あんなに君を大事にしてくれていた彼にあんな仕打ち
君はずっと独り
対価と言う口実で
罪も償わないまま
生キ延ビテイルンデショ?
違う、違う、生き延びているんじゃない
あたしだって、生にしがみ付いてるわけじゃない
あたしは望んでなかったのに
―望まれた存在でもないくせに―
違う!
そうじゃない、あたしは知ってるんだ
あたしだって望まれてこの世にいるんだ
本当?あんなに弄られた記憶でそんなこと言えるの?
知ってる、彼は教えてくれた
だって
「…その前にを返してもらおうか」
ぎん、と睨みを利かせて言うと、しかしマオは笑みを貼り付けて手を叩く
「何言ってるのルル?は自ら僕といる事を望んだんだよ?」
「嘘だな、がそんなこと言うはずが」
「ない?…ルル、忘れてないだろうな、僕のギアス、相手の思考くらい簡単に読めるんだよ?」
その言葉にルルーシュは言葉を詰まらせる
マオのギアスは自分が嫌なほど知っている、だからこそマオの言葉には確信があるのだ
しかし行動を共にしてきたが、自らマオの元にいくとは思えない
ルルーシュはぐっと拳を握った
「俺がに直接聞かなきゃ分からない事だろう」
「ふっ、ルルー、いくらこれまで一緒に行動してたからってがいつまでも自分のとこにいるなんて思わないでよ」
マオは立っている自分の隣に寝かされているをそっと見る
疲れきってしまい、それに加えの熱が上がったのか、の顔は今だに熱を帯びて紅い
そしてくっきりと残る涙の痕が、ルルーシュの一番の気がかりだった
「さ、それより決着をつけようか?君の得意分野で…」
ばさりとした音に目を向けると、チェス盤が其処にあった
頭をフルに使って勝負をするチェス
それを思考の読めるマオの目の前でするというのだから、ルルーシュは眉を顰める
「…悪趣味だな」
「それはルルーシュも同じだろ?」
マオが白いナイトを動かすのを合図にそれは始まった
「…くっ」
いくらチェスの強いルルーシュでもマオに勝てるはずもなく、
爆弾の解除スイッチでもある天秤には既に黒の駒がいくつも乗っている
それを横目で確認しながらも、ルルーシュは駒を進めた
「無理だよルルー、その策はもうお見通しだ」
「っち!」
頭の隅ではじき出した考えもあっさりマオに知られてしまう
ルルーシュは段々と、確実に焦燥に支配されていっている
額に滲む冷汗が何よりの証拠だった
「…俺の、俺の負けだ…!」
数分もしない内に、ルルーシュの振り絞ったような声が響いた
それを耳にしたマオはこれまで無いくらいの笑みを浮かべる
しかし無常にもマオの手中にあった黒の駒は、彼自身の手でその天秤に投げられていく
「っ、やめろおおー!!」
ことん、といい音をさせて天秤に落ちる黒の駒
小さくナナリーの名前を呼んだルルーシュはその場に崩れ落ちた
そんなルルーシュを見てから、マオはナナリーがいる場所に設置されているカメラの映像に視線を映す
「何?」
マオの困惑した声がルルーシュの意識を彼に戻す
いくらカメラをアップにしても、ナナリーの上の爆弾は爆破しない
そして次の瞬間、ルルーシュの後ろの窓が大きな音をたてて割れた
「…ぅ」
その音で、は薄く瞳を開く
しかし焦点の合わない黒い瞳は隣で起きている騒動にも意識がいかない
「自分はブリタニア軍准尉、枢木スザクだ、治安擾乱の容疑で君を拘束する」
スザクの鋭い声で、その場に緊張が走る
ルルーシュ自身も困惑しているようだったが、自分のポケットに入っている金属製のチェーンに気づくと薄く笑みを零す
ふ、と勝ち誇ったルルーシュは自分自身にギアスを掛けていた事をマオに心中で教えた
「馬鹿な…」
絶望的なマオは目の前の事実に目を見開く
その時やっとの意識が完全に覚醒した
そっと上半身を起こし、虚ろな瞳が捉えたのは砕け散ったガラスの破片と転がったチェス盤
マオはが起きたのを確認すると、しかしにやりと笑みを浮かべた
「起きたんだねえ、」
「…ぁ」
「!!」
光を失っているの瞳は大きな声のルルーシュに視線を移した
「る、ルルーシュ」
段々と彼の顔を見つめていく内に、顔色に生気が戻ってくる
だが次の瞬間、マオの言葉がの動きをストップさせた
「、忘れてないだろうね?」
「…っ!!」
びくりと震える肩
そんなが心配で仕方ないルルーシュとスザクは、思わず彼女に近づこうとするが、それも叶わない
響くの声は悲痛なものだった
「来ないでえっ!!」
ぎゅっと自身の身体を抱きしめ、は小さく屈みこんだ
「貴様っ、に何を…!」
「何をって、に聞いてみれば?」
「…いやだ、やめて…っ、」
再びぽろぽろと流れる涙をただ見る事しかできないルルーシュとスザク
いてもたってもいられなくなったスザクは、ぐっ、とマオの腕を掴んだ
「もうやめるんだ!」
「何を言ってるんだ、お前は、僕はに教えてあげているんだよ、…自分の過ちを」
「…やめてっ!」
ばっ、と顔をあげてマオを見る
にやりと優越そうに、マオは腕を掴むスザクを見やる
しかし腕を離さないスザクに苛立ったのか、マオはついに口を開いた
「もういい、教えてやるよ!お前達にも」
「っ、やだ!やめてえ…っ!」
「はねえ、一番大切な人を自分の手で殺してるんだ、」
の瞳が大きく見開かれ、涙さえ止まる
「そしてその罪、それ以外の罪さえも償わないまま、は生き延びてる、対価と言う言い訳で」
震えていた肩も動きを止める
薄く開かれたままだった血色の悪い唇は、小さく何かを発したようにも見えた
これ以上マオのやりたい放題だと、確実にが壊れてしまう
そう直感したスザクは、掴む腕に力を込めマオの意識を自分に集中させた
「貴様っ!」
「離せよ、この父親殺しが!」
今度はスザクが動きを止め、目を見開いた
淡々とマオの口から漏れるその事実に、ルルーシュも驚きを隠せない
そして崩れていくスザクを見て、はっ、としたルルーシュは大きく叫ぶ
「マオ!お前は黙っていろ!!」
襲う頭痛にさえ、反応を見せない
ルルーシュのギアスにより声の出なくなったマオは、ふらついた足取りで扉へ向かっていく
そしてその先で小さな銃弾の後に、マオの身体は地に崩れた
「…」
震えるのも忘れたかのように、は一点を見つめたまま動かない
しかし止め処なく溢れる涙は、確実に白い頬を濡らしていく
そんなを優しく抱きかかえると、ルルーシュはそっとスザクに振り向いた
「俺は…俺は…」
それでも自分の腕の中で小さくなっている少女は、今にも壊れそうなほど繊細なものに見えた
ルルーシュの胸の制服を掴もうと無意識にの手は彼に密着している
力の入らない指は、するりと制服を滑った
「…たす、け」
懇望する声音、少女は泣いていた