「ふぅ…」
駆け足で校舎から抜けたは、わいわいと賑わう広間に出た
各クラスで出す店から立ち込める香ばしい匂いに囲まれ、は大きく脈打つ左胸に手を宛てる
「(分かってる、いつも通りにしなきゃ)」
スザクに会い、思わず平常心が保てなくなる
あの翠の瞳がどうも、瞼の裏に妬きついて離れないのだ
ふるふると頭を振り、ミレイに言われていた巨大ピザの準備に自分も加わろうとが動き出した瞬間
の視界に見慣れたエメラルドの頭が入る
「…C.C?」
アッシュフォード学園の制服は着ているが、あの美しく長い髪の毛の女性はそうそういないだろう
声を掛けようと、近づくためにが足を進めると、くるりと振り返るその少女
「」
独特の透き通るような声で名前を呼ばれ、やはり、とは笑みを零した
「どうしたの、こんなとこに」
「世界一のピザが食べられると聞いてな」
流石、と言ったところだろうか
よくもまあ、そんな情報を聞きつけたものだ
自然と零れる笑みに、は躊躇無く笑い始める
「ははっ、C.Cらしいっ!」
「…笑うところではないだろう」
「あははっ、ごめん」
すっかり拗ねてしまったのか、C.Cの金色の瞳が細められる
しかしとてその催し物が何処でやるかは知らなかった
「誰かに聞いてみよっか」
言いながらC.Cの手をとり、生徒会のメンバーを探す
勿論、スザクやカレンを除いて
「あいつでいい」
そう言って、今度はC.Cがの腕をぐいぐい引っ張っていく
それに応じていただが、C.Cの視線が見慣れた黒髪にあることを確認するとぎょっとして目を見開く
だが時既に遅し、が止まろうとした瞬間、C.Cはルルーシュに声を掛けていた
「おい、お前、世界一のピザというのは何処で食べられるんだ?」
「…っ」
「…なんだいたのか」
必死にC.Cの後ろに隠れ、視線を落とす
仏頂面のルルーシュの後ろに、セシルの姿を見つけたからだった
ルルーシュは眉間に皺を寄せ、いかにも迷惑そうにC.Cを見やる
セシルは結局に気づかないまま、元来た道を戻っていった
「…来い」
有無を言わせない態度で、C.Cとそしてをその場から離れなせるルルーシュ
素直についていくC.Cに、も同じように後を追った
「だから世界一のピザを」
「後で持っていってやるから部屋にいろ」
「お前は嘘つきだからな」
目の前で繰り広げられる攻防戦に、はすることもなく、後ろの鉄筋に身体を預けていた
ぎらり、とにも向けられるルルーシュの鋭い視線
言葉はなくとも、何故C.Cといるんだ、とその瞳は言っていた
「それに、お前は…」
「しっ」
ルルーシュが何か言おうとした時、は自らの口の前に人差し指を当てる
の黒い瞳が、扉の方に向けられていた
「誰か来た」
言葉のすぐ後、がたん、と言う物音
毎度のことながら、やはりの聴覚には驚くばかりだ
「見てくる、お前は此処にいろ」
「あたしも」
す、と鉄筋から身体を離したは、同じようにルルーシュの後ろに着いた
ほんのり窓から入る光によって、薄暗い倉庫の中に、三人の人影が見える
その一人がカレンだと認知するのに時間はそう掛からず、ルルーシュも同じだった
「カレンか、此処は関係者以外立ち入り禁止だから早く外に…」
其処まで言って、ルルーシュは言葉を詰まらせる
無論、も同じで、息を呑んだ
カレンの奥には見慣れない女性と、そして扇がいたからだ
「カレン、」
がふいに声を掛ける
ルルーシュもC.Cが見つかっては不味いと同時に、カレンも扇が見つかっては不味い
二人の間の空気が緊張に固まった瞬間、しゅん、と扉の開く音がした
「バーナー用のボンベでしょう?予備は確か奥に…」
「あれ、カレン?」
声と足音からして入ってきたのは二人、そしてその二人がシャーリーとスザクだということに、ルルーシュは更に眉を顰めた
「あ、あの…こんにちは」
「そっちに予備のボンベない?リヴァルが探してて…」
確かにこちらに向かってくる二つの足音に、ルルーシュはふと元いた場所に移動した
其処に座ったままのC.Cは、ふ、と笑みを零しながら嘲笑うかのように口を開く
「ギアスを使えばいいだろう?」
「…扇や良く分からない奴に使うのは危険だ、それに他のメンバーは使用済みばかり…」
小さな声で喋っている所為か、二人の会話はには聞こえなかった
だが近づいてくるスザクに、も内心焦っていた
それでも思わず声をあげてしまったルルーシュに、シャーリーが気づく
「ルルーシュ?いるの?だったら話したいことが…て、もいたの?」
「え、あ、うん」
近づく内に、視界にを捉えるシャーリーとスザク
なるべくスザクの方を見ないようにしているは、こつこつと歩み寄ってきたルルーシュに視線を投げる
右手に何かを持っているのに気づいたのは、一番近くにいるだけだった
「一騒ぎを起こします…」
カレンのぼそり、という声が合図だった
「あー!大変、パネルがー!逃げてっ!」
巧みな演技といったものだろう、
しっかり結ばれていたパネルを束ねる紐を切ったカレンは叫んだ
しかしその下にいるシャーリーは驚きのあまり、その場に固まってしまう
思わず固まるなー、と叫んでしまうカレンだった
「シャーリー!」
ルルーシュも飛び出す
だがその弾みで右手に持っていたスイッチを押してしまうルルーシュ
たちまちその場には紫の煙が立ち込めた
「あの、ありがとう…」
間一髪でパネルを支えるルルーシュとスザク
そしてシャーリーを押し倒しながらも彼女を助けたカレン
その場にいた全員がほっと一息ついたが、パネルが倒れたことにより隣に置いてあった鉄筋が
今だパネルの下にいるカレンとシャーリーを襲う
「カレン!シャーリー!」
パネルを支えていて、助けることができないスザクが叫ぶ
しかし其処はが飛び出した
「…大丈夫?」
驚くほど早い動きで鉄筋全てを受け止めたは、にっこりと二人に微笑みかける
がしゃり、と鉄筋を床に落としたは、しかし立ち込める紫の煙に首を傾げた
「この煙は?」
「ガス漏れの検地用だろう、バルブが緩かったみたいだな」
そっか、と呟くだが、スザクの声でくるりと振り返る
「そんなことより、助けてくれないかな…」
「どうしたの?」
「…足元にっ、よく知った感触が…!」
そう言うスザクの足元には、見知った紫の影
ひょい、とアーサーを抱き上げたは、思わず笑みを零した
「ふふっ、こんな時まで噛みたいの?」
スザクとばちり、と視線がかち合うと、は肩を竦めて笑みを浮かべる
驚くようなスザクの翠の瞳
しかしは、大丈夫?と問いかけながらパネルを支えるのを手伝い始めた
「こーゆーのは、任せてっ」
言うと同時に、は思い切りパネルを押し返すのだから、スザクもルルーシュも目を丸くする
だが予想とは裏腹に、ぐん、と反り返ったパネルはそのまま元の位置に戻ると動かなくなった
「すごい、」
「どんな力なんだ」
漏れる感嘆に、その場はやっと緊張が解けた