面白そうに、しかし何か考えているようなそんな視線の先のディスプレイには、紛れも無く自分が映っている
は背中に嫌な汗が伝うのを感じた
「ロイドさん、何見せて…」
「んー?面白いからさ、彼女にも見せようと思って」
ロイドとが見てるディスプレイを視線の先で追ったセシルは、慌てて彼に声を掛けた
こんな軍事なことを、一般人のに教える必要はないと言いたいのだろう
しかしロイドはちろりとを見やると、そのまま映像を流し続ける
「すごいよね、彼女、刀一本でここまでやるんだから」
「そう、ですね」
は言葉を濁す
まさかこんな瞬間を捉えられていたとは思いもしなかったからだ
だが映像は途中爆音が聞こえたかと思うと、ぷつりと消えた
「あ、終わりだ」
そう言って、すぐ後ろの椅子にどっかり座る
暫く言葉を発さないを不思議に思ったセシルは、どうしたの、と肩に手を置いた
「あ、すいません」
「もしかして今の映像に見入っちゃったー?」
「ロイドさん!」
「…別にそういうわけじゃ」
この映像を見る限り、ナイトメアに映像機器がついてるのだろうか
今度からはちゃんとその機器を探さなくては、と心の隅でそっと思った
「でね、その彼女、僕のあのランスロットを生身で倒したらしいんだよ」
「生身で、すごいですね」
「で、それを見てたギルフォード卿がランスロットの攻撃が右腕に当たってたって言うからさ」
ギルフォード卿、と小さく呟くは、そうかあの時の、と唇を尖らせる
「君の腕の傷と同じ位置らしいからね」
「それは凄い偶然ですね」
にっこり、と笑みを浮かべたは、これ以上自分から何も悟らせないように、なるべく話を終わらせようとする
ロイドはレンズの奥で、水色の瞳にを映して離さない
それに気づいているは、内心舌打ちしてから、更に笑みを深めた
「それにしてもなんでこんな映像を?」
「ん?彼女がスザク君を助けた時の中継見てね、興味を持ったわけなんだよー」
「そうですか、」
そういえば、とは先ほどいた部屋を見る
「あたしそろそろ時間なんで、帰りますね?」
その前にちょっと、とスザクのいる部屋に視線を投げる
少し残念そうなセシルは、しかし笑顔で頷くとじゃあね、と小さく手を振った
「またおいでーちゃん」
「はい、是非」
お得意の作り笑みを浮かべたは、失礼します、と言ってからスザクのいるであろう仮眠室を目指す
来た時同様、グレーの扉を抜けたは、奥から二番目のベッドに近づく
寝てしまったのだろうか、スザクの瞳は閉じられていた
「なんだ、寝てるんだ」
ならいっか、と柔らかな茶色の髪の毛を一撫でしたは、そのまま足の向きを変えるがぐん、と腕を掴まれて前に進むことを阻止された
「、帰るの?」
「何、起きてたのかー、」
翠の瞳が薄く開かれている
先ほどより顔が紅いことに気づいたは、熱が上がったのか、とスザクに掛かっている布団を掛けなおしてやる
「じゃあね、スザク、お大事に」
そう言った瞬間だった
後頭部を掴まれたかと思うと、いつもより紅潮している顔が目の前にあって、唇には熱いほどの柔らかなものが当たっていた
「んっ」
それがスザクの唇だと気づくのに、それほど時間は掛からなかった
「なっ、スザク!?」
慌てて彼から離れる
にやり、と笑みを浮かべたスザクはそのまま瞳を閉じた
小さな寝息が聞こえてきたのは、数秒後
「……」
ばくばくとうるさい心臓をぎゅっと押さえ、は暫く固まっていた
*
「遅いぞ」
しゅん、と開かれた扉の奥には不機嫌そうなルルーシュ
「ルルーシュ、帰ってたの?」
「ああ、さっきな」
私服姿のルルーシュは、椅子に身体を預けているものの、上半身を前に倒して顔を手で支えている
何か考え事でもしていたのだろうか
実際、が考え事に没頭する際、そのような格好をするからだ
「…何かあったの?」
の言葉に面白いほどの反応を示すルルーシュ
びくりと肩を揺らし、視線だけをに移す
ゆっくりルルーシュの前まで来ると、膝を折って彼の視線に合わせた
「どうだったの?シャーリーは」
「…」
「ルル、「」
問いただそうと、顔を近づけた瞬間、聞き覚えのある声が後方から聞こえた
振り向かなくとも、声の主は分かっていたは、そっと立ち上がるとくるりと体の向きを変える
「おかえりC.C」
「ただいま」
「何があったの?」
率直に聞くに、苦笑いを零したC.Cはの手を引くと部屋から出る
訳の分からないは首をかしげ、彼女の名前を呼んだ
「何、どうしたの?」
「今日はもう寝かせてやれ」
「ルルーシュのこと?」
「ああ、訳は…明日になれば分かるだろう」
そう言い残したC.Cはさっさとルルーシュの部屋へ戻っていく
眉を顰めるだが、しかしルルーシュの表情を思い出し、何も言わずに自室へと戻っていった
「C.Cは?」
制服に着替え終わったは、見当たらない彼女を不思議に思い、ルルーシュの部屋をひょっこり覗く
案の定、ルルーシュの自室にもC.Cはいなかった
「今日から隣の棟に移った」
「ふーん、ってえ!?隣の棟って、なんで?」
一瞬納得しかけたは、ルルーシュの言葉に驚きを露にした
しかし眉間に皺を寄せたままのルルーシュは何も発さない
その内着替え終わってしまったルルーシュは、の隣をすり抜けて部屋を出て行った
「…な、なんなのさ」
C.Cの言葉、ルルーシュの行動、何もかも訳の分からないは彼の後姿をじっと睨みながら呟いた
「…っくしゅ」
だが小さな破裂音が、そんなの行動を遮る
「…まさか風邪?」
妙に朝から寒気がすることや、続くくしゃみに、は眉を顰める
そして昨日のスザクの行動を思い出し、顔をぼっと紅くした
「(スザクの所為でうつっちゃったかもしんないじゃん!)」
熱い頬を押さえながら、は急いでルルーシュの後を追うようにクラブハウスを出た
「おはよ、」
ぽん、と叩かれた肩越しに聞こえるのは多分シャーリーの声
あたしは生まれる様々な感情を必死に押し殺し、にっこりと笑みを貼り付けて振り返った
「おはよ、もう学校来て大丈夫なの?」
「うん、心配ありがと」
眩しい彼女の笑みはいつものままだった
ほっと隠れて息をつくと、しかしシャーリーはずい、と顔を近づけてきて、ねえ、と口を開いた
「、あの人知ってる?」
「え?」
シャーリーが指差す方向に視線を投げると、見慣れた黒髪
そして驚くほど整った顔つき
一番身近にいる彼を指差しているのだから、あたしは思わず瞬きを数回繰り返した
「シャーリー?何言って…」
「名前、えっとなんだっけ…そう、ルルーシュ?」
シャーリーの表情は嘘なんかついていなかった
「待って待って、ストップ、ルルーシュの事言ってるの?」
「そうだけど…」
「なんで…」
そこで頭によぎるひとつの答え
ルルーシュの行動や、表情、つじつまが合う気がした
「…そっか、うん、ルルーシュがどうしたの?」
あえて自然に振舞った
此処でまた大騒ぎしたらきっと後々悲しむのはシャーリー自身のはず
首をかしげルルーシュを見つめるシャーリーに、あたしは胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた