「…なっ」
音もなく地面に飛び降りたが見たもの
それはゼロ用の無頼が大破していて、その中心には真っ赤な血
コックピット部分からは頭から血を流しているルルーシュが見えた
「っ、ルルーシュ!?」
慌てては彼に近づく
無頼から彼を引きずり出し、そっと自分の膝に横にさせた
意識はないが、無事なようだった
「…はぁ」
安堵のため息をつき、血みどろの額を優しく拭いてやる
ぴくりと反応を見せたルルーシュだが、意識は戻らない
は彼の額の傷に右手を翳すと、意識を右手だけに集中させる
すると血みどろではあったが、額の傷は消えてなくなっていた
「よしっと」
今だ残っている血の痕を白い羽織で軽く拭いてやり、は大破した無頼の隣に残っている血の塊を見る
「ルルーシュの血じゃぁ、ないよね…じゃあ誰が…?」
そしてはっ、とする
がここに着いた時、既にルルーシュの仮面は外れていた
とすると、この血の痕を残した者、そしてその人物を撃った者、少なくとも二人は彼の素顔を見ているはずだ
「…ぅ」
「ルルーシュ?」
小さく声を漏らし、薄く瞳を開くルルーシュの顔をそっと覗きこむ
数秒の間、焦点の合わないアメジストの瞳は、しかしいきなり見開かれた
「っ!?何故、ここに…」
「心配だから来たの、それより…」
にっこり微笑みかけ、視線を血の痕に移す
上半身だけ起こしたルルーシュは、の視線の先を追った
その瞬間、ちょうどC.Cが少しだけ慌てた様子で二人の前に現れた
「ルルーシュ、も…、どうしたんだ、こんなところで」
「C.C!」
帽子を深く被った彼女を見て、ルルーシュは静かに起き上がる
その時、ルルーシュが微かに目を見開いたのをは見逃さなかった
「…C.C、頼みがある」
「なんだ」
「扇に撤退命令を出させてくれ、」
ゼロの仮面を見つめたまま、ルルーシュは動こうとしない
C.Cはそんな彼を不思議に思ったが、ルルーシュの言う通り無線に電源を入れ、扇に繋いだ
「どうしたの、ルルーシュ」
さすがに心配になったは今だ仮面を見つめているルルーシュに声を掛ける
それに反応したルルーシュはそっとを見た
「…俺の銃がなくなっている」
「…え?」
「何?」
扇に連絡をし終わったC.Cがルルーシュの言葉に眉を顰める
「…ということは、お前の素顔が見られた…?」
C.Cの言葉にルルーシュは表情を固くする
眉間に皺を寄せたままのは、ルルーシュの言葉に耳を傾けながらも、血の痕を見つめていた
*
「何遊んでいるんだ、あいつ…」
くるりと椅子を回し、ルルーシュは小さくため息をつく
「その様子だと、」
「ああ、スザクは知らないようだ」
珍しく団服のは、あたしもみんなと電話したかった、などとぼやきながら小さく丸くなっていた
「軍と黒の騎士団以外に、あんなところに来る奴がいるとは思えないが…」
「日本開放戦線の生き残り、という説もある…」
それと、と言葉を繋げるルルーシュを横に、C.Cはぱたりとソファーに横になった
「あの場所でシャーリーを見た気がする…」
「シャーリー?なんで…」
「ああ、お前とキスした女か」
首を傾げるを横にC.Cは平然と言いのける
しかしその言葉に、はキス?と小さな反応を見せた
C.Cは一瞬考えるように瞳を閉じたが、すぐに面白そうに金の瞳を細める
「なんだ、、知らなかったのか」
「ルルーシュとシャーリーがキス…」
「なっ、C.C!余計なことは…」
「確認しただけだ、色ガキめ」
慌ててC.Cの言葉を遮ろうとしたルルーシュだが、彼女の冷静な声で押し黙る
驚いたような、困惑したような、曖昧な表情のは、視線を宙に泳がせていた
そんなを面白そうに見るC.Cと、少し慌てている様子で見るルルーシュ
「…ふぅん」
唇を尖らせて、は小さく納得の声を出す
そのままゆっくり立ち上がると、そうなんだ、へー、と一人納得の言葉を繰り返した
そして感情の読み取れないような笑みを貼り付け、呆然とを見上げたまま固まっているルルーシュに一言
「お幸せに」
団服とともに渡されたブーツをかつかつと鳴らし、は部屋から消えた
暫しの沈黙
ぎろり、とルルーシュはC.Cを睨み、いつもより低い声を出した
「お前余計なことは…」
「余計?そうか、余計なのか…しかしそれは何に対しての余計だ?」
「…な」
にやり、という効果音がつきそうなくらい、C.Cは笑みを深くする
「お前がを手放すなら、私が貰おう」
意味深な言葉を呟いたC.Cに、ルルーシュはぐっ、と眉間に皺を寄せた
笑みのまま、ごろりと横を向いたC.Cからはもう、表情は読み取れなかった
「ナリタ…?」
シャーリーの部屋を物色し終わったC.Cがルルーシュの変わりにに伝えた
後ろで肩身が狭そうにしているルルーシュをちらりと見たは、そう、と小さく頷いた
「は行かないのか?」
「…」
一瞬、視線を泳がせただが、すぐに笑みを浮かべてうん、と読んでいた雑誌をぱたん、と閉じた
「シャーリーのことでしょう?だったらあたしは…あたしは関係ないからさ、」
どこか寂しそうなに、ルルーシュは出掛けた言葉を急いで飲み込んだ
それに気づいたのか、C.Cはそっと部屋を出た
残されたルルーシュは居心地の悪そうに、視線を下で泳がせている
そんなルルーシュに、は明るく声を掛けた
「ルルーシュ」
「な、なんだ?」
「シャーリーのこと、ちゃんと守ってあげてね?」
「…え?」
「もしかしたらシャーリーはゼロの素顔を見たかもしれない、けど忘れないで」
真っ黒な大きな瞳にアメジストの瞳が映る
「何が一番大切なのか、大切なものこそ、失ってから気づく価値があるのを」
は優しい笑みだった
ルルーシュは言葉が出なかった
「…分かってないわけじゃないでしょ?シャーリーの気持ち」
小さく頷くルルーシュに、はそれならさ、と静かにソファーから立ち上がる
彼女の足はルルーシュの方に向かっていて
そして彼の前でぴたりと歩みを止めると、にっこりと微笑んだ
「…答えてあげなきゃ」
の笑みは、寂しさと、困惑が混ざっていた