「暇だー」

ぼす、と音をたててはソファーに倒れこむ
一瞬、ずきりと右腕が痛んだが、しかしそれも無視できるような痛みであった

「暇、暇、C.Cー暇すぎて死んじゃうよあたし」
「暇なだけで死ぬわけないだろう、たまには大人しくしてればいい」

そう締めくくったC.Cはソファーに寝転んだを横目で見た
しかしは相当やることがないのか、うーと唸りながらばたばたと足を動かす

「…ルルーシュはさ、ナナリーに付きっぱなしだし、C.Cは遊んでくれないしー」

唇を尖らせ、はさっとC.Cに向き直る
なんだ、と金色の瞳を細め、を見つめるC.C
は、へら、と笑みを浮かべ言い放った

「学校探検しない?」
「断る」

間髪いれず答えられ、はえーと眉を顰める
C.Cが断る以前に学校探検など、彼女が行くと知ったらルルーシュが黙っていないだろう
それを分かっているC.Cはあえてすっぱり断った

「だって暇じゃないの?」
「暇じゃない、それにルルーシュならさっき出て行ったぞ?」
「え?」

C.Cが指差す窓をそっと覗き込む
そこには私服姿のルルーシュと

「シャーリー?」

遠くでよくは分からないが、シャーリーは微かに頬を紅く染めてルルーシュに何かを渡している
青春してるなーなんてぼぅ、と考えただったが、C.Cの鋭い声で我に返った

「ルルーシュはお前にとってなんだ?」

振り返ると、ルルーシュのベッドに寝そべっていたはずのC.Cがの方を向いてしっかり立っている
は少しだけ首を傾げる
しかしにっこりと微笑むと、口を開いた

「ルルーシュは守りたい人だよ、大切な」

その口調からは、愛情だとか、そういった類の感情は含まれていなかった
だからこそC.Cはちょっとだけルルーシュを哀れんだ

「守りたい人、か…それはお前が此処にきて初めてあった人物からなのか?」
「そう、かもしれないな…もしあたしが此処に来て他の人に拾われてたら、あたしはその人を守りたいと思ったのかも」

なんとも呑気に言うは、けれど少し悲しそうな顔で顔に掛かる髪をかきあげる

「だけど違うのかもしれない、ルルーシュだったからそう思ったのかも、世界を変えたいルルーシュだからこそ、ね」

綺麗な笑みを浮かべたはそのままC.Cの前まで静かに近寄る
C.Cの美しい髪の毛をそっと掬い上げたは、静かに目を伏せた
の行動にC.Cは不思議そうに彼女を見つめたままされるがままに、じっと動かない

「…C.C、ルルーシュとなんかあったでしょ?」
「…は」

楽しそうなの声のトーンにC.Cは思わず間抜けな声を出してしまう

「見れば分かるってー」

けたけたと笑うに、誰が一番周りが見えてないんだ、と突っ込みたくなるのをC.Cは必死で堪えた











「仲間とか言って、顔も見せねぇ奴が!どーなんだよゼロ?あ?」

玉置の大きな声で、はそっと階段から顔を覗かせた
しん、と静まり返った空間に、は訳が分からず、ただ口を開くカレンの言葉を待った

「ゼロの正体がどうかなんて、問題じゃないでしょう?」

彼を庇うかのように、ゼロの前に立ったカレンは怪訝そうな玉置を睨む
ちっ、と大きく舌打ちした玉置はくるりと踵を返した
そこで顔を覗かせているとばっちり目が合った
はん?と首を傾げ玉置を見てから、周りをぐるりと見回す

「何、何、」

興味深々オーラを放っているに、ゼロは小さくため息を漏らし、そのまま彼女の腕を掴んで上の階に消えた




「玉置ってルルーシュ嫌いだよね」

備え付けられていたソファーから仮面をとったルルーシュを見つめ、はふっ、と笑った

「ふん、それなりの成果を出せばいいものを」
「いい駒じゃないの、一応」

けろりと冷めた事を言うと、はごろりと横になった
パソコンに向かって何か考え事をしているようなルルーシュに、は少し寂しさを覚え、むぅと小さく声をあげた
その時、こんこんと気持ちのいい音をさせ、扉が鳴る

「誰だ」
「私です、あの」

慌てて仮面をつけようとするルルーシュは、聞こえた声にそれを止めた
は寝そべりながら、二人の会話に耳を傾ける

「さっきは出すぎた事を言って…申し訳ございませんでした」

玉置の事だろう、とは解釈すると、カレンがゼロに対しての服従心に目を細める

「カレンも私の素顔が見たいか」
「………」

長い沈黙
それは肯定を表してして
しかしカレンはいえ、と口を開いた

「では、失礼します」

すっとカレンの気配が扉から遠のく
ルルーシュは少しだけ安心したように、仮面を机に置いた

「カレンは本当にルルーシュのこと、…いやゼロのことを尊敬してるんだね」

ぽつりと呟いても、ルルーシュは一瞬視線を送るだけで返事を返さない
は薄く笑みを浮かべて、静かに立ち上がる
そして皺の着いた団服をぎゅ、と引っ張り部屋を出て行った





「キョウトの方、大丈夫だったんだ?」

さー、と降り続く雨の音を耳に入れながら、は帰ってきたルルーシュに声を掛けた
ラフな格好に身を包んだは、やっと雑誌から目を離す
つい今しがた、ゼロとしてキョウトから帰ってきたというのに、ルルーシュは疲れた様子を見せなかった

「ああ、それより俺は今から出掛けてくる」
「何処に?」
「……お前には関係ない」

その言葉のあと、は微かに目を見開く
ルルーシュははっ、とすると、慌ててに謝ろうとするが、彼女自身の声でそれもできなかった

「そっか、うん、いってらっしゃい」

いつもの笑みのつもりだろうが、少しだけ、本当に僅かは悲しそうだった
ルルーシュは何かを言おうとしたがぐいぐいと背中を押され、部屋から追い出されてしまう
仕方なく、ルルーシュは傘を片手にクラブハウスを出た


「なんだ、一緒について行くのかと思ったよ」
「まさか、あたしだってそんな性悪じゃないって」

ふっ、と自潮気味に笑うは、ゼロの格好をしたC.Cに視線を送る

「あたしにとってルルーシュは守りたい人、ルルーシュにとってあたしは駒、…この関係は仕方が無いことなんだからさ」

ぐっ、と欠伸をしたは、お腹空いたー、と再びソファーに縮こまる
C.Cは喉まで出かけた言葉を飲み込み、マントを脱いだ

「シャーリーはルルーシュが好きだから」

小さな言葉を耳に入れ、C.Cは少しだけ驚いた顔をしてに振り返る
だが当の本人は驚くべきスピードで眠りについてしまったため、C.Cははぁ、と息をついた

「ルルーシュも哀れなものだ」

小さく寝息をたて、眠りに付く
だからこそ、今彼がどんな状況なのか、それを知る由はなかった