ゼロが出てこない、とカレンがぼやいていたのが数分前
当の本人はやっとトレーラーに戻ってきた
しゅん、と音とともに2階の自室に入ってくるルルーシュは、備え付けられているソファーに
小さくなっているとは一切視線を合わせずに椅子に座る
「……」
どちらも言葉を発さない沈黙の部屋
しかしそれを破ったのは以外にもルルーシュの方だった
「…、」
静かな声色
の視線は今だ宙を彷徨っていた
「…―お前、知っていたのだろう」
主語もない会話だが、は理解していた
白兜のパイロットがスザクということを
は少しだけ黒い瞳をルルーシュに投げる
だがそれより早く、ルルーシュがをソファーに押したした事により、彼の瞳を捉える事はできなかった
「何故!何故言わなかった!!俺に、白兜のパイロットがあいつだってことを!!」
アメジストの瞳が揺らいでいた
怒りを湛えている表情は、しかし悲しみとか、焦りとかの感情も一緒に混ざっていた
「何処でそれを知ったかなんて聞きはしない!だが何故、言わなかったんだ!!」
叫ぶように大声でに詰め寄るルルーシュ
は一瞬だけ悲しそうに瞳を伏せてから、きっとアメジストの瞳を見据える
「だって、ルルーシュ白兜のパイロットがスザクだって知ったら悲しむでしょう?」
「はっ、何を今更…実際俺は悲しんでなどいないだろう!もっと早く知っていれば、策を他に…」
「―嘘だっ、ルルーシュ悲しんでるじゃない!すっごく、すっごく悲しんでる」
反論され、ルルーシュはぎろりとを睨みつける
それでもは視線を逸らそうとはしないで、じっと彼を見つめ続けた
「何処をどう見たらそんな偏見が出るんだ」
「分かる!だって…だってずっと敵だった白兜が、スザクだったんだよ?悲しくないわけないじゃない」
大声を出した事により、顔に掛かっていた栗色の髪の毛が白い頬を滑り、直ぐ横に手を付いている彼の手の甲に落ちる
の言葉がぐるぐると脳内を駆け巡り、ルルーシュは目を見開いた
ぐっと下唇を噛むと、静かにの上から退いた
「…言わなかった事は謝る、ごめんなさい…だけどこれは本当だよ?ルルーシュ悲しんでる」
「……」
「悲しいならそう言っていいんだよ?…無理に溜め込んじゃうと、あとがすごく悲しいことになるから」
そっと彼の黒髪に触れる
そのままぎゅっと首に手を回して、彼の首元に顔を埋めた
「あたしだって悲しいよ、だけどそれ以上にルルーシュは悲しいでしょう?悲しむ必要だってある」
小さく呟くようには言葉を繋ぐ
「…あたしはルルーシュが悲しまないのが悲しい」
黒の騎士団の進組織図、と称され、画面いっぱいに図が浮かび出る
次々に役職が発表されていく中で、C.Cとの名前は呼ばれない
そして最後に玉置の名前が呼ばれ、発表は終わる
「C.Cとは役職なし…?」
そっとカレンが二人を見やる
C.Cはその美しい髪の毛を指に絡ませ、弄っていた
はというと、その場にしゃがみ込んでいて、ぼう、とその様子を眺めている
「…?」
興味が無いのか、そう判断したカレンは隣で喋りだすディートハルトに視線を移した
*
「それでは!我がアッシュフォード学園生徒会、風紀委員枢木スザク君の騎士叙勲を祝いまして、」
言いながらスザクのグラスにジュースを注ぐリヴァル
「おめでとうパーティー開始!」
リヴァルの明るい声でパーティーが始まる
それぞれのテーブルに豪勢に盛られたピザを見つめながら、は柱に身体を預けたまま動こうとはしない
その時、やっと部屋に入ってきたカレンを視界の端で捕らえた
「…カレン」
少々遠い位置にいるの声は、周りの声により彼女には届かない
カレンは何か厳しい表情をして、誰かを探しているように見えた
「カレーン、ピザ並べるの手伝ってくれない?」
シャーリーの声も聞こえてない様子で、カレンは人ごみを掻き分けていく
その先にスザクがいるのを見つけたは、まさか、と柱から身体を離した
しかしカレンの後ろに独特の黒髪を見つけ、はそれをやめた
「ざあんねんでした、また仕事が増えちゃったねえ、スザク君」
スザクとルルーシュが何か話しているのをぼう、と見つめていただが、聞き覚えのある声に再び視線を扉に戻す
そこには何故かニーナとともにいるロイドの姿
ロイドの下に歩み寄る金色の髪の毛を見つけ、は軽く目を見開く
「だって婚約者だもん」
その言葉に部屋中がどよめく
勿論、も同様で、え、と声を漏らしていた
「ぬああー」
間に割って入ったリヴァルが奇声をあげて、頭を抱えた
よほどロイドとミレイの婚約関係がいやなのだろう
「あの、もしかして軍務ですか?」
「そ、大事なお客様が船で待っているのでね、勿論、ランスロットとユーフェミア皇女殿下も一緒に」
その言葉に周りの生徒は黄色い声援を飛ばす
すると柱の影で小さくため息を漏らしていたの姿を水色の瞳は捉えた
「あんれー?あそこにいるのはもしかしてちゃん?」
ぎょっとしてはそちらに振り向く
驚いた表情のミレイとニーナの視線を受けながら、実はルルーシュからも痛い視線を受けている
どうも、と小さくお辞儀をすると、足早にその場を逃げようとしたが、スザクの声によりそれも叶わない
「…?来てたんだ?」
「え、まあ、うん、お祝い事だしね」
お祝い事、と言ったときのの表情はどこか複雑なもので、スザクの脳裏に焼きつく
「また来てね、ちゃん?それじゃ、行こうかスザク君」
やっと部屋から出て行ったロイドとスザクを見送って、はくるりと身体を反転させた
なるべく此処から立ち去らなければ、と思考を巡らせて、階段を上っていく
主役がいなくなったパーティーはそれでもざわめきが収まらなかった
枢木スザクとランスロットの捕獲、とゼロに指示を受けたは、白い羽織を羽ばたかせて空を仰いだ
「騎士のくせに…!」
ぎん、と黒い瞳を光らせたは、大きく飛び上がって、司令部を叩いている月下達に続いてナイトメアを破壊していく
するとやはりゼロの予想通り、ランスロットが駆けつけた
ゼロは仮面越しにまた笑みを浮かべているのだろう、はそっと其処から離れて、ゼロ用の無頼を追った
砂地に無頼とともに入っていくランスロット
ざっ、とラクシャータの横に飛び降りたは、面の奥でそれを見つめている
「捕まえた」
ラクシャータの明るい声で、砂地が一瞬だけ紅く染まる
次の瞬間、所々で静電気発生しているようにランスロットの動きが止まった
否、機能を停止させられたのだ、砂地の周りを囲んでいる機械によって
「枢木スザク、単刀直入に言おう、私の仲間になってほしい」
ゼロの声が響く
スザクの行動に神経を研ぎ澄まして伺う
もし万が一ゼロに手出しするようなら、自身が動いていいとの指示だ
「…あんたさあ、ナイトメアも使わずよく戦ってるわよねえ」
隣からの飄々とした声に、は一瞬気を取られる
視線を移せば、にやり、と笑みを浮かべたラクシャータ
「今度いつか調べさせてもらうわよ?その刀とか」
「…いいですよ、多分ラクシャータさんの専門分野かもしれませんし」
にっこりと笑みを零し、再び面をつける
その時、ラクシャータの部下の一人が声をあげた
「あっ」
「…え?」
ばっ、と顔を向ければスザクがゼロの銃を彼自身の首に押し当てていた
「何を!」
「待ちなさい」
今にも飛び出しそうなに、ラクシャータはストップをかける
は刀を抜き出し、戦闘を今にも始めそうな勢いだ
ラクシャータはため息をひとつつき、口を開く
「今行ったら敵の感傷をうけるわ」
「でも!ゼロの身に何かあれば…」
「今は我慢するのね」
手首を掴まれ、身動きのとれないはぎり、と歯を食いしばる
その間にもゼロをランスロットに押し込むスザク
青い空の奥からは数え切れないミサイルが見えた
「離して!」
「今は駄目よ!紅蓮弐式を見なさい!」
そこには同じく機能が停止してしまった紅蓮弐式の姿
黒の騎士団は総員で空からくるミサイルに砲弾している
はひとり何もできない事を悔しく思い、ラクシャータの手を力ずくで振り払った
「待ちなさい!!」
ラクシャータの声も無視してランスロットに向かって走る
カレンも同じように紅蓮弐式が動かなくなってしまったので、自力でそこまで走っていた
「スザク!!やめて!!」
どんなに大声で叫んでも反応はない
すると空が暗くなった
上を見上げれば、青い空が遮られ、そこには見たことも無い機体
その間から蠢く紅い光
一瞬でそれが銃弾だと判断したはこれ以上にほど大きな声で叫んだ
「だめえ!!!!!」
どこか遠くでギアス発動時の頭痛を覚える自分がいたのに、は気づかなかった