「……」
そっと空を見上げてみれば、まだ太陽が傾きかけて少し
あと1時間も経てばこの空も美しい夕日に包まれるだろう
「…何を期待してるのかな、あたしは」
クラブハウスを出てみても、やることもなく、はただ学園内を彷徨うように歩いていた
当然、学園内にシャーリーの姿はなかった
小さく息をついたは、くるりと後ろを振り向き、再びクラブハウスに戻ろうとした
「…ん?」
その時、はポケットの膨らみに気づき、軽く首を傾げる
ごそり、と中を探れば、出てきたのは淡い黄色のハンカチが一枚
「…えと、あー、スザクのか」
いつかスザクに貸してもらったものだと気づくと、ぽん、と手をつく
しかし授業も終わった頃だろう、教室にスザクがいるとは思えず
どちらかというと、軍にいる可能性が一番高いだろう
明日でも教室に行ったときに返そうと、はクラブハウスに向けた足をそのまま動かそうとしたが
「あら、ちゃん?」
聞き覚えのある声が、後方からした
そっと顔だけ後ろに向けると、カーキ色の軍服を着た綺麗な女性が学園の柵の外にいた
「あ、セシルさん?」
「久しぶりね、」
青みのかかった黒髪の彼女は、やんわりと優しい笑みを浮かべる
たっ、とセシルに近づき、こんにちは、と笑顔で告げる
「今日ちゃん、学校行ったの?」
「あ、いえ…今日は行ってません、そうだ、スザクそちらに行きました?」
いるのならハンカチを返してもらおう、とは考えたか、少し表情の曇った彼女に、ハテナマークを浮かべた
「いるにはいるんだけど…」
「スザク、どうかしたんですか?」
「…ええ、あ、ちゃん今時間あるかしら?」
相変わらず柵の外で話を続けるセシルは、綺麗な笑みで問う
クラブハウスに帰ってもルルーシュもC.Cもいない
現に暇で此処まで来たは、迷わずはい、と答えた
「なら丁度いいわ、少し付き合ってもらえる?」
「え?」
「貴方もスザク君に用があるんでしょう?」
用があることには変わりないは、少々不思議に思いながらも柵を抜け、彼女に言われるがままについていくことにした
高等部より、少し奥にある大学部
此処にスザクのいる特派があると、終始笑みで語るセシルに、
彼に連れてこられて知ってはいたが、そうなんですか、とは相槌をうっていた
「少し待っててね?」
グレーの扉の一歩手前で、セシルはくるりとに振り返る
しゅん、と開いた扉の奥に消えたセシルは、数秒と掛からずに戻ってきて、どうぞ、とを中に導いた
「スザク君ね、実はさっき此処に着たんだけど、熱があって今あっちで横になってるわ」
「え!?スザクが熱?」
ルルーシュ曰くあの体力馬鹿がまさか熱を出すとは、予想外な事態には驚きの表情を露にした
そんなに軽く苦笑いを零したセシルは、スザクのいる部屋へとを誘導する
煌々と光る眩しい電気が続く部屋は、白いベッドが数台置かれていた
「えーと、さっき此処に…あ、スザク君?」
奥から二番目のベッドには規則正しく動く膨らみが
静かに近づくと、気づいたスザクが慌てて上半身を起こした
「セシルさんっ、すいませ…って!?」
「スザクも熱出すことあるんだね」
珍しそうに語るを横に、セシルはまだ片付けていない仕事があると言い、その場を離れた
「大丈夫?スザク…」
「なんでが…」
あたしがいちゃ悪いの、と少し不機嫌そうに言うに、スザクはそんなことないよ、と笑みを零した
隣にある椅子に座ったは、顔の赤いスザクの顔を覗きこむ
「何度あったの?」
「えっとね、さっき測った時は…あれ」
忘れてしまったのだろう、きょとんと首を傾げたスザクに、ははぁ、と小さく息をつく
そして備え付けられた机に体温計が置いてある事に気づくと、それを手に取る
白い体温計を取り出したは、ほれ、とスザクにそれを差し出す
「測ってみなよ」
「いや、別に」
「測りなさい」
強めの言い方に、スザクははい、とそれを服の中に忍ばせた
暫しの沈黙だった
少し居心地の悪そうなスザクは、あのさ、とに声を掛けた
「なんでは此処に…?」
「ああ、これ返そうと思って」
やっと当初の目的を思い出したは、ごそごそとポケットからハンカチを取り出す
それを見たスザクは、なるほど、と手渡されたハンカチをまじまじと見つめる
「態々ありがとう」
「いえいえ、」
にこりと笑みを浮かべたに、思わずスザクは見惚れる
しかしピピピ、と無機質な機械の音がそれを阻んだ
それに気づいたは躊躇なしにスザクの服に手を掛け、体温計を取り出す
「ちょ、、何して」
「えーっと、38度5分ね、」
顔を更に紅くさせるスザクを横目に、は映し出された数字を読み上げる
一人慌てていたスザクは、そんなの様子にぱたん、と横になった
「…さ、」
「ん?」
「なんかあったの?」
視線だけ横になっているスザクに移す
彼はどちらかといえば鈍感天然なはずなのに、妙なところで鋭い
は内心舌打ちして、にっこり微笑む
「別にー」
「嘘だね」
「病人は大人しく寝てなよ」
ふっ、とスザクの笑う声が響いた
その時、しゅん、と扉の開く音が二人の耳に届く
「こんにちわー、ちゃん?」
「ロイドさん!?」
「…ロイドさん?」
感情の読み取れない笑みを浮かべているロイドは、座ったままのに近づく
彼の名前をよく知らなかったは、ロイドさん…と、彼の名前を繰り返した
「久しぶりだねえ、スザク君のお見舞いかなあ?」
「セシルさんに付き合ってほしいって、言われて」
見下ろすように言われ、は事実を一字一句間違えずに言葉にする
そっかぁ、と呑気に呟いたロイドはその時、の右腕に巻かれている包帯に気が付いた
「あれれー?右腕どうかしたのかなぁ?」
長袖のセーターを着ているため、スザクでさえ気づかなかった包帯にロイドは意図も簡単に気づく
は、ああ、とセーターを少しだけ捲くった
しかしまさかランスロットにやられた、なんて言える筈も無く、は必死に言い訳を考える
「これはですね、えーっと、…階段から落ちちゃって…」
「ふうん、」
レンズの奥の水色の瞳がきらりと光った
「それよりどうしたんですか、ロイドさん」
との時間を邪魔され、内心ロイドに対して苛立ちを覚えているスザクは、しかし笑顔で口を開く
ロイドはけろりと笑みを浮かべ、頭を掻いた
「いんやぁー、ねえ、大事な大事なパーツ…じゃなくて、デヴァイザーが熱で倒れてるんだよお?僕だって心配して」
「…そうですか」
心にも無い事を、とスザクは熱により少々潤んだ瞳でロイドを睨んだ
だがロイドの視線はの腕の包帯に注がれている
首を傾げたは、思い切ってロイドに聞いてみることにした
「あの、気になるんですか?」
「んー?ちょっとねぇ、」
「……?」
そう言ったロイドは今だ座っているの腕を掴み、そっと立たせてやった
更に首を傾げるを横に、少々辛そうに呼吸を続けるスザクに言い放つ
「ちょーっと彼女借りるねえ?」
言うが早く、はロイドに腕を引っ張られ、部屋を後にする
「この子もねえ、同じようなところに怪我してるんだよねえ」
ロイドが指差すディスプレイには、ついこの間のナリタ攻防戦の映像
其処には紛れも無く、仮面をつけた自身が映し出されていた