「おい、あれ!」

慌てた口調の扇が指差す空には、見たこともないような大きなナイトメア
それだけならまだしも、そのナイトメアは空を飛んでいるのだから、皆目を疑った

「あのナイトメアはなんなんだ…!」

しかし段々と近づく内に、そのナイトメアにカレンとが乗っているのに気がつく
砂埃をを舞わせ、ナイトメアはゆっくり地に足を着いた
と同時に、肩部分に乗っていたカレンが勢い良くそこから降りる

「カレンっ!無事だったのか」
「はい、ご心配掛けてすいませんでした」

にっこり微笑んで、カレンは頭を下げる 扇以外のメンバーも、そんなカレンの様子に安息の息をついた
そんな一瞬の和やかな雰囲気にはそっと笑みを零すと、少し離れた場所で柱に寄りかかっているC.Cを捕らえた
迷わず彼女に駆け寄ったは、躊躇することもなくC.Cに抱きついた

「C.C!」

より僅かに身長の高いC.Cは、驚いた表情も見せることなく彼女を受け止めた

「C.Cー、よかったあ」
「それは私の台詞だろう、まったく」

いきなり抱きつくを受け止めるC.Cに、カレンを含め、皆が呆然としてしまった
すると、そうだ、とは顔をばっとあげる

「ゼロが…」
「カレン」

の呟くような声も遮って、鋭い声が響いた
いつの間にかゼロの指示を受けた扇が、彼の横で分かった、などと返事をしている
呼ばれたカレンは、少し驚いた様子ではい、と肩を震わせた

「今日はよく休んでおけ」

優しいともとれる口調のゼロの言葉
それに一瞬驚きの表情を見せたカレンだが、嬉しそうに返事をした

「それと
「はーい」

今だ自分を抱きしめていたC.Cの手をやんわり退け、後でね、と微笑みかけたは振り返ることもないゼロの後を着いていく
潜水艦に消えていく二人を暫く見つめてから、C.Cは小さく息をついた





「話すことがあるだろう」

ようやく仮面を外し、一息ついたルルーシュは静かにに言い放つ
どっかりと椅子に座る彼を見つめてから、もソファーに座った

「ユフィのこと?」
「スザクのこともだ」

返答はしないくせに、ルルーシュは眉間に皺を寄せながら言った
何がそんな不満なのか、と思いながらも、それでもは口を開いた

「ユフィはさっき言った通り河口湖の時に会って、その後軍で会ったの」
「軍、か…いつ行ったんだ、そんな所」
「あたしが、飛び出してきちゃった日、ルルーシュ達がリフレインのアジトに行った時だよ」

思い出す仕草をひとつも見せず、淡々と続ける
ルルーシュが漂わせる雰囲気が怒りに似ているものだったのに、は少しだけ気づいていた

「その時に偶然スザクに会って、連れて行かれてたっていうか…そこでユフィに会ったの」

言い終ってから、ルルーシュの瞳をじっと見つめる
ふう、と息をついたルルーシュはスザクは、と続けた
薄く口を開いただが、すぐにそれをやめてしまった
それを不審に思ったのだろうか、ルルーシュは彷徨わせていた視線をに戻す

「言えないのか」
「…スザクには、見られちゃっただけ、あたしのミスだから」

声色はどこか重く、沈んだものだった
マントを脱ぎ捨てたルルーシュは、いつの間にかの前に立っていて、彼女に降り注ぐ光を遮っていた

「…まさか俺のことは」
「言うわけないでしょ、…スザク、すごく悲しそうな顔してた…どうして」

の言葉に、ルルーシュは思わず反応してしまう
スザクがに好意を寄せていることは、ルルーシュも感づいている
だからこそ、が黒の騎士団と知って、悲しんだのだろう

「もうスザクとは、話したり、ふざけたり、なんにもできなくなるのかな」

その瞳があんまりに繊細なもので、どこか悲しそうなものだったからルルーシュはかっと血が巡るのを感じた
それが嫉妬という名の感情だというのに、ルルーシュは気づきもしないで

「…そんなにスザクといたかったのか」
「違うよ、そういうわけじゃないけど…スザクにはバレちゃったから、もう…」
「違わない、要はスザクと関わりがなくなるのが恐ろしいだけなのだろう」
「違うっ、だってスザクとはもっと友達でいたかっただけだもん!」

思わず声を荒げてみても、ルルーシュに言葉で勝てるはずもない
悔しそうに、それでもルルーシュをじっと見つめる
見下ろしてくるアメジストの瞳は冷たいものに変わっていた

「ルルーシュだって悲しかったでしょう、スザクがあの白兜のパイロットだってこと」

言いようのない感情に飲まれ、ルルーシュもも折れようとはしなかった

「お前はいつだってそうだ、人の心配などといって慰めの言葉を掛ければいいと思ってる」
「あの時は違う、ルルーシュは悲しんでいたじゃない」
「偏見だな、誰が悲しいだなんて言った?…大体俺にもう悲しむなんて選択肢はないんだ」
「ならあたしが…「だからっ!」

ルルーシュの荒げられた声が、の動きをぴたりと止める
唇をぐっと噛んで、ぎろりとの黒の瞳を睨むルルーシュは、嘲笑うかのように口元を緩めた
そして困惑したような、揺らぐ瞳のに言い放った

「自分でそれが心配だと思っているのか?…いらない感情を押し付けて、自分自身が満足してるだけじゃないか」

一瞬大きく見開かれる黒の瞳
ルルーシュはそのまま視線を逸らした
訪れるのは、居心地の悪い沈黙だけで、ルルーシュはの前から退くと、再び椅子に腰掛けた

「…そっか、うん、そうだよね」

俯くから漏れる震えた声

「所詮、あたしの自己満足だったんだ」

確実に震えていた声は、それでもそれを悟られないように必死に振り絞られている
そっと立ち上がったは、肩を竦めて無理やり笑みを見せた

「…ごめん」

見せたこともない笑みは、ルルーシュ自身に自分が言ってしまった言葉を思い返させる
ようやくはっとしたルルーシュだが、静かに部屋を出て行くを止める術を知りはしなかった

「…くそっ!!」

だん、と机の端を叩いても、鈍い音とじんわりと痛みが伝わるだけで、何も変わりはしない
嫉妬の感情に飲まれ、妙なプライドが彼女を傷つけてしまった
C.Cのいつかの言葉がルルーシュ脳内を巡っては消えていく
「…くそ」
「おい、ルルーシュ、今が出て行ったぞ、なんだ、また喧嘩か?」

そこへC.Cがひょっこり顔を覗かせる
いつものように軽いノリで言ってみても、ルルーシュの視線は向けられない
首を傾げるC.Cは、何も語らないルルーシュにため息をついてから、の後を追った





「…ルルーシュの言ってることって正論すぎだよね」

小さく息をついたは、今だ残る涙の痕をぐいっと拭いた
それをじっと見つめるC.Cは、一瞬眉間に皺を寄せてから口を開いた

「喧嘩か?」
「…そういうわけじゃない、と思う」

部屋の外に出たとC.Cは、簡単な階段のようなところに座り込んでいる
笑みを浮かべているくせに、の表情は暗く、重いものだった
から聞いた話に、C.Cはそうか、と一言発するだけだった

「ルルーシュに、ゼロに、あたしって必要ないのかな」
「…何故だ?」
「だってそうでしょ?ゼロにはもうカレンという騎士がいる、黒の騎士団だってちゃくちゃくと強くなっていってる」

おもむろにC.Cに振り返ったは、にっこりと微笑みかけた
「自己満足って言われちゃったんだよ?あたしなんかいなくたって、何も変わらないよ」





C.Cとゼロがガウェイン単独でランスロットと手を組む
扇からの言葉に、は頷いただけだった

「…」

部屋の扉の一歩前では足を止める
そしておもむろに懐に手を差し込み、指先にあたったものを静かに取り出した

『貴方は私の大切な人です、だからお願いです、持っていてください』

いつかのユフィの言葉が鮮明に甦ってくる
は掌の中にあるそれをじ、と見つめる

金色と紫がかったブローチのようなそれは、真ん中に花の様なものが彫られていて、いかにも高価そうなものだった
これが何なのかは知らないが、ユフィがあんな顔をしてまでくれたものだ
は大事そうにそれをまた、懐にしまうと、ようやく部屋の中に足を踏み入れた

、何処行ってたのよ」

部屋に入れば、既にメンバーのほとんどが揃っていた
視線の先には、ランスロットとともにフクオカ基地を攻撃しているガウェインがモニターに映し出されている
カレンが少し驚いたような表情でに近づいてきた

「ごめん、ちょっとね」
「そう?」

団服に着替えたは、そっとテーブルに腰を預けて、モニターを見やる

「ブリタニアから逃れるためにも、ガウェイン単独での作戦は正解でしたな」
「でも紅蓮が壁になればもっと楽に、どうせ私は家にも学校にも帰れないし…今更ランスロットなんかと手を組まなくたって」

ディートハルトの言葉に反発するかのようなカレンの言葉は、ランスロットに対しての嫉妬だろうか
かわいいな、と思いつつ、も同じようにモニターを見つめる

「共同作業、か…」

スザクとルルーシュが、ブリタニアと日本が、
交じり合えない黒と白の騎士は小さく、大きな勝利を齎した