騒動もおさまり、生徒達は後片付けに追われていた
飛んでいってしまった巨大ピザも回収済みだし、大きな釜も解体が進められている
そんな様子を手伝う素振りも見せずに眺めているのは
元々クラスの出し物にも最初から加担していたわけではないので、片づけをするものがないと言った方が正しいだろう
「」
そんな中、自分の名前を呼ぶ声が後方から響く
その声が声だったから、は少しだけ警戒して身体を反転させた
「…スザク」
「あの、ちょっといい?」
ガニメデも収容されたらしく、同じくやることのないスザクは視線を泳がせながら告げた
は少しだけ言葉を詰まらせるが、小さく頷く
「ちょっと、こっち来てもらっていいかな」
言いながら校舎の裏側へと歩みを進めるスザクに、はルルーシュが回りにいないことを確認して後を着いていった
「えと、…いきなりごめんね」
人気が全くない裏庭に二人はいた
大きな木が立ち並ぶ其処で、スザクはバツの悪そうな顔で口を開く
「…話したいこと、あるよね?」
ちらりと、が上目で彼を確認するとスザクは何を迷っているのか、視線を泳がしているばかりだ
しかしはそんなスザクの様子に悲しそうに目を伏せる
ぐるぐると頭を回る、あの島での出来事
もう、前みたいになんの躊躇もなく普通に会話することすら出来ないのか、とは拳を握った
「あたしのこと、軍の人には言わないんだね?」
「え」
「さっきセシルさんに会ったけど、彼女普通にあたしの名前を呼んだ」
あの状態では名前を呼ぶことぐらいしか、困難だったからかもしれないが
の言葉に、スザクは大きな反応を見せた
「ロイドさんは、あの時僕達五人の中に君がいた、と言っていた」
「…」
急に赤い光に包まれたかと思えば、いきなり崩れた地面
そして気づけばブリタニア軍の中にいた、あの時
確かにあそこにはロイドがいたし、ばっちり目も合ってしまっている
気づかない方がおかしいだろう
「それで…」
「僕らが特派に戻ったその日、ロイドさんに聞かれたよ、あれはちゃんだね?と」
スザクのことだから、真実を言うに決まっていると判断したは視線を下に投げる
ブリタニアに忠誠を誓って、それに加え驚くほどの生真面目さのスザクが上司に嘘を告げるはずが無いのだ
しかしスザクの口から漏れた言葉には目を見開く
「ノーだよ、僕の答えは」
「…え?」
「あれはではない、と言った、」
真っ直ぐな瞳でこちらを見つめるスザクに、の頭の中は糸が絡まったかのように混乱した
「…なんで、なんで言わないの?スザクは軍人なんだよ?どうして…」
「僕もね、よく分からないんだ、あの人の言葉がいやに頭を巡ったかと思えば僕は否定の言葉を漏らしていた」
「…な、んで」
大きな黒い瞳がしっかりとスザクの視線を捉えて揺らぐ
それでもスザクは自潮するかのように口元を緩めて頭を掻いた
「軍人失格かもしれない、だけど僕はイエスとは言えなかった、どんな状況だろうと」
「…な、にそれ…、同情?」
思ってもいないような言葉なのに、の口からは動揺からか、そんな言葉が飛び出す
それをちっとも悲しそうな顔も見せずに返答していくスザクに、は自己嫌悪に陥った
何故、彼は自分のことを言わない?自分は彼をもう切り捨てたのに
―そう、自分の主に忠誠を誓うと同時に
「…ごめんね、でも僕はどうしても…、」
「…スザク」
彼の言葉が不自然に遮られる
それを遮った声は、微かに震えていて
「ありがとう」
今度は翠の瞳が見開かれた
「もうあたしもスザクも後戻りはできない、二人とも違う道を歩んでいるから、だけどあたしはスザクとの縁は切りたくない」
もう彼を好きになることは許されないから、だからせめて友という器にしておきたかった
の中で、スザクを捨てることはもうできなかったのだ
「こんな会話いやだよ、もっと前みたいに…っ、前みたいな関係に戻りたい」
あたしの我侭かな、と困ったような笑みを見せるに、スザクの身体は無意識に彼女を抱きしめていた
いきなりのことで驚くに構わず、スザクは続ける
「黒の騎士団は僕の敵だ、だから情けは許されない」
「うん」
「だけど、どうしても君だけはっ…」
腕に込められる力が更に強まる
細い身体にそんな力をかけられれば痛いはずなのに、は抵抗する素振りを見せない
それどころか、少しの迷いを見せながらも彼の背中に手を回した
「戦場で会えば君は敵だ、僕も君の敵だ」
「うん」
首元に掠る彼の茶色の髪の毛が時折くすぐったい
それでも声が所々に震えていたから、はぎゅ、と目を瞑りそれを振り払うかのように力を込めた
「…君に好きって伝えられたら、どんなに幸せだろうね」
「…」
「好きだよ、好き、愛してるんだ」
す、と腕から開放される
すると目の前には今にも泣きそうな揺らいだ翠の瞳があった
息が掛かりそうな距離でのスザクの愛の言葉には返す言葉が見つからない
「一人よがりでいいから…」
そう言って、スザクは自分の唇をのそれに押し付けた
「もう、行かなきゃ」
スザクの腕の中のはぽつり、とそう呟いた
「…ルルーシュが探してる、きっと」
「そう、だね」
言いながら小さなの身体を開放させてやったスザクは、それでもその白い腕を掴んだ
ちらりと見上げられたの瞳にスザクは思い出したように口を開く
「最後に、気をつけてほしい」
「…何を?」
軍人に顔を見られたのだ、気をつけるに越したことは無いが
それでもスザクの真剣な表情には首傾げる
「あの時、ロイドさんの隣にいた人、憶えているかい?」
そう言われ、は記憶の糸を辿る
驚いてこちらを見上げるロイドの横に、確か二人の男性がいたはずだ
一人は色黒の小さな眼鏡をつけた人、そしてもう一人は
「あの金髪の人?」
「そう、あの方はシュナイゼル殿下、ブリタニア帝国の第二皇子だ」
急に改まるスザクの口調に、それほど上層部の人間なのだとは判断した
だけれどそれ以上にスザクの表情は真剣に固まっている
「その人がどうしたの?」
「僕達特派はシュナイゼル殿下直属の部隊でね、あの方の指示で動いているんだ」
だからどうしたというのだろう
なかなか話を切り出さないスザクに、時間に追われているは眉を顰める
しかしスザクから告げられた言葉は予想もしていなかったもので
「シュナイゼル殿下の部隊は君を狙っている、あの日以来君の能力を興味を示したらしいんだ」
「あたしの…」
「そう、だから黒の騎士団の活動とともに君を捕らえる計画が進められている」
さすがのも、驚いた表情のまま固まってしまった
「だから気をつけてほしいんだ」
ぎゅ、と掴まれた腕に力が篭った
だがそれに痛みを覚えるよりも先に、の顔から血の気が引いた
「スザクっ、あたしもう…「誰かいるのか?」
黒の瞳がこれ以上ないくらい困惑の色に染まって、そしてスザクの後ろから響く声が二人の動きを停止させる
ゆっくりとスザクが振り返るとそこには見慣れた黒髪の彼がいた
「…、スザク」
ルルーシュのアメジストの瞳がす、と細められて二人を交互に見た
「なんでこんなところに」
彼の周りの空気が固く、冷たいものに変わる
の腕を掴んでいたままのスザクは、やんわりとそれを開放して笑顔を浮かべる
「話をしていただけだけど?何か用でもあったかい?」
「る、ルルーシュ」
目に見えるほど動揺しきっているはルルーシュの顔を見ることすらできない
そんなを挟んでルルーシュとスザクの間の空気は緊張に固まる
とスザクが一緒にいることが気に入らないのか、ルルーシュの表情は若干不機嫌さを伴っていた
しかしスザクの表情もいつも見せるものとは少し違っていて
「…来い、」
びくり、と身体を揺らしては視線をあげる
そんなの腕を掴んだルルーシュは、其処から一刻も早く立ち去ろうと、身体を反転させたがスザクの声にぴたりと止まった
「そういうことだから、気をつけて」
が頷いたのが分かる
それを確認したルルーシュはざ、ざ、とを連れて其処から消えた