開いた口が塞がらない、というのはこういうことを言うのだろうか
ルルーシュからの言葉は信じられないもので
しかし翌日行われたシャーリーの父の葬式でそれが真実だとういうことをは悟った

「やめてぇ、もう埋めないでっ…苦しませないでぇ…!」

泣き崩れる母を、シャーリーも辛そうな顔で宥めている
黒で統一されたその空間は、重い空気が漂っていて、も眉間に皺を寄せたままでいる
しかしそれ以上に、の隣にいるルルーシュの顔は歪められていた

「シャーリー…」

周りの大人が散らばっていく中、シャーリーはずっと墓を見つめていた
そしてそっとこちらを向く
その顔があまりにも悲しそうで、辛そうなものだったから、はぐっ、と拳を握った

「そのっ…ごめんなさい、シャーリー」

シャーリーの父がナリタの戦いで死んだことを知っているカレンは反射的に彼女に謝った
続いてリヴァルも謝罪の言葉を並べた

「そんなこと…ないよ」

無理に笑みを作っているシャーリーはゆっくりこちらに向かってくる
しかしそんなシャーリーの肩を掴み、ミレイは真剣な顔で告げた

「よしなって、それより私はあんたの方が気がかり…ちゃんと泣いた?今変に耐えると後でもっと辛くなるよ?」
「…もう、いいの…もう十分、泣いたから…」

目を伏せるシャーリーには掛ける言葉がなく、もどかしさに更に拳に力を込める
その時、隣のスザクの声が鋭く響いた

「卑怯だ、黒の騎士団は、ゼロのやり方は卑怯だ」

後ろで顔を俯かせているルルーシュは何も発しない
はそんなルルーシュを心配して、スザクの言葉を遮った

「あれじゃぁ、何も変えられない…間違った…「スザク」

黒い瞳にスザクが映る

「今、そういうこと言う時じゃない」

それだけ言うと、は掛ける言葉もないのに、シャーリーに近づいた
いつもの明るさがないシャーリーの瞳をじっと見て、は顔を歪ませた

「その、会長の言う通り…ちゃんと泣くんだよ?…別にかっこ悪いことじゃない」
「…うん、大丈夫だから」

大丈夫なわけなかった
には分かっていたのだ、シャーリーのその瞳がいつかの自分とリンクすることを
だからこそ、零れそうな気持ちを抑えるために、一歩後ろに下がった

「ほーら、みんな行こ?」

明るく締めくくったミレイは、ぱっ、と後ろを振り向く
それに反応したリヴァルがルルーシュを連れて行こうとするが、ミレイにそれを阻止された
理由はも分かっている
す、と彼の横を通り過ぎたは、栗色の髪を靡かせて、歩みを進ませた



学園までの道のり、誰も口を開こうとはしない
しかし以外にも、その沈黙を破ったのはスザクだった

は、黒の騎士団の見方なの?」
「…え?」

その言葉にはだけではなく、カレンも反応する
しかし前を歩く、ミレイやリヴァル、ニーナは気づいてはいるようだったが、口を挟んだりはしなかった

「…前も生徒会室で言ってたじゃないか、さっきだって…君は…」
「見方ってわけじゃないよ、でも…彼らに反対してるわけでもない」

歩きながら淡々と言葉を続ける
スザクもの瞳を見るわけでもなく、あくまで前を見つめていた
はそっと目を伏せてから、しっかりと前を見据える

「黒の騎士団のおかげで助かった人は現に何人もいる、その彼らの行動全てを反対はしないだけ」
「だけど彼らのやり方は間違っている」
「間違い…?それは誰が決めるの?正しいことと、間違っていることは誰の判断で決まっている事なの?」

翠の瞳は思わずを映した
しかしは一向にスザクを見ようとはしないで、何処か遠くに視線を投げている

「スザクは間違ってるって思うかもしれない、けど日本人の人達はブリタニアが間違ってるって思ってる方が多いと思うよ」

スザクは歩みを止めた
だがはそのまま足を動かし続けるが、当然の如く、彼を通り過ぎようとすると腕が伸びて、それを阻止される

「…傲慢すぎるじゃないか」
「それはブリタニアも同じ事、」
「分かって、、黒の騎士団は…」

「それはスザクの方だよ、ブリタニアはね、  ――腐ってるのよ」











ガタン、と大きな音が雨の音を遮った
は一人自室のベッドで小さくなっていたが、その音でそっと顔をあげた

「…ルルーシュ」

音の根源は知れている
は再び顔を布団に埋める

降り続く雨の音が絶えず耳に届く
明かりもつけないから、外の僅かな明かりが窓から差し込むだけで、部屋は薄暗い
窓の影が扉まで続いていた

「何が間違っているんだろう」

時計が針を刻む音、雨の滴る音、そしての呟きが一瞬部屋を支配する
小さく身体の向きを変えると、布の擦れあう音が近くでした

「………」

は固く瞳を瞑った





「迷いも、情けも、…全て捨てられるの?」

小さな右手に狐の面を握り、は言い放つ
ゼロが消えた方を見つめていたカレンが少し驚いたような表情でに振り返る

「……」
「同じ日本人でしょう?」

いつの間にか黒の騎士団の皆がに視線を向けている

「…ゼロの命令だから」
「…そう」
は間違ってると思うの?」

珍しく無表情なは、ばさり、と羽織を靡かせてカレンの真正面に立つ

「さっきも言った、あたしは何が間違ってるかなんて分からない、だからこうしてゼロの元にいるの」
「…」

「誰も正しいことなんか分からない…それはゼロだって同じ事だと思うよ」

だから、と言葉を続けるはしかしそれをやめ、ゼロと同じように暗闇に消ええいった





「始まったな」

自爆、と称され海に沈んでいく日本開放戦線の船を見つめながらは其処を動こうとはしない
激しい爆風がばさばさと羽織を鳴かせる

「……」

は爆音が所々でする中、一向に動かない
否、動けなかった

は間違ってると思うの?』

カレンの言葉が頭の中を巡っては消えていく

「…あたしだって…分からないっ」

辛そうに顔を歪め、は固く目を瞑った
しかし次の瞬間、襲ってきた頭痛に目を見開く
この頭痛はギアス発動時に感じるもの、あるいは

「…ルルーシュ?」

彼が危険な時に襲ってくるもの
は遠くのコーネリアがいるであろう本陣をさっと見る
爆発が起きていることしか肉眼では捉えられない
ちっ、と舌打ちしたは其処から大きく飛び上がる

「…ランスロット?」

小さな点にしか見えないものはしかし白と黄色の機体だった
駆け巡る嫌な予感を必死に振り払い、は一瞬で其処から消えた