを浮かべた
そうして咲世子に頼み、の前まで車椅子を寄せる
伸ばされた小さな手に、は目を丸くした

「分かりました、これからよろしくお願いいたしますね、さん、ナナリーといいます」

ふわりと見せた笑顔には心なしか頬を赤らめてその手を握った

「…あの、よろしくお願いします」

握った小さな手はしっかりと暖かくて、は知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた

そのあとはルルーシュのいきさつでナナリーから服を貸してもらうこと、
それからルルーシュの部屋の空き部屋をに貸すことなどが着々と決められていった
そわそわとそれを見守るに、ナナリーは嬉しそうに笑んだ

「でもなんだか嬉しいです、同じ女の子と一緒に住めるだなんて」
「なんだ、ナナリーは俺とじゃ不満なのか」
「そうとは言っていませんよ、お兄様」

仲睦まじい兄妹に挟まれ、は恥ずかしげに俯いた
そのときテレビから流れたアナウンスの声に、ナナリーが急に表情を変える

「あ…お兄様」
「分かってる」

急に変わった場の雰囲気に、は目を丸めてディスプレイを見た
其処に映し出される拘束された少年、栗色の髪の毛と翡翠の瞳が印象的だった

「…スザクさん」

悲しそうにナナリーはそう呟いた