「確かに!中華連邦の介入や黒の騎士団によるテロ行為で世間は色々騒がしい…しかし、これとそれとは別問題」

淡々と告げられる教師の言葉など耳に入らず、は必死に目の前の問題と葛藤している
そのすぐ横で涼しい顔をしながらも、面倒くさそうにペンを動かすルルーシュ
そしての斜め後ろで、同じように真面目な顔でペンを動かすスザクの姿があった

「出席日数が足りないというこの事実!」

が疲れた瞳でそっと教師を見上げた

「いくら成績よかろうと、いくらユーフェミア様の騎士だろうと、転入生だろうと
出席日数が足りなければ留年しかないの!」

どんなに叫ばれても、分からないものは分からない
は絶望状態で、もう一度問題をじっと見つめてみる
隣のルルーシュがため息をつくのがの視界の端で捉えられた

「…る、ルルーシュ、此処教えて…」
「そこお!何喋ってるの?」
「だっ、だって分からないんです!」
「そこは何度復習したと思ってるの!?自力で解きなさい!」

降りかかる罵声に、は今日何度目かのため息と難しそうに眉を顰めた





ばふん、といきおいよくはベッドに倒れこんだ
あー、とかうー、とか唸っているを、C.Cは面白そうに見つめる

「どうした?今日はまた随分と遅かったな」
「…訳の分からない数式がいっぱいでて、何がなんだか…」

毛布に顔を擦り付けるようにしては首を振る
どうやら相当疲れたらしく、起き上がる気配を見せない
はあ、とため息をつくに、C.Cは自然と笑みが浮かんだ

「今日はもう無理、寝る…」
「おやすみ

返事は返って来なかった
そっとうつ伏せになっているの顔を覗き込めば、いつも輝いている黒色の瞳は閉じられていた
薄く桃色の口を開かせながら静かに寝息をたてる
優しく毛布を掛けてやったC.Cは、顔にかかる栗色の髪をの耳に掛けた

「まだ起きていたのか」

和やかな雰囲気をぶち壊すように、ルルーシュが部屋内に入ってくる
そう、此処はルルーシュの部屋
そんなことも忘れ、は気持ちよさそうに夢の世界へと旅立っていた

「悪いか?」
「誰もそんなこと聞いていない」
「なら聞くな、それよりお前、今日はリビングで寝ろよ」

は?と眉を顰めるルルーシュに、C.Cは視線をに投げる
歩みを進め、ベッドのすぐ横まで来たルルーシュは自身のベッドですやすやと眠るを見つけた
少し驚いたような表情の後、小さく吐き出されるため息
しかしそのため息にさえ、温かみがあるのだから、C.Cはふん、と鼻を鳴らした

「私はの部屋で寝る、…お前、に変なことをするなよ」
「はっ、当たり前だろう」

部屋を出て行こうとするC.Cは、釘を刺すようにルルーシュに振り返る
制服を脱ぎ始めたルルーシュは、少しだけ口角をあげて言い放った
む、と眉を顰めたC.Cだが、思い出したように口を開く

「…お前、ちゃんとに言ったようだな」
「…ああ、これ以上俺の独りよがりでは苦しませられない」
「ならもっと早く気づけ、」

今度こそC.Cは部屋を出て行った
それを確認したルルーシュは、静かにの眠るベッドに近づいた
透き通る白い頬、影ができるほどの睫毛、ふっくらとした桃色の唇
寝ている時こそ、ちゃんと観察できるの顔は、驚くほど整っていた

「…ん、」

が小さく身じろぎをする
しかし起きる気配を見せないので、ルルーシュはそのまま膝を折り、更に顔を近づけた
昨日のこんな時間、はルルーシュに愛の言葉を並べた
自分でも驚くくらい、のことを想っていたルルーシュにとってその言葉は何よりも優しく、暖かいものとなっていた
自然と頬が緩むのを感じながら、ルルーシュはの頬に手を宛てた、その瞬間だった

「  」

それこそルルーシュくらい、顔を近づけなければ聞こえない音量で
それでもの口から発せられた言葉に、ルルーシュは目を見開いた

「…」

複雑そうに、切なげにを見つめるルルーシュ
ぐっと拳を握る
ぱちり、と電気を消したルルーシュは、静かに部屋を後にした











ばん、ばん、と打ち上げられる花火が轟音をたてていく
その後に続くミレイの明るい声で、更に周りが賑やかになっていった

「スタートの声はこの一声からっ」
「あの、いいんですか?」

放送器具の奥から、遠慮がちに聞こえるナナリーの声
そっと笑みを零して、は目的の場所へと向かった

「にゃー」

男子生徒の野太い歓声がところどころで聞こえた
微かに感じるカレンの気配を頼りに、は生徒会室の奥にある食材倉庫に向かう
まさかあんなことがありながらも、学校に来るとは思わなかったからだ
ミレイに聞いた通りに進めば、グレーの扉が目の前に現れる

「カレン、いる?」

言いながら扉を抜ける
しゅん、と自動で空いた扉の奥にカレンはいた

「…
「よかった、いたいた、あのね…」

そこまで言っての声は止まる
笑みも不自然に固まった
その視線の先には、僅かな明かりの下にスザクがいたのだ
の後ろの扉は、音をたてて閉まる

「…す、ざく」
…」

思わず、カレンはの前に立ちはだかる
の表情が、見たことも無いくらい、困惑したものに変わったからだ

「どうしたの、

自分より幾らか低いの瞳を見つめる
はっとしたは、それでも自然と視線はスザクの方へといってしまうのだった

も、学校来たんだね、よかった…」
「…うん、」
「っ、のことも誰にも言わないで、情けを掛けようっていうの?」

カレンの鋭い声が響いた
知らぬ間に、はカレンの制服の端をぎゅっと握っている
スザクは少しだけ悲しそうに視線を泳がせてから、違うよ、と口を開く

「君達のことは言うつもりは無いよ、…学校では説得するのを選びたいから」
「…あんたなんか変わった」

その瞬間だった
しゅん、との後ろの扉が開く
いきおいよく振り返ればそこには見慣れた黒髪

「スザク、トラックが来た、チーズを…」

ルルーシュが眉を顰めるのが、逆光でも分かった
それは学校にカレンが来ているということと、そしてスザクとがいることに対してだった

「あ、うん、体調も悪くないし…」

先ほどとは驚くほど大人しくなったカレンの声色
そっと二人の横に歩み寄ったスザクは、小さな声で囁いた

、カレン、さっきの件は学校では関係ないよ」
「…分かったわ」
「…う、ん」

ぎこちない返事
しかし今のには、それが精一杯だったのだ
ルルーシュは、それでも笑みを浮かべると、口を開く

「よければ、カレンはクラスの方に回ってくれないか?手が足りないらしくって」
「え、ええ、それくらいなら…」

カレンが足早に部屋を出て行く
それを視界の端で追ったも、一刻も早くここから抜け出したいのか、後を追うようにルルーシュの横をすり抜ける

「…、後で聞きたい事がある」

ぱしり、と腕を掴まれ、は身体を震わせた
なるべくルルーシュの瞳を見ないように頷いたは、たっと駆け出してしまった