朝日が静かに昇る
ルルーシュによるとどうやら昨夜のうちに何度も軍による光を見たらしい
それは間違いなくユフィを探している軍のものだとルルーシュは言い切った

「捜索隊だろうね」
「捜索隊…ユフィのかな」
「そうだろう、確認した上で対応を決めよう」

の言葉に返事を返したルルーシュはざくざくと山を登っていく
小さく対応、と囁いたユフィの声は、にのみ届いた
そっとユフィを盗み見たは、視線を前を歩くルルーシュに戻す

「この辺りだと思うんだが…」
ようやく坂道を登り終えた三人
ユフィは思い切ったように口を開いた

「ルルーシュ、、捜索隊がいたら、この時間も終わりなの?」
「仕方ないさ」
「…」

悲しそうなユフィに、ルルーシュはふっと笑みを浮かべる

「こんな頼りない騎士がお供じゃ、食事すらね、…それに枢木スザク、君の本物の騎士は彼のようだから」

ルルーシュの言葉を耳に入れ、は視線を泳がせる
彼自身、スザクが敵で、しかもユフィの騎士なんて好ましくないはずなのに
それでも笑みを浮かべているルルーシュに、ユフィもつられて笑みを零す

「聞いていいかな?どうして名誉ブリタニア人を…」
「…それは」
「二人ともっ、しゃがんで!」

ユフィが言葉を発しかけた瞬間、の鋭い声がそれを遮る
咄嗟に草陰に忍び込んだルルーシュは、ゼロの仮面をして、音のした方をじっと睨む
の手により一緒に草陰に隠れたユフィだが、悲しそうに瞳を細めて彼女のコートを引っ張った

「何?ユフィ」

なるべく小さな音量ではユフィに問いかける
ユフィは何も言わずにの手に何かを握らせた

「…これは?」
「貴方は私の大切な人です、だからお願いです、持っていてください」

ユフィの泣きそうな表情には小さく頷いて、それを懐にしまった
しかし次の瞬間、ユフィは前方に見えた見覚えのある茶色の頭に、思わず声を上げてしまった

「スザク!」
「え、ユーフェミア様!?」

瞬間、ルルーシュ―ゼロがユフィの手を取り銃を突きつける
もばっ、とゼロの横についてスザクを睨んだ

「動くな!彼女は私の捕虜」
「…カレン、無事だったんだ」
「ゼロ…それにも…」

安心したように息をつくだが、面はついていない
それはそうだ、面は前方にいるスザクの懐にあるのだから

「そこにいる私の部下を返してもらおう、人質交換だ」
「ゼロ、お前はまた!」
「近づくな!…ふっ、卑怯だというのかな?」

一瞬に映された翠の視線は、気づけばゼロに向けられている
も静かに刀を抜き出して、目の前に翳した

「如何なる犠牲を払おうとも、テロリストを排除する、君もこのルールに従い、主を見捨ててみるか?」

後ろでは静かにカレンが、結ばれた腕を前に持ってきている
そして次の瞬間、カレンがスザクを自らの腕と腕の間に捕まえた

「っ、おやめなさい!」

慌てたようなユフィの声に、カレンは嘲笑うかのように叫ぶ

「黙ってろ!お人形の皇女が!一人じゃなにもできないくせに!」
「なっ!構いません!スザク、私のことは気にせず戦いなさい!」

カレンの言葉が癇に障ったらしく、ユフィも負けじと声を荒げる
すると一瞬の隙をついたスザクがカレンの腕から抜けて、ユフィの前に立ちはだかった
そしてとルルーシュがカレンの方に近寄った瞬間だった

「なっ!」
「…っ!!」

周りが紅く染まった
そして浮かび上がるギアスのマーク
は考えられないほどの頭痛に襲われ、一瞬目の前が真っ暗になる

「くっ」

ぎゅっと目を瞑ったと同時に、五人がいた地面が地震かのように揺れ、そして崩れていった
気づけば砂煙が大きく舞い上がっていて、紅い光もなくなっていた

「あれは、枢木少佐と、まさかゼロ!?」

聞き覚えのある声がした
その後に次々と銃が自分達に向けられる

「馬鹿者!!ユーフェミア様もおられる、確保だ!確保しろ!!」

誰とも知らない声に、はようやく我に変える
持っていた刀を握りなおすと、カレンの声でナイトメアに移動するゼロが視界の端で見えた

「行くぞ!」

ゼロの声に頷きながら、はユフィとスザクの前に現れる軍人に懐の拳銃を取り出した

「来るな!」

叫ぶ少女の声のあと、響く銃声
が軍人達に放った威嚇射撃だった
それに足元を竦ませるもすぐさま体制を取り戻すブリタニア兵
だが既にゼロの手により逃亡経路は出来上がっていた

!早く!」

カレンの声にも同じようにその黒の大きなナイトメアに飛び乗る
そして見えた眼鏡の男性に、は大きく目を見開いた

「ロイドさん…!」

下にいるロイドの口元もぽかん、と開いたままを見つめていた
しかしゼロはそのままナイトメアを発進させる
前方に見えてくるナイトメアに、はぎゅっと刀を握った

「ゼロ、前方のナイトメアはあたしが…」
「いや、いい、このまま突っ込むぞ」
「うぇ?」

カレンの少々間抜けな声が響く
ナイトメアの肩にもなる部分が開くと、不自然な赤い光が飛び交った

「うやあっ!」
「ちょっ!」

目の前に発射されなかったそれは、四方に飛び散り、上からは崩れた岩が落ちてきた
それでも止まらないナイトメア
幾台ものサザーランドを目の前にしてでも止まらず突っ込んでいくのだから、そろそろは冷汗を垂らす

「ゼロ!ナイトメアが!」
「安心しろ、もう一つは起動している」
「え?」

その瞬間、ふわりと地面から遠ざかっていくナイトメアに、もカレンも同じように声をあげた

「ナイトメアが、空を飛んだ?」
「空を、飛んでる!」

小さくなっていく軍隊に、は笑みを零した











「…くん、スザク君!」

セシルの困ったような声で、ようやくスザクは顔をあげる
目の前には数冊のファイルを持ったセシルが心配そうに自分を見つめていた

「大丈夫?ずっと上の空みたいだけど…」
「あ、すいません…」

素直に謝れば、再びセシルの表情は曇っていく
それでもスザクは俯くと、やりきれない思いを漂わせて指を弄っていた
ついに痺れをきらしたセシルが、思い切って口を開いた

「…さっきのこと、まだ気にしてるの?」

"さっきのこと"とは第二級軍機違反と称された容疑がスザクにかけられていたことだ
あの場はシュナイゼルの言葉により、スザクは特派に返されたが、しかし彼自身はずっとこの調子だ
顔をあげ、もう一度謝罪の言葉を並べたスザクは、ぐっと眉を寄せた

「(僕はまた守られた…、今回だってシュナイゼル殿下に…)」

下唇を噛んだままのスザクに、セシルは困ったように彼を見つめることしかできない
今だパイロットスーツのスザクは、響いた声に顔をあげる

「スザク君、ちょっといいかな」
目をやれば、扉に背中を預けたロイドの姿
しかしロイドにも、いつもの飄々とした口調や表情はなく、ただ水色の瞳をじっとスザクに向けている
セシルに軽く一礼したスザクは、静かに立ち上がり、ロイドの下へと行った
そのまま特派をあとにした二人に、セシルは更に眉毛をへの字にさせ、ため息をひとつついた





「聞きたい事があるんだけど」

はい、とスザクが答えれば、真剣みを含んだ瞳がレンズの奥で揺れる
スザク自身、ロイドの言う聞きたい事、など検討がついていた

「君はあの時、いきなり僕達の前に崩れてきた岩の上にいたね?」
「…はい」

スザクの翠の瞳も宙を彷徨っていた
ロイドは今だ彼に視線を投げないまま、口を開く

「それじゃ聞くけど、あの時君は誰といたんだい?」
「…それは」
「君と、ユーフェミア皇女殿下と、ゼロ、黒の騎士団の団員の女性、そして」

スザクは固く瞳を瞑った

「――ちゃんだね?」

静かに言い放たれた言葉は、颯爽としている特派内と違い、誰もいない部屋でよく響く
暫く沈黙を守っていたスザクは、思い立ったように瞳を開いた
ロイドもそんなスザクに気づくと、小さく息をひとつついた
「僕の見間違いかもしれない、でも君は確実に島にいるときあの子と会ってるね?彼女は面をしていなかった」
「…」
「ということは、彼女の素顔を君は見たはずだ」

淡々と並べられる事実に、スザクは黙ってそれを聞く
普段の彼からは考えれないような声色で、ロイドはチェックをかけるように言い切った

「真実を言うんだ、枢木少佐、彼女はちゃんなのかい?」

ぎゅっと拳を握った後、スザクはそっと水色の瞳を見る
そして静かに口を開いた