「あ、」
前をとっとと歩くルルーシュに着いていくに、スザクは慌てて声を掛ける
びくり、と身体を揺らしながらも、少しだけ顔をスザクに向けるは、明らかに前を行くルルーシュを意識していた
それでもたっ、とに近づいたスザクは一瞬、視線を泳がせてから口を開く
「あの、少し話したいことがあるんだけど、いいかな?」
「え、と、…」
何をこんなに緊張する必要があるのだろう、と自身で呆れながらもは唇をかみ締める
スザクと視線が合わせられない
先ほどはパネルを戻そうと思わずスザクに笑みを零してしまったが、今になって自己嫌悪に陥る
ぐるぐると脳内にあらゆる思考が回った瞬間、ぽん、と肩に手を置かれた
「悪いなスザク、は今から一緒に巨大ピザの整備があるんだ」
「…そうなの?」
「ああ、だからもう行かなきゃなんだ」
下に俯くの肩をぎゅっと抱き寄せ、そのまま連れて行こうとするルルーシュ
しかしその白い腕がぱしり、と掴まれ、はぐん、と歩みを止められた
「…何」
「なら、後でを借りてもいいかな、ルルーシュ」
の腕を掴みながら、上目でルルーシュを確認するスザクの纏う空気が少しだけ冷たいものに変わる
見られないように、しかし不機嫌そうな表情をしたルルーシュだが、小さく息をついた
「暇になったらな」
腕を掴む手が離れたと思ったら、すたすたとを連れて離れていくルルーシュ
そんな二人をじっと見つめながら、スザクは拳を握りしめる
こちらを振り向こうともしないだったが、表情は浮かないものだった
「…ルルーシュ、痛い」
ぎりぎりと手首を掴まれ、は少々顔をしかめながら訴える
それでも歩みをやめずに、こちらを見向きもしないルルーシュだったから、は頬を膨らませた
このままルルーシュの思うとおりにしたくないは、力ずくで腕を振りほどく
その所為でルルーシュはやっと足を止めた
「なんだ」
「…何怒ってるの」
「怒ってなどいない」
表情からしてどう考えてもルルーシュは怒っていた
しかしどうして其処で怒るのか、とは首を傾げて彼の顔を覗きこむ
「ねえ、」
ぐ、とルルーシュの制服を掴む
ようやく固まった息を吐き出したルルーシュは、自身の制服を掴む手をとった
「なんでもない、悪いな、腕」
そう呟くように言ったルルーシュは、紅くなってしまった細く白い腕を優しく摩る
少し冷たいルルーシュの指先が心地良く熱い手首に絡みついた
そして今度は手首ではなく、指に自分の指を絡ませ、ルルーシュは歩みを進める
「何処行くの?」
「ピザの調整、会長から任されているんだ」
ふうん、と喉を鳴らしたは、ふと賑わっている広場に目をやる
既にリヴァルはステージに準備していて、その周りにはたくさんの人がいた
「楽しそうだね」
がちゃり、と扉に手を掛けたルルーシュは少しだけに視線を送る
しかしそのまま中に入ると、はわー、と感嘆の声を漏らした
「こっから見渡すんだねー」
「まったく会長も人使いが荒いんだからな」
「でも会長のおかげでしょ?こんなことできるの…たまにはルルーシュだって…」
の言葉の合間に、無機質な呼び鈴が鳴り始める
それがルルーシュの携帯電話だと分かると、どうぞ、とは笑みを零して口を閉ざす
だが次にルルーシュから漏れる名前に少しだけ反応を見せた
「もしもし、ん、シャーリー?」
ぴくり、と指先が動く
「ごめん、ちょっと出るね?」
笑みを浮かべたまま、は身体を反転させると其処を出て行く
無意識か、本能なのか、は分からずして足を進めた
「え、あ、悪い、なんだって?」
急に其処を出て行くを不思議に思いながらも、ルルーシュはシャーリーの話に耳を傾けた
下から見上げてみても、リヴァルの顔はどう見ても楽しそうなもので、は小さく笑みを零す
ステージの下を囲む人だかりも、顔つきからして日本人が多いようだった
それに安心したようなため息を漏らしただが、ふと視線を泳がせる
「…馬鹿みたい、…馬鹿」
ぽつり、と呟いても周りの騒音でそれもすぐにかき消される
するといつの間にか下に下りたのか、リヴァルのすぐ横にあった布が盛大に落ちていったのが見えた
そして現れたのは見たことの無い青いナイトメア
リヴァルの説明によると、ガニメデ、というアッシュフォード家のものらしく、胸あたりにはそれらしき紋章が掘られていた
「操縦するのは!我が生徒会風紀委員にして、ユーフェミア殿下の騎士、枢木スザーク!!」
リヴァルの言葉の後、盛大な拍手が送られる
あんなに目の仇にされていたスザクがこんなにも拍手を送られることに、は自然と頬が緩んだ
「あ、ルルーシュ」
ぼう、と突っ立ているだけで随分と時間が過ぎていることに気づいたは、来た道を帰ろうと身体を反転させるが足を止める
どうせスザクと話すことになるなら、彼の仕事が終わるまで此処にたほうが素直な判断だとは決め付ける
そのままスザクの見事なナイトメアの操縦を見つめていたが、急に辺りが騒がしくなった
「ユーフェミア様だ!」
誰かの声がいやに響いた
視線を移してみれば、そこには美しいピンク色の髪を靡かせた女性が立っている
逃げるように正面玄関に走っているが、追うように取材のカメラや生徒も走っていた
「ユフィ…?なんで」
好奇心に勝てない生徒達はどんどんと正面玄関に向かっていく
スザクの制止の声も虚しく響くだけで、そうこうしている間にピザがあらぬ方向に跳んでいった
ばさり、と木の上に落ちたピザを合図に、も其処を後にする
大きな発砲音
それを発したのは軍人らしく、丁度来ていたセシルが叫んでいた
「いい加減にしなさい!何をやっているんですか!?相手は副総督にして第三皇女殿下ですよ!!」
さっ、と周りを付き人らしき人が囲む
だが負けじとカメラを構えた三人組みが其処に突っ込んだ
「一言だけ!一言だけお願いします!!」
しかしそのアナウンサーの口を白い手が塞いだ
驚いてその女性が視線を移せば、鋭い視線が彼女を襲う
「何を考えているの?ブリタニアのテレビ番組は、自分の身分も弁えられないの?」
す、と驚くほどしなやかな動作で、静かにユフィの前に立ちはだかるは、それでも軍人と近くにいるのは好ましいことではない
この間の一件で、軍の一部のものにはの素顔が知れているからだった
だがカメラをぐ、と強い力で他の方向に向けさせると、視線だけユフィに向ける
「…」
「ちゃん…!」
瞬間、ユフィの足元を見慣れない機械の手が掬った
それを視線で追えば、スザクの乗るガニメデにたどり着く
「ご無事ですか、ユーフェミア様?」
小さく息をはいたは、それを確認すると、其処を後にするかのように歩みを進めた
だがユフィの口から告げられる言葉に、思わず足を止める
「…この映像、エリア11全域に流してもらえますか?…大切な発表があります」
真剣みを含む声色だったから、は顔をそちらに向ける
「神聖ブリタニア帝国エリア11副総督ユーフェミアです、今日、私から皆様にお伝えしたいことがあります」
こんなにイレブンがいる所で何を発表するつもりなのか、
は微かに眉を顰めて耳を傾けた
「私ユーフェミア・リ・ブリタニアはフジサン周辺に行政特区ニッポンを設立することを宣言いたします!」
ユフィの手がそれらしく翳される
耳を疑う、というのはこういうことなのだろうか
思わず顔だけではなく、身体全部を向けて目を見開くの顔は驚きで染まっている
「この行政特区ニッポンでは日本人という名前を取り戻すことができます、
イレブンへの規制、ならびにブリタニア人の特権は特区ニッポンでは通用しません、ブリタニア人にもイレブンにも平等な世界なのです!」
淡々と述べられるユフィの言葉に、声色に、迷いはもうなかった
彼女なりの答えなのだろう、これが
しかしその答えに彼はどう感じたのだろう
「ゼロ!私と一緒にブリタニアの中に新しい未来を作りましょう!」
ピンク色の姫が大きく彼に叫ぶ
間違いなく、この声の聞こえる範囲にいるであろうルルーシュの表情が思い浮かんだ
ユーフェミア様!、と周りのイレブンが叫び始める
はどうしようもなく、ただ拳を握り締めた
「…ルルーシュっ…!」
あの頃にはもう戻れないというのに姫はそれを望んでいく